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井の頭線、各駅停車渋谷行き

それまで吉祥寺から井の頭線に乗るとき、各駅停車に乗ることは滅多になかった。
目的地は大抵明大前か終点の渋谷だったから、各駅停車しか走っていない早朝や夜間でもない限り、急行に乗るのが常だった。

でもあの一時期だけは、各駅停車の渋谷行きに、よく乗っていた。

それは今思い返しても浅はかな一目惚れだった。
大学の入学式から数日たった4月のある日、悪友の『アンタの好みそうな男がいる』という言葉につられて、私は他大学のサークルの集まりに顔を出すことになった。
『そーそーどストライクなんて来るわけねーしwwでもそう言われると一目見ないわけにはいられねーわwktk』程度のふざけた気持ちだった。
悪友と活動を行う部屋に行き、まずは同性の部員の人たちに自己紹介などしながら談笑していた。

そのとき、少し離れたところから
『はーい、そろそろ始めますよ〜』と男性の声が聞こえた。
私はその声のした方に視線を向けた。

そして見事に、撃沈したのだ。

その日以来、私はそのサークルの活動に足繁く通うようになった。
正直言って活動内容は二の次だった。
一目惚れしてしまった彼の姿を見たい一心だった。
その大学は、井の頭線の沿線にあった。
各駅しか止まらない駅なので、吉祥寺からだと急行に乗っていても永福町で各駅に乗り換えて行く事になる。
この各駅停車に乗っている時間が、私はとても苦しかった。
今日は彼は来ているだろうか、少しは会話できるだろうか、活動後の夕食会も参加するだろうか、近くの席に座れるだろうか、でもこの気持ちが本人や周りにバレたらとうしよう・・・などグルグル考えて動悸がして、座っているのに倒れそうで、なのに座っているだけだからこそしんどくて、もどかしかった。

いっそ急行で目的地までサッと着いてしまえばこんなに辛くないのに。

そんな私を乗せて各駅停車の渋谷行きはいつも、大して距離のない駅間を一駅一駅、のんきに走っていった。

結局この一目惚れの恋の結末は思わしくないものになってその事で一時期かなりやさぐれたりもしたのだが、まあそこは割愛する。

今となってはこの恋も笑い話で、酔ったときに『なんでかわかんないけどほんっっっと〜〜〜に好きだったんだよぉぉぉぉアハハハ』と酒の肴にするくらいなのだが、ごくたまに各駅停車の井の頭線に乗る機会があると、あの頃を思い出して甘酸っぱくなる。そして大学の駅で降りていく学生さんたちを見ながら
『ああ、もしかしたらあの中にも、私と同じ思いを抱えながら電車に乗っている子がいるのかな』などと思いを巡らせるのである。


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