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障老介護、統合失調症の青年の悩み

三人家族のご家庭がありました。
一流企業に勤務されていたお父さんは、今はいるのかいないのかわからないくらいに、ご家庭の中では影が薄い存在です。
一人息子さんは統合失調症で、近隣の就労支援施設に通っていました。
とても誠実で、まじめな方です。
彼はIT系が得意で、パソコン入力の仕事をこなしながら、正社員になる夢を持っていました。
彼の実力であるなら、それは実現可能であるだろうと、就労支援の職員は皆思っていました。
夢はあと一歩のところ。
見えています。

ところが、お茶の先生をしていたお母さんが認知症になりました。
とてもとても重い認知症です。
悩みは徘徊でした。
まじめな息子さんは、お母さんの介護をし始めました。
影の薄いお父さんは介護に関与しませんでした。

お母さんは昔、沢山の山に登っていた、ベテランの登山家でした。
ですから、認知症になった今でも、足腰丈夫。
いくらでも歩ける、体力満ち溢れているのです。
そういうわけで、お母さんの徘徊は、一般の徘徊の常識を超える、ながーい距離の徘徊だったのです。

息子さんにお母さんの徘徊コースを聞いて、思いました。
私なら、バスに乗る距離だわ。
お母さんの徘徊は家の周りをぐるっと一周とかのレベルでなく、車の往来の激しい幹線道路を、数キロに及ぶ徘徊でした。

信号は無視する。横断歩道のないところで、道を突っ切る。
警察に保護されること数回。
そのたびに、警察に迎えに行き、注意されるのは息子さんです。
お父さんは影が薄く、家のことは知らんぷり。

息子さんは苦しみました。
正社員になりたかったのに。
希望を持っていたのに。
でも、しょっちゅう警察から呼び出され、母親から目を話すことができず、
「ああ、もう、これで、終わりなのか。」
「どうしたいいんでしょうか。」
「夢をあきらめるしかないんでしょうか。」と苦しみました。

今まで安定していた息子さんの精神状態は、一気に悪化していきました。
家族には力関係があります。
家族の一人がいい方に向かうと、なぜか、もう一人が、押しとどめるようなことがよくあります。

そして、この家庭もそうですが、絶対にキーパーソンになろうとしない人物も存在します。知らんぷりはどこまでも続きます。
これは家庭内だけでなく、地域でも大きい単位の社会でも起こります。
知らんぷりをするってことで生きている人もいるのです。

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