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読書感想文【『罪と罰』を読まない】

2015年 岸本佐知子、三浦しをん、吉田篤弘、吉田弘美
これも誰かのおすすめか、ネット記事で読んで知った一冊。

『罪と罰』
19世紀後半のロシア文学を代表する巨匠、ドフトエフスキーの代表作の一つ。多くの人がその題名を耳にしているだろう。
しかし実際に読んだことがある人はどれくらいいるのか?
元本というもの、小説というものに深く携わりながらもこの歴史的作品を読んだことのない四人が、果敢かつ無謀に挑んだ「読まない」読書会。


『罪と罰』は世界的名作でありながら、著者(吉田篤弘)の聞き取り調査によれば未読の人も多く、また読んだ人の感想も「あんまりわかんない」「良く覚えていない」。つまり未読者と大差がない。
であれば読まずに読書会を開くことも可能ではないだろうか?
よし、「読まずに読む」読書会、決行だ!
 ……なんのために?
面白そうだからダヨ!!

という、なんとも斬新な読書会を記録した本。
一体どう進めるのか、どうまとめるのか、ちゃんと終わるのか??
なまじな推理小説より、先の見通せない面白さがあった。きちんと『罪と罰』を読んだことがある人も、自分のようにもちろん(?)未読の人も楽しめるだろう。

著者たちは創作に関して現在も第一線で働く猛者たちである。『罪と罰』こそ読んでいなくとも、それぞれかなりの知識を有し、また創作者としても優れた経験を積んでいる。
そんな人達がわずかなヒントをもとに名作の内容を推理していく様子、「自分だったらこうする」「これじゃ物足りないはず」などとのやり取りは非常に興味深いものだった。
今まで雲の上に鎮座まします歴史的名作が著者たちの手によって、同じ目線まで引きずり降ろされてきたかのような感覚だろうか。

最初はその分厚さに二の足を踏んでいた全員、最後は当該作品を読み通し、なんなら付箋貼りまくり、メモとりまくりで感想を交わす。
実に面白そうだなぁと羨ましくなったし、自分も読んでみようかな、という気にさせられる。

”「読む」とはいつからはじまるものだろう”
”『罪と罰』をまだ一文字も読んでいないときから、我々四人は必死に「読んで」いました。いったいどんな物語なのか。期待に胸膨らませ、夢中になって、「ああでもない、こうでもない」と語り合いました。それはなんと楽しい経験だったことでしょう。ページを開く前から、『罪と罰』は我々に大きな喜びを与えてくれたのです。”
”「読む」には、終わりもはじまりもない。”

あとがき「読むのはじまり」(三浦しをん)より


本を読むスタイルは人それぞれではあるが、なるほどこんな味わい方は素敵だし、名作も名作として本望であろう。
読書会というものは世に結構あるものだが、他でもない作家たちがこうした試みを実行してくれるとは、面白いの一言に尽きる。


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