民間企業からアカデミックポストに就職した話

 完全なノンフィクションか、フィクションがあるのか、それとも全部フィクションなのかは皆さんのご想像にお任せします。
 民間企業からアカデミックポストに戻ってみた人が何を考え、どう行動して、どんなことが起こったか、そしてそれに付随するたくさんの蛇足(※〇)記された大量の注釈文:フォントサイズや色の変更が出来ないの知らんかった…)を記載します。なお、構成を考えずに書いた結果、本論からそれた、あるいは若干センシティブな文章が大量発生しました…その部分には割愛と記載してあります。削除するのも惜しいのでその部分は有料部分として封印しました。以下、本文だけで約15,000字もあるようです…文章と構成がドヘタ…
 なんでこんな変な時期に書いているのかって?それは中途半端な時期に着任したからですよ。決して書くのが面倒でず~と先延ばしにし続けていたからではないですよ。 
 本文章中のアカデミックポスト探し(公募戦士)の中核部分は1と5ですので、そこだけ読みたい方は下記目次より飛んでください。


1.人物情報

 企業ポストもアカデミックポストも研究分野ごとに状況が全く異なるためどんな人かを記載しておきます。なお、詳細は避けますが、著者は学部の授業料はもちろん、大学院の入学金を免除してもらう程度には実家は太くなかったです。

(0)なぜ博士号を取ったのか、そもそも私にとって博士号はなんなのか

 私は研究をすることに違和感がなかったという理由で博士課程に進んだ人なので、博士号を取った理由は成り行きということになります。もっと正確に言えば、学生身分で遊んでいる間大した責任もなく好き勝手やっているだけでなんか評価されて、なんか認定された結果おまけでついてきた称号が博士号です。(※1) そのため、博士号が取得できなくてもまあいいか、なくても死なないし働き口はあるし。くらいの気持ちでした。あまりにもテキトーですね。(※2)
 それでは、私にとって博士号はどういうものなのかというと、やはりそれ自体に大きな意味はありません。(※3) ただし、博士号を取得するまでの過程(学部~修士を含む)で私が得た、選択する権利の範囲を広げるうえでは、博士号というトロフィーが役立っていると思います。

※1:甚だ誤解がありそうな表現で恐縮ですが、そう自己認識していたという話です。世間では同年代の人たちがお金を稼ぐために社会貢献とか実のある素晴らしいことをやっているのを傍目に、そんなことは大して考えずに好きなことを(ありがたいことにある程度のお金を貰いながら)やっているのって最高に贅沢なことだと思っていました。世間的にどう見えていたかとかそういうことは知りません。
※2:剛の覚悟(不退転の決意、心構え的精神論の意)よりも、こんにゃくみたいにふにゃふにゃな柔の覚悟(不測の事態の予測、具体的な備え、ど~でもな~れという悟り)のほうが役立つというのが私の経験則です。実際に、博士を取れなくても直近の生活を困らなくするあてはありました。(つくりました)
※3:社会的には実利もあります。ビジネス上の実利があります。他には、研究も博士号もよくわからないけれど、取るのが大変な資格(?)らしいからよくわからないけど持っている人はスゴイ人と認識される謎の効果もあるようです。享受できる効果は特段の理由がなければせっかくなので享受しておきます。

(1)   扱っている分野

 化学系、特に触媒化学に関連する研究を専門としています。均一系/不均一系、熱/電気化学など反応を問わず幅広く扱ってきましたが、いずれもなんもわからん状態のぺらぺらな専門性です。どれか一つでもチョットワカルになりたいです。

(2) 分野の状況(民間企業での需要)

 一言でいえば人手不足の極みです。特に炭素循環や水素利用関係は、政策、補助金による需要急増でかなりの売り手市場です。有名なあの会社も、一見関係なさそうなこの会社も人を欲しがっています。(ただし社外秘情報が多いのでぱっと検索して出てこないことが多い。)

(3) 就職するまでの業績や経歴

 突然生々しい話で恐縮ですが、なんだかんだで色々とついて回るので書いておきます。関係が薄そうな話も多数ですが、使えるものは全部使うということで書類書きには役立ちました。以下、関係しそうなもの順に列記。
(i) 論文数:筆頭3報(修士で1報、博士で2報)、総説1報 共著は5報くらい。
(ii) 特許:1報
(iii) 受賞歴:財団から1つ、学会や大学からいくつか。
(iv) 給与奨学金とか奨励金:民間からいくつかと学振。重複期間無。
(v) 研究以外:早期研究支援や小~高校生の研究支援(ボランティア~業務委託まで)
(vi) 経歴:RU11で学士~博士まで取得。学位ごとに別のラボ(理由:やりたいようにやったらそうなった。計画?そんなものはない)

