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「解体屋ゲン87巻」日常を潰すコロナ禍を描き、戦う作品となる宿命の元で!


・はじめに

解体屋ゲンについて書くのは4回目。ゲンと再会、ゲン(野島)の狂気、ゲンの最大のピンチについて書いてきたが、今回は2021年12月1日発売、現時点最新刊の87巻を紹介したい。



・第861話 PCの職人

ゲンの会社、朝倉工務店・五友爆破株式会社の全てのデータの入ったPCからデータが消えた。日本では稀有な爆破解体の記録まで。メーカーも頼りにならず、慶子が頼んだ業者は80歳のおじいさん…。

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野田さんの姿は是非87巻で。

おじいさん、その正体はPC-8801・9801の時代に日本発の縦書き可能なワードプロセッサソフトを作った実在の人物、野田晃さん。日本のワープロ開発のレジェンドが実名で登場。当時から現在までの野田さんの人生が語られる。年寄りはPCが使えない?いや、ゴリゴリ使っている人は沢山いるのだ。あなたの周りにいないだけ。


・第862話 本物

ついにゲンの息子の鉄太も小学生に。ランドセルのカタログを眺めてご機嫌な鉄太。そんな鉄太に職人のロクがプレゼントしたランドセルとは!

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子供にはキツイ洗礼とは。

ランドセル、日本の給与が上がらない中で車とランドセルの値上がりはちょっとヤバくないか……(車は安全性向上のため、ランドセルは安いのも出始めたが)。そう思って読むと色々とコワイ話ではある。子供に罪はない。


・第863話 天下国家を大いに語る(1)

ゲンのネット上の価値。実は過去、数度の騒動で1万人以上のフォロワーが動画サイトにいるが、最近は休眠状態だった。動画サイト再開で稼ぐコトを思いついたゲンのチームの美人ドライバー光は、大山の店で建設業の問題を真面目に語るゲンを盗撮して……。

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光の顔芸その1、ゲスい。

初回は建設業高齢化の話。続いて住菱技術研究所の谷を招いてロボットと人間の話。両方しっかり真面目に描かれています。


・第864話 天下国家を大いに語る(2)

谷とゲンの話の続き。そして再生回数から収益を計算して悪い顔をする光は住菱建設のエリート美女、内田にご足労を願い、文字通りご足労によってさらなる再生回数向上を目指す……。

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光の顔芸その2、ロボだこれ。

谷とゲンの話は人口減少と外国人労働者に。仲のいい二人の考え方の相違が見どころ。内田とゲンはゼネコンの問題点を世界ベースで真面目に語る。


・第865話 天下国家を大いに語る(3)

動画が好調な光に届いた一通のメールの相手とは。ロクとゲンの動画を撮った後、谷が新盗撮カメラを開発?そのカメラが撮った事件とは。そしてついに……。

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光の顔芸その3、いつものサングラスなのに成金臭が。

ロクとゲンの会話は持ち家の話。もう、とても厳しい日本の、特に若者の現状が語られる。でも既にこれは現実なのだ。


・第866話 天下国家を大いに語る(4)

ついに……。そして、大山の店に現れたのは謎のマスクマン。官から来た男がゲンに問いかけるのは新型コロナウイルスの影響でダメージを受けた日本をどうするか。ついにコロナ禍がマンガ内に入り込む……。

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光の顔芸その4、パワハラか。

ゲンとマスクマンの話は公共事業と国。この話が後に解体屋ゲンの柱のひとつのアンカーになるとは。様々な悪評の中、イメージが地に落ちた公共事業だが……。そして、ゲンが語る二人のゲンとは。作内の沢山の視聴者よりも多い読者に伝わって欲しい、解体屋ゲンから見た日本の現状中間まとめのようなシリーズだ!


・第867話 プランB(前編)

作内でサブストーリーとして進んでいた理沙の飲食店、マンマ・ミアーズの復活計画。ようやく店舗の内装まで進んだ時に、ついにコロナ禍が日本を襲う。大半の飲食業がコロナ禍に圧される中で、新規開店はリスクが高すぎる。理沙とふたりで開店に尽力した解体屋ゲンNo.1のコメディリリーフ……いや、コンサルタント野島の最大のピンチ。

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まさか七難八苦でここまで来た話がコロナ禍に。

慶子と野島による新規開店シミュレーションの結果が生々しい、キツイ。でもそれが現実だ。


・第868話 プランB(中編)

ゲンにコンサル生命をかけて案を考えろと言われた野島。スポンサーからの潤沢と思われた資金があっても無謀な開店。だが理沙の開店への熱意と手伝ってくれている従業員の生活を守る意識は変わらない。そんな中、コロナ禍は開店の協力会社をも襲い……。

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野島、もう休め!

ついに野島は決断する。納得できない野島の提案を聞いた理沙はどうするのか。コロナ禍の猛威はさらに拡大していく。


・第869話 プランB(後編)

野島の提案を受け入れるも、まだ納得できない理沙。シャッター街のシャッターがさらに降りる飲食店悪夢の日々の中、ゲンは理沙をある相談者の元に連れて行く。建設業もまた地獄絵図の中なのだ。そして、提案の裏で野島がやってきた仕事とは。

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筆者の知り合いのマスターは自粛終わっても客は戻って半分と。

心底、野島につらいシリーズ(理沙もだが)。以前、78巻の紹介で書いた狂気な野島とは思えない(あれも野島が全力を尽くした結果ではあるが)、地道なプランニングと説得の仕事。

この巻全体としては光をコメディリリーフに置いて、一番コントラストの強くなる野島をコロナ渦の最前線に立たせている(野島の職種的には当然だが)。これがキャラクターを実直に育てている解体屋ゲンの強さか。


・第870話 谷のリゾート大作戦

理沙の開店騒動で疲れ果てた野島を癒すため、ゲンは野島に好意のある谷にハッパをかける(そりゃ爆破技師だしな)。まんまとゲンと慶子の悪だくみに引っかかった谷は研究所のAI、ボテとキクにおもてなし方法を相談するのだが……。

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谷にセンスがあれば世界は変わるのでは?

谷、狂気のおもてなし。水着回?温泉回?それとも……いやいや(笑) 重い話の続いた巻、ほっとする話で締める構成の妙。


・おわりに

解体屋ゲンはこの巻から、完全にコロナ禍を背負ったマンガとなる。リアルタイムで現実を追う社会派マンガ、決して逃げの一手を打たない、打てない。それは真面目に世を描く、時事マンガの宿命なのだから。

コロナ禍の魔の手はゲンたち建設業にもさらなる影響を。新規工事の激減とそれに伴う倒産・廃業。解体の金すら出てこない状況に苦しめられるゲンたちだが、もちろん戦う相手はコロナ禍だけじゃない……。

今、最高の社会派マンガ。コロナ禍との戦いが始まるこの巻からでも読んで欲しいのだ。いや、お願いだから読んでください。



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