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僕が”生きててよかった”と思えるとき。

ちょくちょく僕のところには、ホームページの問い合わせフォームよりメッセージが届く。メールでお知らせが来ることになっているんだけど、その多くは講演依頼。そしてときどき取材依頼だったり、講演を聴いた誰かが感想を書いて送ってくれたりする。

いつものように講演依頼かなぁ、なんて思いながらスマホの画面をタップすると、「こんにちは。僕は」からはじまる文面が目に入った。

メッセージ: 西川 昌徳様
こんにちは。僕は、目黒区東山小学校六年二組の、○○です。今、総合的な学習の時間で、憧れの職業について調べています。そこで、西川さんにメールでインタビューさせていただきたいと思っています。自転車での冒険やお仕事に対する思いについて聞かせていただけたら、とても嬉しいです。もし可能でしたら、お返事をください。大切なお時間をいただくことになりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

そこには小学生の男の子からのインタビュー依頼。なんだこれ、かっこいいじゃんか。読みながら思わず笑みがこぼれそうになった。

数ある冒険家のうちでなんで僕だったんだろう。他にもネットで調べたなら植村直己冒険賞をとった冒険家や、テレビに出ている人だってたくさんいただろうに。けれどなんらかの理由があって、僕のことを見てくれこうして一歩を踏み出してくれたんだな。すぐに返事を出した。

翌日、彼からまたメッセージが届いた。

西川さん、お返事ありがとうございます。お返事とても嬉しくまた、びっくりしました。課題の締め切りが2月中なのでインタビューはメールでさせてください。その内容や、冒険家という職業について調べたことを新聞の形にまとめて教室に掲示します。お聞きしたいことは8個です。
1、どうして自転車で冒険をするのですか。
2、なぜ子供のためのイベントをたくさん開いているのですか。
3、冒険をしていて怖いと思ったことはありますか。
4、冒険をしていて一番楽しいことはなんですか。
5、今までで一番過酷だった旅はどれですか。また、そこで得たものはなんですか。
6、人々とのつながりを求めていらっしゃるのはなぜですか。
7、コーヒーを通じての出会いを生み出すdailylifebicyclecafeを実施しているとサイトで拝見しました。そのきっかけはなんですか。
8、冒険家に必要な心はなんですか。
たくさんあってすみません。答えにくいものは飛ばしていただいても構いません。
本当にありがとうございます。よろしくお願いします。

小学6年生。なんでだろう。たったこれだけの文章で、彼の人柄が伝わってくるような気がする。がっちりしてるんかな、それとも細いのかな、メガネはかけているんだろうか?そんな見た目のことは分からない、けれども言葉ってやっぱりその人の内面が溶け込んでいる気がするんだ。それに僕は高返事を出した。

質問の答えを送ります。
あなたがまとめやすいようにではなくて、僕の本音をそのまま書いてみました。君なりにまとめてみてください。そしたらきっとこの考えは君の一部として残ると思います。ちょっと大変だけど「やってみる」ところからはじめてみよう!

1、どうして自転車で冒険をするのですか。
自転車で走ることで、世界に生きる人と出会う機会が多くなります。自転車だと有名な観光地や都市だけではなくて、普通の観光客では行くことのできない田舎も通りかかるし、その分だけその国の暮らしがよく分かるからです。自転車に乗っているおかげで、みんなが興味を持ってくれるような気がします。そして他のチカラに頼らない自転車は、僕のカラダの一部みたいになってくれて、それで世界を走ることで地球の大きさやありのままの自然を感じることができるように思うからです。

2、なぜ子供のためのイベントをたくさん開いているのですか。
それは僕が田舎で生まれ、さまざまな生き方や世界についてあまり考えることがなかったからです。世界に出るようになってから、僕はさまざまな生き方や価値観、暮らしがあることを知りました。そしてチャレンジすることで、自分のなかに新しい学びが生まれることを知りました。自分が子どものころにこういったことを知っていたら、きっとそのころの自分の人生や将来に対する思いって、もっともっと広がっていたのではないかな。という思いから、旅や冒険の経験を子どもたちに話したり、一緒に走る冒険旅をするようになりました。

3、冒険をしていて怖いと思ったことはありますか。
何度もあります。マイナス30度近くになった冬のアラスカ、カナダ横断。標高5000mのちベットでなってしまった高山病。メコン川でおぼれかけたこと。メキシコで拳銃強盗に襲われたときのこと。どれも大変なことだったけれど、いまはそれがあったからこそ今の自分があると思っています。