(4) 前職の業種

化学系のそこそこ大きな日系企業の研究開発職。基盤研究よりの業務を行っていました。カーボンニュートラルなんもわからん。

2.博士卒後に民間就職をした経緯

(0)   博士号取得まで(割愛)

(1)   博士卒の就活を振り返って

 私は博士号取得後に民間に行くか、アカデミックに行くかにこだわりはありませんでした。やりたいことができそうならどっちでもいい、縁があったところに行くということを最優先で就職活動をしていました。ただし、就活時期が民間企業のほうが早いのでそちらで決まったらそこに就職すると決めていました。(※1) そのため、時間をかけずに本当に興味があるところだけ応募して、縁がなかったらアカデミックポスト(※2) という選択をしました(お気楽就活作戦)。
 具体的には興味のある夏季、冬季インターンに応募してインターンの選考に通ったところしか真面目に出しませんでした。(インターン経由で3社、テキトーに1社だけ応募)。インターン経由の2社から内定を頂いたので縁があったということで3月頭に就活が終了し、企業就職が決まったのでした。研究時間に食い込んだのは説明会数回と短期のインターン、採用面接くらいで合計1週間分もないと思いますのでお気楽就活作戦は成功したわけです。(※3、4)
 
※1:内定承諾からの辞退もできますし否定もしませんが、個人的にはそういうことが苦手なので考慮していなかったです。
※2:昨今人手不足だしポスドクならどっかあるだろう。知らんけど。という気持ちでした。
※3:元々寝る間も惜しんで研究とか土日も実験とかする人ではなかったので、その他はそこへシュート。(自己分析:25年以上生きて何を今更、研究概要:民間奨学金や学振の改変・流用、SPIとか:苦手ならその年の過去問を自分で作ればいいじゃない、面接対策:過去質問をあるだけ集めて回答作るだけ なのでちまちまやればそんなに大変じゃない)
※4: 本作戦の成功要因は、分野、丁度見つけた現象の面白さ、自己PRが容易な経歴とメンタルゲーたる就活の特性に作戦がマッチしたことでしょう。気楽にやる≠無計画。

(2)   企業就職に対する周りからの評判(割愛)

3.企業就職後のお話

(1)配属と職場環境(内容一部割愛)

 新卒入社後の配属は私の第一希望通りとなり、研究所の最も基盤技術寄りの部署に配属となりました。職場環境は非常に良好でした。チーム員は何かしらの得意分野や秀でたものを持った方々でした。実験の結果/考察など研究に直接関与する場面では、全員が同じ研究者の立場として議論し、上司の見解も覆るし、1年目の意見も通る職場でした。(※2)

(2)担当業務の割り振り(割愛)

(3)働き方

 前職では、フレックス制or裁量労働制を個々人が選択する方式になっていました。テレワークも申請すればOKでちゃんと仕事と記録をしていれば何も言われませんでした。朝から会議の日は午前テレワーク、小刻み会議の日は一日テレワーク、新型コロナワクチン接種をお昼に入れたいからテレワークなどかなり自由度が高かったです。ちなみに私はフレックス制でしたが、月平均残業時間が5時間以下だったので裁量労働制にして、手当もらったほうが圧倒的にお得でした。(モッタイナイネー)ちなみに有給消化率9割が目標に設定されていたため、みんな有給はしっかり消化していました。(※4)なお、研究開発職でいる限り、特段の事情がなければ転勤はなく、研究所の立地も良い場所だったと思います。(※5)

※4:労働時間は減っても仕事量は減らないのでどうしよっかねーという感じではあった。私が特にホワイト労働していただけでグループ全体ではかなりの労働時間になっていたと思う。私が残業をしなかった一番の理由は残業申請が面倒くさかったから(大真面目)。
※5:特段の事情:PJ終了で部署縮小、部門ごと関連会社に移動など。

(4)給与・待遇(※6)

