わたしの定番の一つについて (下)
一目惚れなんて、したことがない。
ただ、この時だけは例外だった。
画面の奥の絵画に、その纏う空気に
一目惚れをしたのだ。
骨董屋で運命を感じ
「清水の舞台から飛び下りる覚悟で購入した」
などといったエピソードを披露する ”依頼人” たちの気持ちが
今なら少しわかるかもしれない。
ただ、いくら一目惚れしたとは言え
そんな楽しみ方はわたしの身の丈に合わないことだと
十分に承知している。
まして出会ったのは他の誰かの所有物だし
画面の奥にあるのだから、身の丈の問題ですらない。