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エビデンスのある療育ーCBI実践編

はじめに

この記事は前回の続きです、まだ読まれていない方はそちらを先に読むことをお勧めいたします。
前回の準備編では実践に移すまでにいくつかの工程や条件が必要である旨紹介しました。実践編では、どのプログラムを採択しまたカスタマイズするかによって、やることが変わってくるので、以下の論文で自閉症児に対しても効果があると確認されたCoping Cat Programをベースにどんな流れか見ていきます。

The Coping Cat Program for Children with Anxiety and Autism Spectrum Disorder: A Pilot Randomized Controlled Trial
McNally Keehn and Kristina Hedtke

Coping Cat programの概要

このプログラムは、不安という心理状態に対して、リラクゼーションや認知的再構築、問題解決、不安を引き起こすものや活動への接触を通じて、より良い付き合い方を獲得していくためのものです。

対象となる年齢層は7−13歳で、推奨されている介入強度は毎週50分程度のセッションとなります。

上記研究論文の中では、8−14歳、IQ70以上の22名の自閉症児および不安障害を抱える子供を対象に16週間のプログラムが実施されました。

CBI実践ー共通部分

CBIの実践例をCoping catに基づいて紹介する前に、どのプログラムを選んでも共通する部分に関して紹介します。

ワークシートを使う

計画段階で作成したプランに応じてそれぞれのセッションごとにワークシートを使用すると、プランをアップデートしていく上でもモニタリングの際にも非常に有用です。セッション全体の中でどのトピックを扱い、どのような内容を提供するのか、等の情報を簡単にまとめておくと便利です。

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般化の工夫

CBIのセッションは比較的短く頻度もそこまで高くないため、そのセッション内部であるスキルを強化するだけでは、不十分な場合があります。そのため、プログラムの中で決めた強化をその枠組みの外でも実践できるように一工夫加えておくことでより、児童がセッション外の日常生活においてもスキルを使うことや学習することができるようになります。

例えば、わざと別の場所でセッションを実施したり、またいつものセラピストではない人が実施したり、いつも行う活動や遊び以外の別の活動の中で対象スキルを使用する機会を設けたりすることで、ある特定の条件の時にしか使って欲しいスキルを使用しないという状況から、より幅広い状況で対象スキルを使う確率が高まります。

モニタリングシートの使用

毎度のことながら対象スキルや行動の変化を見ていくためにはモニタリングは必須です。使うシートは以前紹介したものとそこまで大差ありません。

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CBI実践ーCoping CAT

CopingCatは先ほど簡単に紹介した通り、不安との上手な付き合い方を学ぶための方法です。この方法は大きく分けて4つの部分からなり、計16セッションかけて学習していきます。

4つの構成要素(FEAR)

F = Feeling Frightened?
不安や恐怖を感じているかという理解
E = Expecting bad things to happen?
何か悪いことが起きるのではないかという思考
A = Attitudes and Actions that can help
どんな行動や態度が自身の不安を解消する、減少させるかという自問自答
R = Results and Rewards
自身の努力による結果の自己評価と他者からの賞賛

CBI実践ーFステップ

このステップで行うのは、まず不安を感じる際に自身の体にどのようなことが起きているのか?またそれらの感情や体の活動は他の感情、体の活動とどう違うのか?を認識することです。

これらの目的を達成するためのアプローチとしては、まずセラピストの自己開示から始めます。

「先生も人前で話す時は、指先が冷たくなったり、心臓がドキドキしたりするのよ」

重要なのは、不安状態になった時に身体に変化が生じるのは自然なことなのだということと、自分も先生もそしておそらく他の人もみんな経験していることなのだ、と児童が認識できるようにすることです。

また過剰反応に関しても例を交えて教えます。非常に些細な刺激に対してたまに体が過剰に反応することがあっても、それも一部自然なことなのであると認識してもらうためです。もちろん感度が高すぎると日常生活に大きく支障が出るため感度を下げていくことを念頭に置きながら伝えます。

「火災報知機がたまに、火事じゃないのに間違って鳴ることってあるでしょう?」
「あれはね、少しの煙でも反応するから鳴っちゃうんだよ」
「そうだね、ちょっとした煙でも鳴るのは迷惑かもしれないね」
「けどもし本当に火事だったら大変だよね」
「だから、すごく少ない煙でも反応するの。人間の体も同じで、もしかしたらこの後大変なことになってしまうかもしれないと感じると、小さな刺激でも体が反応してしまうことがあるんだよ。」

自身の身体反応の仕組みに関して、児童が理解できた後で行うのは、不安を感じる状況の時に実際に自分の体にはどんな変化が起きているのか、言語化することです。「お腹が痛くなる」、「手に汗をかく」、「膝が震える」など不安状況にあるときに自分の体に起きていることを言語化することで、今度は逆に自分の体に上記のような変化が起きている際に「今自分は不安を感じているのか?」と自問することができるようになります。そしてこのような認識の仕方は、不安に気づき対処するきっかけとなるため非常に重要です。