 業界でも給与が高かったと思う前職。そんな会社の博士卒の給与ってどんなものかというと、
1年目:1-3月は学振で20万、夏ボーナスなしで大体額面が450-500万円くらい(住宅手当、残業代or裁量手当含)
2年目:額面650-700万円(住宅手当、残業代or裁量手当含+賃金改定による補正有)
くらいです。細かい話は伏せますが、ここから10年以内に900万程度まで到達、管理職になると1000万はこえるはずです。(そこから先は狭き門)
この給与で結構貰えていると思うか、こんなもんじゃ安いと思うかは感じ方次第でしょう。(私は十分満足していました。)
さて、この給与のうち、何割が研究によって貰えているのでしょうか。私の体感では、研究で貰えている分が6-7割、その他研究者がふぁっきんわーく(FW)と思うような仕事(会議、調整、政治、手続き、事務作業etc.)が3-4割くらいなのかな~と思って貰っていました。(FWをゼロにすると仕事が回らないので実質不可欠な労働)FWと思うそれらは雇用と給与の源泉なのだろうと思います。(※7) 

※7:どこかの部署からくる、(我々の)業務効率化の観点から~通知により発生するFWは全体業務が非効率化しているので真のFW。滅ぶべし。

4.アカデミックに行こうと思ったお話

 3.で書いたように前職の職場環境も待遇もいいのになんでアカデミックに行こうと思ったのですかって話です。雑にまとめれば自分がやってみたいから。

(1) 前職での違和感(一部割愛)

Q:実は前職にたくさん不満があったんじゃないですか?
A:もちろん不満はありましたけど、多くないし、致命的なものはないですよ。例えば某有名論文誌が購読されていないとか、出張規定に謎な部分があるとか。あと、下記の通り、大体の原因は私側にありますので前職のせいじゃない部分が大きいですね。
 前職の不満というよりは違和感のほうが適切だと思うのでこう書きます。以下、違和感の箇条書きです。
・特許の(悪しき)風習(内容割愛)
・エンジニアリング(工学)とサイエンス(理学)に対する認識の違い(内容割愛)
・お金のための研究(内容割愛)
・シビアな目標、期限設定と犠牲になる精密さ(内容割愛)
 
 経験的にはこういう違和感とか文化の違いはどうせ数年で慣れて適応するけれど、まだ慣れちゃダメな気がしました。なんとなく。

(2)教育への関心

 企業で今の分野に触れている中で、分野の需要は大きいのに供給が少ない(+数か所に偏っている)こと、基礎検討が必要なことが多いことを実感しました。元々教育には関心があったので、アカデミック、特に大学の研究室で教育に携わるのも私にとって良い選択だと思いました。もちろん講義などを受け持つ立場になったらそちらもやりますが、私自身が座学ポンコツなので役立てるか極めて怪しいです。やるからにはそれなりのものにしたいところですが…

(3)お金を稼ぐことに関心が薄い(not無頓着)(※1)

 元々、私の中でお金を稼ぐことの優先順位は低かったのですが、企業である程度の年収を得るようになって改めてお金稼ぎに関心が薄いことを実感しました。もちろん個人的な閾値はあります。年収200万と400万では幸福度に大きな違いが出ますが、400万と600万ではそれほどではなく、600万と800万ではもう大して変わらないなというのが私の感覚です。(※2)
 現状、30歳前後における平均的なアカデミックポスト(ポスドク、助教)と私がいた業界の賃金差は年50-150万程度ですが、まあこの程度ならアカデミックポストで得られるもの次第では許容範囲だろうと思いました。(※3)

※1:株とか暗号通貨とか持っていますが、それらは仮説検証ゲームみたいなものです。また自身の価値観や基準を定めて判断しているので無頓着とは異なります。
※2:配偶者が出来る、諸外国並みにインフレが進むなど環境が変われば基準も変わるでしょう。現在の私周辺の環境に限った話です。
※3 :賃金カーブの差があるので年を取るほど、賃金差は広がる傾向にあると思います。

(4)自由の価値

 自由の価値ってどれくらいなんでしょうね?私にとっては、自由(やりことをやる)の価値は結構高く、企業でやりにくいこととアカデミックポストできる可能性があることの差分は、たとえ待遇が下がっても得たいものの一つでした。とはいっても、前職でも求める自由の7割程度は満たされており、求める自由が十分に満たされる可能性の高いアカデミックポストにしか行くつもりはありませんでした。ざっくりした自由の価値の見積もりは次のパートに記載しました。

5.アカデミックポスト探し

前置きが長すぎてもう誰も読んでなさそう。ようやく、本題(?)のアカデミックポスト探しの話です。

(1)自由の価値はいかほどか?

