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Jリーグマスコットが多くの日本人に愛される理由を歌舞伎とシェイクスピア劇から考える。

Jリーグマスコットの多くは動物をモチーフにしている。鹿、犬、鳥、熊、狼・・・昆虫もいる。マスコットはファンに対する道化役や案内役ではなく、クラブの一員もしくは、サポーターとは共に応援する仲間にまでなっている。欧米のスポーツチームにも多くのマスコットが存在するが、その位置付けはJリーグマスコットとは異なる。なぜだろう。

まず「中の人」について考える。そして、後半では和洋2つのステージエンターテイメントである歌舞伎とシェイクスピア劇における動物の登場方法を比較して、Jリーグマスコットが多くの日本人に愛される理由を考えてみた。

欧米のマスコットは来場したファンと触れ合いや、アクロバティックなパフォーマンスでスタジアムを盛り上げる。

欧米でも試合の日のスタジアムでマスコットは大人気。また選手不在のイベントではマスコットがチームの顔となり、写真撮影の被写体となる。MLB1978年から1993年まで、フィラデルフィア・フィリーズのマスコット「フィリー・ファナティック」の中の人だったデービッド・レイモンド氏はマスコットの中の人を育成する会社を経営している。

欧米では「中の人の引退」が話題になる場合もある。

「中の人解雇」のニュースも。

日本では「中の人などいない!」がマスコットの基本。

Jリーグマスコットで中の人が話題になることはない。Jリーグのファン・サポーターは、マスコットをあたかも人のように接している。それが当たり前とされてきた。だから、2013年にガンバサポーターによる「ロアッソくん暴行事件」が発生した際には、全国のJリーグファン・サポーターから批判が殺到した。

日本人は擬人化が大好き。動物だけではなく軍艦の擬人化まで行われている。

日本人は「無宗教」だと言われることもあるが、すべての生き物、静物にまで霊魂が宿ると考えるアニミズム(汎霊説または精霊信仰)を現代でも強く持ち続けている。例えば富士山は信仰の対象となっているし、ご神体が岩という地域もある。人間以外の霊魂を持つ存在の多くは神様とされた。そして、擬人化、キャラクター化が行われてきた。古くは『今昔物語集』や『沙石集』などの説話集で、たとえ話として動物たちや草木・器物、抽象的な記号や観念が人間のように活躍する擬人化世界を描き、その末尾に、その話から読み取るべき教え(=評語)を付けることで人々に教えを説こうとしてきた(「妖怪・憑依・擬人化の文化史」笠間書院より)。
それゆえに、現代でも、動物や昆虫をモチーフにした多くのマスコットキャラクターが誕生し、日本人はマスコットキャラクターをあたかも大切な人のように接している。二次元マスコットキャラクターだけを愛するオタク人種も多い。

歌舞伎にはたくさんの動物が登場する。

獅子、馬、牛、猪、鼠、蛙といった動物が歌舞伎の舞台では活躍する。中には象が登場する演目もある。名作「義経千本桜」のように「対立する源氏の兄弟よりも狐の方が人らしい家族の愛情を持っている」と描かれる演目すらある。「歌舞伎の中の日本 (NHKブックス)」で著者の松井今朝子さんは「動物や自然に学ぶという謙虚な姿勢」と日本人の感性を解釈している。

「馬くん」をかばい続けた松本幸四郎(現・白鸚)。

歌舞伎では、多くの場合は動物の中に歌舞伎役者や黒衣が入る。入るというよりも役を演じる。かつては下っ端の役者を「馬の足」と呼んだくらい、当たり前のように作り物の馬が登場する。しかし一方で「中の人などいない!」のだ。2013年10月、国立劇場の花道で松本幸四郎(現・白鸚)が落馬した。約3メートルの転落であったが、幸い怪我はなかった。テレビの情報番組の取材陣に囲まれた松本幸四郎は「馬くんがしゃがんで助けてくれた」と語った。
助けてくれたのは中の人ではなく、あくまで「馬くん」であった。

では、西洋演劇の代表格であるシェイクスピア劇ではどうなのだろう。動物の位置付けが、日本人の感性とは大きく異なる英国人の感性に基づいて形成されている。

シェイクスピア劇に馬を出すとすれば本物の馬以外はあり得ない。

歌舞伎の中の日本 (NHKブックス)」の中でシェイクスピア劇の翻訳者として知られる松岡和子さんの意見が、歌舞伎と比較して紹介されている。
●蜷川幸雄演出の「リチャード3世」を英国で上映した際に作り物の馬にまたがって王子が登場したシーンで観客がドッと笑った。シェイクスピア劇に馬を出すとすれば本物の馬以外はあり得ないだろう。
●シェイクスピア劇に動物の被り物が登場するのは「夏の夜の夢」でロバにされてしまう男と「冬物語」の熊くらい。いずれも「今までの悲劇はみんなお伽話でした」という象徴として登場するので観客は笑う。

Jリーグマスコットはパフォーマンスが愛されているのではない。日本人の感性はマスコットを人と同じように愛する対象としている。

Jリーグマスコットは欧米とは異なる独自の進化を遂げた。Jリーグマスコットは、日本古来からの擬人化の文化史やステージエンターテイメントの歴史の延長線上にあり、欧米のマスコットデザインに感化されていない。シェイクスピア劇との比較から分かるように日本オリジナルだ。現代日本で、魂を宿したJリーグマスコットはサポーターと心の交流をしている。Jリーグは立ち上げ時に戦略的にマスコットを活用。プロ野球のマスコットにも影響を与えた。

これは世界に誇る日本独自のフットボールカルチャーなのだ。

実際にマスコットが何を語っているのかは、こちらをご覧ください。






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