身体的反応が特定できた後で、それに対する対処法を学習します。例えば身体的反応が「心臓がドキドキし鼓動が早くなる」のであれば、深呼吸をリラクゼーションとして教えることができます。教える際には、本当にできているかをきちんと確認することも重要です。深呼吸が自然にできる児童は実はそう多くありません。このような場合にはアナロジーを通じて深呼吸のやり方を教えてあげることができます。例えば「お花の匂いを嗅いでみて、そこからバースデーケーキのロウソクを消す!」などのようなものや、「お腹が膨らむように息を吸って」などの例が挙げられています。また模倣訓練やロールプレイを通じて教えることも可能です。どの方法を採用するにせよ、リラクゼーションの方法は何回かの練習が必要になってきます、児童によってはぎこちなかったりまた恥ずかしがったりすることもありますが、なぜリラクゼーションが重要なのかきちんと伝え、ステップごとにしっかりとできるように教えていくことが大切です。

ここまででFステップは終了です。感情に伴ってどのような身体変化が生じるのか認識し、また逆に身体変化が生じていることから自身の感情や状態を理解することができ、そして特定のリラクゼーションの実践が可能な状態まで完了したら、その後は児童と一緒にどんなシチュエーションやタイミングでこの訓練を継続していくか決めることができます。セッションごとに少しの時間を使って継続的に訓練していくことも可能です。

CBI実践ーEステップ

Fステップでは身体変化と感情、それに関する対処に関して学習しました。Eステップにおいては、「思考の内容と質」について学習します。不安な状況または恐ろしいことが起きそうな状況にあるときに自分がどのような思考をしているのか特定し、それをより機能的な思考へと変化させます。

とはいえ、「今どんなことを考えているの?」などと直接児童に問いかけても多くの場合、具体的な答えは返ってきません。そのような場合には、まずノンストレスな状況がどのような状態か簡単に説明した後で、不安な状況にあるときの思考の例を児童に聞きます。例を挙げていく方法としては、下記イラストの様に、あるシチュエーションにおいてどんな思考を登場人物がしているか、セラピストと児童が協力して段階的に埋めていく方法が紹介されています。
この様な方法を通じて、まずは登場人物の思考を想像するパターンから児童がどの様なセルフトークをしているのか当たりをつけていくことができます。

シチュエーションに応じで吹き出しを埋めていく手法

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また、ある程度思考の外観が見えてきた後で、モデリングとセルフトークを通じた練習によって実際に児童が思い浮かべている思考を特定したり、ネガティブな思考を変化させることができる様になります。より具体的には、まず無意識的に発生しているネガティブな思考の性質が何かということと、それが自身の不安をより悪化させているという自己認識を可能にします。そして、ネガティブな思考を具体的に特定し言語化できた後で、より機能的な思考の方法や、不安が発生しそうな状況における新しい考え方、思考を訓練することで、これまでの機能不全でより不安を増大させてしまう様な思考方法をより機能的な思考方法へと変化させます。

また、ネガティブなセルフトークを特定し新しいものに変化させることに加えて、ネガティブな思考に名前をつけるという作業も非常に重要です。例えば「ミスをすることが怖い、完璧にしたい」という思考が不安状態をさらに悪化させている思考の一つであるときには、それに「完璧マン」の様な名前をつけてあげることで、「また自分の中の完璧マンがやってきたぞ」と児童の無意識的に発生するネガティブ思考に気づき、それに対処する(訓練した思考の利用)きっかけを与えてくれます。

CBI実践ーAステップ

このステップでは、日常生活における不安状態を解消するツールとしての具体的行動を獲得することを目標とします。

セラピストと児童は、一緒に不安が生じるであろう様々な状況を仮定して解決策を考えていきます。まずはじめにやることは、ノンストレスな状況下で、問題解決とはそもそも何か?という点を理解するところから始めます。問題解決の概念形成の際に役立つのは、日常的な問題をセラピストから、児童に対して投げかけ、それに対して解決策を一緒にブレインストーミングすることです。またセラピストから現実的で機能しそうな解決策と非現実的で荒唐無稽な解決策を提示することでより問題解決への理解を深める手助けをすることができます。つまり極端な例を提示することで、解決策として機能する行動は何かということを理解する手がかりや、全く機能しないであろう解決策を除外していく方法を理解していくことができます。

「お出かけする時に、靴が見つからなかったらどうする?」
「例えば、最後に穿いたのいつか思い出すのはどうかな?」
「例えば、お母さんにどこにあるか聞くのはどうかな?」
「例えば、インターネットで検索するのはどうかな?」
「例えば、無くした靴よ出てこい!と大きな声で呼んでみるのはどうかな?」

CBI実践ーRステップ

これまでのFEAステップそれぞれで、不安を感じている時とはどの様な状態か、対処するために何ができるかを学びました。最後のRステップではそれぞれの自分の努力に対して評価と報酬を与えることを学びます。