 自由の価値を定量化するのは困難です。一方で、何かの選択をする際には天秤に乗せる材料として無視できないという厄介な性質があるのが自由の価値だと思います。アカデミックに行くかどうかを考えるうえで、自由(やりたいことをやる)の価値を自身の基準で定めることが重要だと思い、とりあえず賃金に主観的な自由度係数(0~1)をかけるという謎計算をすることにしました。以下、やりたいことが出来るかどうかの度合いを自由度係数とし、全くできていない状態を0、すべて理想的にできている状態を1とします。それっぽいことを言っていますが、ただの主観なのでテキトーです。
・前職の自由分賃金:主観的な自由度係数は0.7-0.75
年収(600-700万)x(0.7-0.75)=420-525万(残り0.25-0.3分は不自由さを対価に稼いだお金)
昇格して係長、課長…となっていけば年収は上がりますが、自由度係数は…()であることが先輩を近くで見ていて明らかでしたので、10年程度は係数をかけた後の数値に大きな変化はないと思いました。この結果をどう使うかというと、アカデミックポストの自由分賃金が前職の自由分賃金と同等以上かどうかの参考にします。
・アカデミックポストの自由分が稼ぐお金:主観的な自由度係数:?
こちらが問題で、未来の賃金も自由度係数も確定していないので計算できません。しかし、給与の下限、自由度の下限の目安を作るうえでは有用そうです。今回、基準の言語化にあたり、私の基準が妥当そうだったのかを確認するために(自己満足的に)後ほど算出してみます。

(2)応募する公募の選定(一部割愛)

 アカデミックポストの公募探しをしていたときにの状況、何を意識したのかについて記載しました。

(a)アカデミックポスト探し中の状況
・前職に大きな不満はなく、そのまま働き続けても全く問題なかった。
・直近数年間で違う部署へ移動になる心配は小さかった。
・残業時間は平均月5時間以下で、公募先探しには十分な時間が取れた。
つまり、足元が安定しており、時間をかけてを選定する余裕がありました。
(b)アカデミックポスト探しで気を付けたこと
 以下、公募探し中に気を付けたことを列記します。当たり前のことばかりかもしれませんが、複数の当たり前を揃えるだけで、当たり前ではなくなることはよくあります。
・自身の立場上の優位性を最大限活用する。(お気楽作戦part 2)
・SNS上の不確かな情報など自身が信用に値しないと思った情報はすべて無視する。(ウワサの域をでないような話は情報ではなく与太話)
・公募を出している方の研究活動だけでなく、人となりを知りに行く。
・公募を出している大学の規定集、PJ雇用ならばPJの概要や要項をしっかりと読み込む。
・信頼する人に協力を依頼する。
・応募する公募に合わせた申請書類を作る。
・本職は絶対におろそかにしない。
・自分が求めるポストの要件を明確化し、それに従ってポストを探す。(詳細は下記)
以上8点は意識的にせよ、無意識的にせよ気を付けてポスト探しを行いました。
(c)アカデミックポストの公募を探すうえで設定した要件
下記に私が設定した要件と理由を記します。番号は優先順位です。(※1)
(i)最大任期4年以上、望ましくは5年以上(更新確率が高ければ毎年更新も可)
 任期3年では、環境変化になれるのに半年、次のポスト探しで半年を見積もると実質2年しかなく、できることも様々な制限かかる(=自由度係数が下がる)と判断しました。  
 任期が毎年更新かどうかは重きを置きませんでした。これは、PJ付きポストの更新確度はPJの性質によるためです。例えばNEDOのような産業よりかつ成果にシビアなPJでは中間のステージゲートのハードルが高いことはままあり、予算削減やPJ途中終了のリスクがそれなりにあると判断しました。一方で、JST系のPJのような基盤研究よりのものは、NEDOと比較するとゲート要件がそこまで厳しくない傾向にあるため、PJ継続率は高くなりがちで相対的に更新確度が高いと判断しました。
 その他、領域分けのある大型PJなら成功率の高い内容(比較的成果が出そうな内容)が抱き合わせになっているか(ステージゲート通過率が高そうかの目安)、過去の系列PJで途中打ち切りになったものはあるかといった観点も選択の参考にしました。
 
