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ローラのとうさんの言うこと:自由のはなし

ムスコを保育園から連れて帰る頃にはもう、なんだか疲れ果てていた。
ムスコをお風呂に入れる気力もなく、身体を拭いてやる。
ピカチュウの動画を与えられてご機嫌だったムスコも、どうやら今夜はパパの帰りが遅いらしいと気がついてぐずり始める。
「ぱぱいい、ぱぱいい」とひとしきり玄関に向かって泣くと、人差し指を吸いながら眠ってしまった、かわいい。

このまま私も一緒に眠ってしまっても良かったのだけど、エスさんが帰宅した音を認めて布団から這い出す。
勝手に鍋のシチューを温めて食べる猫背のエスさん。
ぼんやりと視線をやるテレビからは、今年の冬の熊被害の多さについて深刻そうに語る女子アナの声が聞こえてくる。

エスさんの食べるシチューの湯気につられて、なんとなくホットコーヒーを淹れて、飲む。
そしたら、すっかり元気になってしまった。
私に足りなかったのは、どうやらカフェインのようだったみたい。

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ローラ・インガルス・ワイルダーの『長い冬』を、今夜から読み始めた。
『大きな森の小さな家』の主人公ローラが、大きく成長した姿を見せてくれる『ローラ物語』の第1巻。

物語は、14歳になったローラがとうさんの干し草作りを手伝う場面から始まる。

ジャコウネズミは来たる冬の厳しさを予知できるのに、人間にはその能力がない。
そのことを不思議に思ったローラが、「どうして神さまはあたしたちに教えてくださらないの?」と無邪気に尋ねるシーン。
とうさんはこう答える。

「神はわたしらを自由な生き物としてお創りになった(…中略)神さまは何が正しいかを知る良心と知恵をわたしらにくださった。しかし、何をするかを決めるのは、わたしらの自由にまかせてくださっている。そこが、人間とほかの創造物とのちがいなんだよ」

自由。
ともすると瞬きをしているうちに知らず知らず過ぎ去っていく日常に、色と形を与えたくて日記を書き綴ることに決めた。
そうしないと、自分というものがバラバラに空中分解して心が死んでしまいそうだった。

自由。
自由と聞くと、まるで全てが与えられているような気持ちが起こってしまうけど、自由であるということは丸腰で大海原に浮かんでいるのとおんなじでは、と、はたと気がついた瞬間があって、私は突然そのことが怖くなってしまった。
舵を、切らないと。
この日記は、果たしてその助けになってくれるだろうか。

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ムスコがむぅぅんと夜泣きしそうなのが、隣室から聞こえる。
とりあえず、今日も一日を終えられた。
ムスコをあやして、私も寝る。



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