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ACMGガイドラインへの味付け(LDLR編)

2023年7月13日初版

家族性高コレステロール血症の原因遺伝子LDLRアップデート

家族性高コレステロール血症の話が続きます。
絵は「家族成功コレステロール血症患者の角膜輪を描いて」とAIにお願いしてできた作品です。

主に肝臓の表面に出ているLDL受容体をコードする遺伝子(LDLR)について、バリアント解釈の方針が示されました。LDLRは早い段階から同定された遺伝子でエビデンスも豊富です。

バリアントの解釈

バリアントの解釈はACMG/AMPガイドラインに準拠して行われます。まず、見つかったバリアントについて、PVS1, PS1-4, PM1-6, PP1-5, BA1, BS1-4, BP1-7などのタグをつけます。そのタグの数でPathogenic, likely pathogenic, benign, likely benign, そしてどれにも該当しないVUSと分類されます。

PVS1: Very Strong evidence of Pathogenicity

PS1-4: Strong evidence of Pathogenicity

PM1-6: Moderate evidence of Pathogenicity

PP1-5: Supporting evidence of Pathogenicity

BA: Stand-alone evidence of benign impact

BS1-4: Strong evidence of benign impact

BP1-7: Supporting evidence of benign impact

ただ、このガイドラインは多くメンデル遺伝性疾患に合うように構成されたもので、いわばプレーンな状態です。ここからそれぞれの疾患遺伝子に合わせて考え方を変える必要があります。


LDLR

LDLRについては下記のようにより精緻化されました。
例えば、ナンセンス変異のようなものでも一律に「強い病原性」とするのではなく、エビデンスに従って、エクソン17を境に、それよりも開始点側での変異は「極めて強い病原性」、それよりも停止点側なら「中等度」というような感じになっています。

・PVS1の一部 → PS、PMへ
・PS3の一部 → PM、PPへ
・PS4の一部 → PM、PPへ
・PM5の一部 → PSへ
・PP1の一部 → PS、PMへ
・BS3の一部 → BPへ

以下では変更点について説明しています。
他の遺伝子バリアントでも同様の手続きになっていくと思われます。


PVS1

1.ナンセンス変異・フレームシフト変異のうち830番目のアミノ酸よりもN末で起きたものはPVS1のまま、830番目のアミノ酸よりC末で起きたものはPVS1_Moderateへ変更

2.スプライス部位での変異のうち、Exon 1-17でおこったもので、フレームが破壊されたらPVS1のままだが、フレーム破壊がなければPVS1_Strongへ

3.欠失のうち、全欠失はPVS1のまま、単一・複数のエキソン欠失がExon 1-17で起きてフレーム破壊があればこれもPVS1、フレーム破壊がなければPVS1_strong、Exon 18の単一欠失はPVS1_moderate

4.重複によってExon 1-17でフレーム破壊が起こっていればPVS1、起こっていなければPVS1_strong

5.開始コドンの変異はPVS1_moderateへ変更


PS3/BS3

基礎実験によって、病原性の評価を行うことがあり、これもガイドラインには加味されている。その方法論の適切性に基づいて、LDLR 機能アッセイの 3 つの異なる強度レベルを決定している。レベル 1 の研究 (PS3/BS3 に設定) が最も信頼性の高い。細胞へLDLR遺伝子導入することで、LDLR発現・生合成から、LDLとの結合、LDLR-LDL内部移行を含む一連のLDLRリサイクルを評価する実験系である。対して、レベル 2 (PS3_Moderate)およびレベル 3 (PS3_Supporting/BS3_Supporting に設定) は、LDLR サイクルの一部のみの評価するものなどを指す。患者細胞を使用する場合、 他の変異が入っていない、変異特異的なLDLRのDNA 配列分析を用いる必要がある。


PS4

稀な変異を持つ、血縁関係のないFH 症例数に応じて、異なる強度レベルが適用されうる。10 症例以上のFH 症例でバリアントが見つかった場合PS4 が適用されます。6~9症例の の場合、 PS4_Moderate が適用され、2~5症例の場合は PS4_Supportingとなる。

※PS4の基準を適用する場合、PM2 も満たす必要がある。


PM5

同じコドン内だが、異なるアミノ酸を予測する病原性ミスセンス変異が 1 つある場合に適用される。同じコドン内の異なるアミノ酸を予測する病原性ミスセンス変異体が 2 つ以上ある場合にPM5_Strongと言える。ここでバリアントは PM1 (ホットスポットか、十分に確立された機能ドメイン)を考慮していない。二重カウントとならないように注意。


PP1

調査対象の家族/個人の数に応じて、PP1 を適用について 3 つの強度レベルを決定している。segregation analysisによるinformative meiosesが6以上である場合に PP1_Strongと見なされ、PP1_Moderate は4~5の場合、PP1_Supportingは2~3の場合に適用される。


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