(ii)推定される自由度係数≧0.75、望ましくは≧0.8
 この自由度係数の見積もりには、公募の内容(分野ややってほしい研究内容)に加え、PJ付き特任ポストならばPJに関連する自身の研究にエフォートを割けるかどうかも考慮に入れました。PJによっては、PJ専任義務が発生し、それ以外の研究ができないという制限がつくことがあるためです。(※2, 3) エフォート100%が要求されると、実質の自由度係数が下がるだけでなく、研究費申請ができないことによって、自身のキャリア形成においても重大な問題を発生させます。研究者としてのキャリアにおいて、自身で申請書を書き、研究費を獲得することが重用されるためです。
 
(iii)キャリアのスタートとして良い環境かどうか(一部割愛)
 キャリアのスタートこそ可能な限り選り好みせよという方針を取りました。(※4)
(iv)年収下限400万円、望ましくは下限500万円
 アカデミックポストの公募は年収が明記されないため推定が大変です。しかし、公開されている給与規定を読めば、給与レンジはわかりますし、平均的には給与レンジの下限、上限に張り付くわけがないので、少なくてもレンジ上端下端の10%分はカットして見積もれると思います。また、勝手な参考として、特任ポストの公募で1つの公募の中で、複数の職位を同時募集しているかどうかを見ていました。これは、わざわざ職位を分けて記載するということは、当該職位によって待遇を分ける意思がある可能性が高い(=お金を出す気がある)と判断したからです。本当に意味のある目安になるかは怪しいです。(※5)
 加えて、特任ポストであれば、資金源となるPJの要項に雇用や待遇に関する留意事項の記載があるかどうか、あった場合その記載はどうなっているかは気にかけていました。とあるPJの要項には、博士学生を含む若手研究者の待遇に関する留意点と待遇目安が記載されており、このPJの予算元は配慮してくれているんだなぁなどと思いました。
 
(v)(アカデミックポストの自由分賃金)≧(前職の自由分賃金x0.9(望ましくはx 1.0))(内容割愛)(※6)
 
※1:当然、実際にはこんなに具体的にがりがり計算していたわけではありません。もっと抽象的かつ感覚的にとっちらかって考えていましたが、それを整理して言語化するとおおよそこうなりますという話です。
※2:最近は若手ならエフォート20%までは裁量でPJ関連の自身の研究に用いても良いとするPJがかなり多いように思います。公募時にPJの要項を読んだ限り、専任義務が厳しいNEDO系のPJでも若手には20%裁量権を認める旨の記載があったと記憶しています。
※3:エフォート20%の裁量権を認めるかどうかはPJ代表の判断に基づくため、代表が認めないといえば認められない可能性はあります。ただし、このご時世、契約の取り交わしや特段の事情がないのであれば、むやみやたらに裁量権を認めないという専任強要は許可されないのではないかと思います。(思うだけで実際どうかは知りません。裁量を認めないと言われた事例も直接みたことはありません。)
※4:割愛
※5:実際には、まず予算の中から人件費を確保してその額に合わせて公募を行うことになるはずなので、採用することを想定している職位はあるはずです。例えば、特任准教授、講師、助教のいずれかを募集という形にしていても、予算枠は特任講師を採用することを想定して確保してあるといった具合です。
※6:やたらぴったりで逆算でもしたんじゃないかと疑われそうですが、全くそんなことはなく実際の感覚をそのまま記載したらこうなりました。つまり、当時の感覚はそれほどずれていなかったということが分かりました。(書いていてびっくり!)

(3)応募先探しから採用内定まで

 (2)の通り、安定な立場を利用して、相当な選り好みするつもりでした。そのため、候補になる応募先も少ないことが予想されます。特に、応募先探しだけでも数か月はかかり、採用内定までには1年程度はかかるだろうという見込みをもって応募先探しを始めました。
 