不安を抱えている児童の多くは達成基準が非常に高いことが多く、それに満たない場合はゼロイチで評価することが多いです。(できたかできなかったかで判断する)一方でこのRステップでは、「努力」に対して自分で報いるという方法を学習します。この概念を導入する際には、例えば報酬は完璧であった時だけでなくても、自分がしたことへ満足しているのであれば自分で自分を褒めてあげることができるのだと、児童とディスカッションすることが有効なこともあります。

また同様に自己評価の軸に幅を持たせる例として、完璧にこだわっているケースにおいては、シュートの成功確率が50%程度ではあったが最高のバスケットボールプレイヤーと評価されたマイケルジョーダンなどの例をだし、完璧でなくても賞賛されたり評価されるという考え方を学ぶことができます。

自己理解・自己評価の概念を理解できる様になった後で、実際に自己評価をする機会と自身の努力部分を評価する機会を通じて実践練習を行います。練習においてはモデリングやロールプレイを用いた方法が有効的です。

FEARアプローチは、不安と向き合うことを児童に対して教えます。これは児童にとっては取り組むこと自体がたくさんの努力や苦難の連続となることが多いです。その為このRステップは、その努力や苦難がきちんと報われているという実感を児童が持つ上で非常に重要です。

一点気をつける必要があるのは、不安に向き合うこと自体に対してまた向き合わせる様に、報酬を与えるのではなく、その中で実際に行動した努力に対して報酬を与えるという点です。この報酬は初めは、外的な、例えばセラピストからシールがもらえたり、褒めてもらえたり、というところから始めに最終的には、内的な、自分で自分を誇りに思う、褒めてあげる、などの形になることを目指します。

CBI実践ーFEARステップ16セッション

ここまでで、Coping catのFEARステップの概要を簡単に紹介させていただきました、実際にセッションに分割した時にどの様な構成になるのかを下記に簡単にまとめます。

1.オリエンテーション
目的:信頼関係の構築、プログラム概要の紹介
コンテンツ:Personal Fact
狙い:積極的なアクティビティへの参加、発話の促進

2. Fステップの開始
目的:ゴールの共有、感情と身体反応の特定、自然な反応という認識の構築、不安状況の段階分け
コンテンツ:Feelings Charades, Feelings Dictionary

3.レビュー
目的:不安な時の感情とそれ以外の感情の区別、身体反応のより幅広い理解、自身の身体反応の言語化

4. 保護者セッション1
目的:セラピー情報に関する共有、保護者の懸念に関するディスカッション、不安状況に関するヒアリング、保護者参加の機会共有

5.リラクゼーション
目的:リラクゼーションの練習、身体反応への認識のレビュー、リラクゼーションの様子の撮影、映像を児童から保護者へ共有

6.レビュー、Eステップの開始
目的:リラクゼーションのレビュー、Eステップの紹介、セルフトークの認識、セルフトークの特定
コンテンツ:吹き出し穴埋め

7.レビュー、Aステップの開始
目的:ネガティブなセルフトークのレビュー、機能的なセルフトークへの変換、認知的な変換方法の紹介、Aステップの紹介、問題解決の概念形成

8.Rステップの開始
目的:自己理解・自己評価の方法、FEARステップの振り返り、FEARカードの作成

9.保護者セッション2
目的:セッション後半で不安状況に実際に対処する際に、さらなる不安状態になるかもしれない可能性があることの説明、保護者の懸念に関するディスカッション

10.低刺激下での実践
目的:FEARプランを、想像上でまた非常に小さな刺激(ちょっと不安になるシチュエーション)のもとで実践練習する

11. 継続練習
目的:セッション10の延長

12.中刺激下での実践
目的:低刺激から1段階あげた想像上または中程度の刺激(やや不安になるシチュエーション)の元で実践練習する

13.継続練習
目的:セッション12の延長

14高刺激下での実戦
目的:中刺激から1段階上げた想像上または高程度の刺激(かなり不安になるシチュエーション)の元で実践練習、発表の準備

15.本番練習
目的:実際にかなり不安になったことのあるシチュエーションで練習

16.成果発表
目的:想像上または高程度の刺激(かなり不安になるシチュエーション)の元で実践練習、プログラム全体の振り返り、保護者と般化計画の作成、セラピーのクロージング、実践練習の撮影、修了証の発行と賞賛

まとめ

今回はCBIのなかで、Coping Catをベースに実際にどのような流れで実践されているのかその概要を紹介させていただきました。実際にここのセッションでトレーニングをしていく際には、これまで紹介させていただいたEBPを組み合わせて使用し児童に合わせてカスタマイズしていく必要があります。今回の内容はあくまでざっと紹介したものになるので、実際にCBIやってみたいなあ、という場合には身近な臨床心理士の方にまずはご相談されることをお勧めします。

リファレンス
https://afirm.fpg.unc.edu/node/591
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1077722910000428
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