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肥大型心筋症患者さんは激しい運動をしてよいか?

 肥大型心筋症は心臓の壁が厚くなる、比較的よく見られる遺伝性の心臓病です。その病気による影響が患者さんお一人お一人で大きく違うという特徴があり、人によっては生涯にわたって何の症状も感じることがない方もいらっしゃれば、若くして突然亡くなってしまう方もいます。特に、若くして突然亡くなってしまうような方については、どのような特徴があるのか、また予防する方法があるのかを知っておく必要があると思い、このメモを作成しました

 スポーツ大会中に突然死してしまったアスリートが実は肥大型心筋症であった、という新聞報道を時折見かける。心臓の筋肉が肥大し、ランダムな筋線維配列になり、これが不整脈の原因になると考えられている。激しい運動は致死性不整脈のトリガーとなることが示唆されてきた。 
 肥大型心筋症患者さんが激しいスポーツをしてよいのか、以下の論文が1つの答えを出している。

https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/article-abstract/2805064

【概要】
この研究では、激しい運動が肥大型心筋症患者さんにとって、リスクが高いのかを調べている。2015年から4年間の間に登録された1660人の患者さんを前向きで観察したコホート研究である。肥大型心筋症患者さんの身体活動レベルを患者の自己申告に基づいて、①座りっぱなし(252人、15%)、②中等度の運動(709人、43%)、③激しい運動(699人、42%)、に分類して、主要なエンドポイントは死亡、突然の心停止、不整脈性失神、除細動器の適切作動としている。①を非活動群、②③を活動群にしたとき、これらのイベントの発生率はそれぞれ、①4.6%で15.3人/1000人/1年あたり、②③は4.7%で15.9人/1000人/1年あたり、という結果で両群に差はなかった。

【肥大型心筋症とは】
肥大型心筋症は比較的しばしば臨床診療でみられる、遺伝性心疾患である。有病率は200~500人に一人とされ、心室の肥厚を特徴とする遺伝性心疾患である。組織学的特徴として、心筋細胞の肥大化、心筋の錯綜配列、心筋線維化が挙げられる。その結果として、心室の拡張障害、左室流出路の閉塞、心室性不整脈などの心臓合併症の原因となる。遺伝形式は多くが常染色体顕性(優性)遺伝形式であり、原因となる遺伝子は心筋細胞の骨格を形作る構造タンパク質をコードしているものである。

【制限】
ただし、この研究では、肥大型心筋症患者さんに加えて、病的バリアントを持つが心肥大のない方々も含まれており、このような対象者を含めた解析であることには注意が必要である。

【結論】
肥大型心筋症患者さんが激しいスポーツを行うグループと行わないグループで生じた心イベントに差はない、という結果であった。

【考察】
肥大型心筋症患者さんの診療においては、遺伝学的検査の結果に囚われすぎずに、心エコーやホルター解析でリスク評価をして、生活スタイルを決めるのが望ましい。

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