(a)応募先探し
 私は特に直近で使えるコネはありませんでしたので、みなさんお世話になっているJREC-INで公募先を探しました。(※1) 公募先探しは会社から帰宅後にちまちまやっていました。やはり最大任期4年以上の条件の時点で結構絞られてしまうというのが第一印象でした。4年以上となると、大学雇用の助教ポスト(※2)(e.g.任期5年、再任1回まで)が大半で、PJ付きの特任ポストだと最大任期3年以内のものが多かったです。(※3)また、採用後の給与について、それぞれの大学の規定やPJの規定を読んで該当箇所を見つけるのはそれなりに時間がかかりました。
(b)応募先探しから採用内定までの所要期間
 応募先探しから最終面接通過までが4か月程度、応募した公募先は2件、応募を検討した公募が2-3件でした。応募したうちの1件は意中の人がいた公募(応募段階でそうだろうとは思っていた)、採用頂いた公募は特任ポストで候補者が決まっていなかった公募でした。いずれも、雇用元の先生と特段のつながりはありませんでした。
 うわさで聞く話よりもだいぶ短期間で決まったのは、下記のような理由が考えられます。
・私の分野において、ポスドク、助教のポストは圧倒的な人手不足状態が続いている
 これは多くの分野で言われていることではないでしょうか。大手企業よりも相対的に待遇が悪いので人が集まらないという話ですね。
・タイミングよく要件に見合う公募が出ていた
 一言でいえば運が良かったということですが、実は応募の数か月前に採用頂いたポストの雇用元の先生の講演を聞く機会があり、一方的に知っていました。ご縁があったというやつでしょうか。(※4)
・アレンジされたわけでもないのに、私の持つ経験/知見とぴったりの公募が出ていた
 これも運が良かったというやつですが、時流と専門がマッチしていたこと、前職で色々と経験させてもらえたこと(させてもらえるように取り組んだこと)も要因だと思います。
・博士までの研究に自分の色があったこと
 博士までのそれぞれの研究で面白い現象を扱って論文にできたのはやはり大きかったように感じます。自分の色があること、それを伝えられることは業績量と同じくらい大事かもしれません。
・ちゃんと公募内容と自分の専門性を理解して書類を書いた
 何当たり前なこと言っているのと思うでしょうが、下記のように実態はどうも当たり前でもなさそうです。
・公募内容を理解して応募している人が実は少ない(内容は割愛)
・当該公募向けに書類作成をしている人が実は少ない(内容は割愛)
 
 公募内容と求められているものを理解するように努めて、当該公募向けに内容をアレンジした書類を作成することは、採用候補者に残りたいならば当たり前のことだと思いますが、その当たり前ができるだけで差別化できてしまうというのが現状のようです。(※5)
 
(c)採用頂いたポストの概要(内容一部割愛)
細かい話をしても仕方がないので当初の要件に沿って整理しました。
(i)最大任期4年以上、望ましくは5年以上(更新確率が高ければ毎年更新も可)
毎年更新で最大任期5年以上のポスト。資金元的にも更新確率高&PL以下PJ完走に意欲的な研究者が多い。
(ii)推定される自由度係数≧0.75、望ましくは≧0.8
 公募内容と現在までの雰囲気からは自由度係数≧0.8は硬そうで、0.85以上の可能性も高いです。エフォート20%分の裁量権も確保可能と確認済みです。
(iii)キャリアのスタートとして良い環境かどうか
 研究設備、スタッフ、研究者間の繋がりを含め相当整った環境にあると思います。
(iv)年収下限400万円、望ましくは下限500万円
 賞与等込み扱いの年俸制でおよそ600万円です。額については確定前でも概算額は通知していただけました。最終的には俸給表ベースで回答を頂きました。(年俸や任期といった待遇面は対面面接後に直接聞きましたし、のちには採用内定書も発行していただきました。)(※6)
(v)(アカデミックポストの自由分賃金)≧(前職の自由分賃金x0.9(望ましくはx 1.0))
・前職の自由分賃金:主観的な自由度係数は0.7-0.75※1
年収(600-700万)x(0.7-0.75)=420-525万(残り0.25-0.3分は不自由さを対価に稼いだお金)
年収(600万)x(自由度係数:0.8~0.85)= 480-510万>前職の自由分賃金(420-525万)x0.9
であり、目安の要件も余裕をもってクリアできています。
 
