人はコストではなく価値の源泉であるーー渋谷和宏『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社新書)

TBSラジオ森本毅郎スタンバイや、YouTubeポリタスTVでよく聞いている/見ている渋谷和宏が本を出したというので、読んでみた。ずばり『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』である。筆者はかつて『日経ビジネス』などのビジネス誌の編集に携わり、さまざまな企業の管理職や社員への取材経験が豊富である。

「なぜ?」には「なぜならば」という答えが用意されている。筆者によれば、バブル崩壊、金融危機と90年以降、日本経済が直面してきた危機を、日本企業はリストラ(人員削減)、無駄の削減(コストカット)などで「乗り切って」来た。一時的な対策であればまだしも、その後も継続してコストカット体質は続き、社員を創造性のある資産とみなすのではなく、負担・負債というコストとして考えるようになってしまった。金融危機以前と比べて以後の経営者インタビューで「コストカット」という言葉が頻繁に使われるようになった事実を筆者は指摘する。かつて日本が強かった産業(製造業)でも、垂直統合型から水平分業型に世界中で移行していて、水平分業型では付加価値・ブランディングといった創造性が商品開発の生命線であるにもかかわらず、日本企業はその反対を突き進んでいる。これが筆者の見立てである。

日本の労働者の賃金はいつまでもあがらず(人件費=コストでしかないから)、賃金カットが目的の成果主義は加点ではなく減点主義で労働者のもチーべションも削り、マネジメントスキルのない管理職が自らの減点を回避するために部下に不要かつ細かい指示を出すマイクロマネジメントが横行する。これが「やる気」のなさ、の原因である。筆者のスタンスは明確である。企業経営の失敗が会社員の「やる気」を削いでいる。

日本の労働者の生産性は先進国で群を抜いて低いのはよく指摘されるし、私も知っていたが、筆者によればその原因は「モノが安いから」である。もうけ(付加価値)を労働力で割ったものが生産性なので、もうけ(付加価値)をあげるには高いものを作って売れば良い。しかし、コモディティ化が進む現代で高い付加価値を持った商品を開発するのは、簡単なことではない。とはいえ、飽和状態に思えた扇風機(白物家電)市場で、ダイソンは羽なし送風機を開発した例が紹介されている。結局は、イノベーションや、そこまでいかなくても画期的な新商品を開発・販売するには人への投資が欠かせない、ということだ。


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