4、冒険をしていて一番楽しいことはなんですか。
現地での人との出会い。自分が決めた目標を達成できたときのこと。などありますが、やっぱり中野さんのような子どもが僕がやっていることを見たり、聞いたりして一歩を踏み出してくれることです。今回のこのインタビューメールをもらったときも、心からこの活動をやっていてよかったと思うことができました。

5、今までで一番過酷だった旅はどれですか。また、そこで得たものはなんですか。
前回のメキシコからコロンビアまでの10カ国を半年で旅したときのことでしょうか。盗難で全財産を失う、病気、左足が動かなくなるトラブル、最後は車にひかれました。もうそれこそ試練のように次から次に大変なことが起こる旅となりましたが、僕が得たものは「受け入れる」ということです。どんなに辛いことでも、そこから逃げることはできません。それを受け入れて、そこからまた歩みはじめることで次に進むことができます。そうして前回の旅でも幾度のトラブルを乗り越えることができました。これは人生も同じです、大変なことってどんな人にもあるのです。それが起こったときに、どんな自分でいられるか。それが大切だと思います。

6、人々とのつながりを求めていらっしゃるのはなぜですか。
それは僕が人を信じたいと思っているからです。世界に目を向ければ、悪いニュースを見ることもあるでしょう。それは日本でもそうです。けれども僕は人を信じたいと思っています。人の可能性を信じたいと思っています。だからこそ僕は人との出会いをとても大切にしています。
そして自分が出会う人はかならず自分には持っていない素晴らしいところがあります。人と出会うことはそのまま人生の学びなのです。

7、コーヒーを通じての出会いを生み出すdailylifebicyclecafeを実施しているとサイトで拝見しました。そのきっかけはなんですか。
実は旅や冒険が仕事になってからの僕は6年かけてだんだんと心の元気が無くなってきました。それは仕事として求められることが多くなり、旅が「やりたい」ことから「やらなくてはいけない。人の期待に応えないといけない」ものに変わっていきました。これではせっかく好きなことを仕事にしていても、長続きしません。ですので、今年は一度世界を旅することをやめて日本を旅することにしました。心からやりたい旅をしようと思ったのです。
僕は今の日本を、日本に生きている人たちと出会いたいと思いました。だからほとんどの人が好きなコーヒーを通して、町のなかで僕がいろんな人と出会えるdailylife bicycle coffeeをやろうと思ったのです。僕のコーヒーはフリー(無料)です。なぜならどんな人とも出会えるきっかけを持ちたいと思ったからです。おかげで僕のcafeには子どもからお年寄りまでいろんな人が来てくれます。フリーなのでお手伝いもしてもらいます。差し入れもたくさんもらいます。みんなが気持ちよく出会える、支えあえるのがdailylife bicycle coffeeです。

8、冒険家に必要な心はなんですか。
「やってみる」という気持ちだけです。どんな冒険家でも初心者のころがありました。僕でもいまなら大したことないと思っていることでも、それをはじめたときには「大きな一歩」だと思ったものです。けれども、それをやってみなければ何もはじまりません。どんなことでもやってみることから全てははじまります。だから、この気持ちは冒険家だけじゃなくてどんな職業にもあてはまると思います。

西川昌徳
Masanori Nishikawa
www.earthrde.jp

このあとの彼からの返信がほんとに嬉しかった。小学6年生だって、会ったことないオトナの内面を言葉から読み取ってる。そのことがただ単純に嬉しかった。彼に割いた時間と思いは、この返信だけでもう十分返してもらったと思う。

西川さん
お忙しい中答えてくださってありがとうございます。西川さんがおっしゃった通り自分なりに考えてまとめます。やってみます。
真剣に書いてくださったことが伝わってきました。僕も真剣に課題に取り組みたいと思います。後日課題が終わってからまた、メールをさせていただきます。

もちろん仕事として何かを成してお金をもらえたとき、それが自分のやりたいことだったらすっごく嬉しい。やってよかった、続けてよかったと思える。けれど、僕がなんで子どもたちに対して表現し続けるのか。それはね、彼らからこうして心の言葉をもらったとき、僕はお金のときよりも、もっと深くにまで届く何かをもらってる気がする。

それは言葉にすると「生きててよかった」に繋がるようなものなんだ。僕はそんな生きるご褒美のようなものがもらえたときこう思う。それは決して目的ではないんだ、けれど結果としてそうなったときにね、なんだか自分の心が広がっていって大きなものに包まれているような、そんな気持ちになったりする。



                                  

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