以上、(i)-(v)の通り、私が想定した現実的に望みうる最大限の待遇に近い条件でポストを得ることが出来ました。また、前職が安定しており、足元を気にせずに公募の選り好みを出来たことが良いポストにたどり着けた最も大きな要因だと思います。時間的、精神的な余裕は多くの面で有利に働きます。今後、研究の行き詰まりなど様々な事態が想定されるので、どう変移していくかは分かりませんが、そんなことは誰にもわからないのでそのとき考えます。
(d)次のキャリアについて(内容一部割愛)
 今のポストも着任して日が浅いので次のキャリアを考える状況にはないのですが、ざっくり2つあります。1つは現在の任期内に次のアカデミックポストを見つけること、もう1つは再度企業に行くことです。今のポストの最大任期を迎えるタイミングというのは、今後のキャリアをアカデミックで歩むのか、企業で歩むのかを判断するのに年齢的にちょうどよい時期となりますので、その周辺のタイミングで考えようと思います。(この業界にいる限り、どんな立場でも存在証明を続けていくことが重要だと感じます。)
 
※1:(割愛)
※2:よく知られた話として、大学雇用の助教ポストは候補者が決まっている場合が多いため、候補者が決まっていないという情報や候補者探しの情報が信頼できるルートから回ってこない限り、採用見込みは低いようです。よく出来公募と揶揄されますが、私は理想的ではないけれど、現実的には納得できるものと捉えています。
※3:PJの資金の継続年数の都合があるため仕方のないことです。研究費の額はそのままでも年数を5年、6年に延ばしてもらえるだけでだいぶ状況は改善すると思います。
※4:博士のラボも学会のPJの成果報告会での発表を聞いていて見つけました。何かと講演会の聴講で縁ができる傾向にあるようです。
※5:書類を読む方に失礼のないものを出すというのは、その公募の採用可否とは関係なく重要なことだと思っています。世間は狭いですし、印象というのは大事です。また、公募自体は不採用でも、応募書類が目に留まって、別の機会に何か縁がある可能性も否定できません。
※6:待遇面や裁量権は確認すべきですし、できる限り文面として取得するべきです。教えてくれない場合やそれで不採用になる公募が本当にあるならそんな公募は落ちたほうがいいです。最悪、嘘をつかれたならその証拠が残りますし、そういう場所からは特段の理由がなければさようならです。
 応募者側の個々人の自衛の積み重ねは、待遇非開示のような悪習を減らし、低待遇の地雷ポストへの人材供給を断つことで、真っ当な公募を増やすことにつながると思っています。SNSなどで待遇を聞いたから公募に落ちた、待遇を聞いてきたから落としたみたいなウワサが出回っていますが、そんな真偽が定かではなく証拠もないような話は気にするに値しないと思います。(もっとも足元が安定しており、直近の収入源の心配がない立場だったからこそ容易に行動に移せた面はあり、背に腹は代えられぬで突撃していかざるを得ないことがある点は理解しています。)

6.民間企業を経由したことのメリット/デメリット

 大前提として、最初から腰掛けを目的として企業にいくこと、腰掛けを前提とした仕事の仕方をすることはお勧めしません。特に、後者は全くお勧めしません。前者の場合でも、最低でも腰掛ではない人たちと同等のパフォーマンスを示し続けることが肝要だと思います。(※1)
 一方で、キャリアの歩み方の一つの選択肢として、博士(修士)卒後に一度民間企業に就職し、若いうちにアカデミックに行くというルートは持っておいてよいと思います。企業もアカデミックの職も、多少の特殊性はあるにしろ職業の一つでしかないので、そこの間の行き来に大きなハードルを設置する合理的な理由はないはずです。むしろ、私の分野ではここ5年程度で、国の方針や世界的な潮流も含めた様々な要因から、アカデミック-民間企業間の距離が縮まり、民間ではアカデミックの、アカデミックでは民間の知見を持つ人の需要が高まっているように感じます。(※2)

(1)企業を経由したことのメリット


 ここでは博士卒後に一度民間企業へ就職したことによって、結果的に得られたメリットを記します。なお、3で記載した通り、前職は非常に恵まれた職場環境だった点にご留意ください。
・研究開発や人とのつながりの面
(a)実証~実用レベルでの技術動向、課題、技術開発に触れることができた
(b)アカデミックでは困難な時間、お金のかかる検討や技術開発の知見が得られた
(c)社内外の人との交流や繋がりを持つことが出来た
(d)私の人となりや能力について知ってもらい、一定の評価を頂けた
 前職時代、入社当初から様々な経験の機会をもらえたのは、相応の期待をかけられていたからだと思います。(営利活動ですから、みな平等に機会を与えられるわけではないはずです。)結果的からみれば、相応の回答が出来ていたからこそ、継続的に機会を与えていただき、短い期間ながらも多くのことが学べたと思っています。同期入社の方、関わりの深かった同じ部署の方など、人との繋がりが得られたことも大きかったと思います。
・立場や待遇の面
(e)比較的高い収入と社会的信用、労働に関する一般的知識を得られた
(g)その時点での自身の価値観について再認識する機会になった
(h)安定な立場を得たことで、未来の行動を自分の意志で選択しやすくなった
特に(h)は5で記載した通り、ポスト探しにおいて大きなメリットとなりました。相対的にも有利な立場を確保できたことで負け筋を減らし、勝ち筋を増やすことが出来ました。(※3)
 
※1:私は、新卒入社した企業に骨を埋めるつもりも、腰掛でどこかに行くつもりで入社したわけでもなく、自分がそうしたいと思った方向に進むつもりでした。(つまり何も考えておらず行き当たりばったり)その代わり、選択する権利が手元に残るように努めていました。
※2実際に、企業での研究開発の経験が現在のポストに採用された要因のかなりの割合を占めています。もし、博士卒後そのままアカデミックに行く予定で、公募探し中に全く同じ公募を見つけたとしても応募すらしていない可能性が高いです。
※3繰り返しの内容になりますが、負け筋(採用後に低待遇が判明する公募、職位のみ高く表示した詐欺まがいの公募、待遇等を伝達しないアカデミックなどの悪い慣習の罠にはまるetc.…)を減らすことは、自身の保身につながるだけでなく、悪い慣習への人材供給を減らし、悪習撲滅にも寄与できます。他人を助けたいならまずは自分が助からないといけません。
 

(2)企業を経由したことのデメリット(リスク)


 私自身は研究所の中でも基盤研究寄りの部署に所属していたため、アカデミックに行く際のデメリットはあまりありませんでした。経過年数も短かったため、業績的なデメリットもおおむね無視できる程度だったとおもいます。以下は、一般的に想定されるアカデミックに行こうとしたときのデメリット(リスク)要因を列記しました。
・そもそも就職活動が上手くいかない、ついでに研究にも影響が出て学位取得に苦しむ
・配属部署の主業務が研究ではない
・研究開発職とは名ばかりの開発しかしない部署に配属される
・研究職ではあったが、職場環境が悪く研究どころではなくなる
・研究職ではあったが、専門と全く異なる部門に配属される
・研究職かつ希望部署に配属されるも、早々に指示・監督者側となり現場感が失われる
・個人の業績になるようなものを積む機会がない
・学会などに参加する機会が得られず、最新動向から遠ざかる
・本職が忙しく、公募探しや公募応募どころではなくなる
・本職も公募もどっちつかずになり共倒れになる
・年齢的な特権が徐々に失われる
・どっちの業界からも微妙な扱いを受ける可能性がある(主にかつて存在したと噂の純血主義者的人から。私自身は出会ったことがないですが。)
 
他にも色々あると思いますが、私の分野でぱっと思い当たるのは以上のようなことです。結局は就職先の環境に原因がある事項がほとんどでなかなか避けるのも難しいという実態があります。

7.まとめ(まとまらない)

 人生設計とか長期的計画性とは無縁の人がアカデミックポストに流れ着いた話でした。企業とかアカデミックとか括りはどうでもいい、自由に行き来すればいいじゃん、です。
本駄文をまとめると以下のようになります。
(1)どうせ人生1回なので好き勝手に生きる(掛け金は選択する権利と人生)
(2)計画性のない人生を支えるのは短期的計画性(なんという矛盾…)
(3)柔の覚悟(不測の事態の予測、具体的な備え、ど~でもな~れという悟り)は身を助く。
(4)公募選びでも書類作成でもなんでも、当たり前の積み重ねと自分自身が何者か、価値観は何かという根源的なものを大切にする。
(5)この文章も鵜吞みにしない。自分を助けられるのは自分だけ。自分を納得させられるのも自分だけ。自分で考え、自分で選ぶ。

以上、で本文は終了となります。約3000字分の割愛部分を読みたい奇特な方、投げ銭してやるよという方は以下から有料部分をお読みください。テキストではなく、この文章の原文のpdfファイルとなっています。

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