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子を叩く重さ - 秋葉原通り魔事件に思う -

前書き

7月26日。加藤智大死刑囚の死刑が執行されました。
無差別に7人を殺害し10人に重傷を負わせた犯人は極刑を免れる事はありませんでしたが、この事件に心がざわつく日本人、特に同世代は多いのではと思います。
氷河期世代という難しい時代に生きた事もそうですが、加藤とその弟が児童虐待の被害者だった事も、多くの人に犯人に対する同情や共感を呼ぶ一因ではないかと思います。
英国で私が見た事例を書き記しておきます。誰かを責める意味も、加藤の起こした犯罪を擁護する意図もないのですが、子を育てる中で心に長く引っかかっている事を覚書として記しておきたいと思います。

暴力を振るう子供

以前、詳細は省きますが、日本人の子供に日本語を教える仕事をしていた頃の事です。ある児童が子供に暴力を複数回振るったという事が問題になり、スタッフの間で延々と児童の処置について話し合う事になりました。
その児童について思い当たる事がありました。まだその子が小さかった頃に日本人同士のプレイデーでいたずらをしたその子のお尻を母親が思いっきり叩いたのを目にした事があります。厳しいけれど優しく情緒の落ち着いた人が、いきなり目の前で子供に暴力を振るったので大変驚きました。
子供は泣いていましたが、母親の方は「躾だから当然」という顔で何事もなかったようにしていました。しかし私は今でもその時のショックを忘れる事が出来ません。
数年後、叩かれた子供は、よその子に暴力を振るうようになりました。私はハッとしました。暴力は連鎖するんだ、と。

親が子供を叩く「重さ」

英国では子供を叩く事は決して許される行為ではありません。「躾」という名目でも、子への暴力や怒鳴り声を上げる行為でも警察に通報されるケースがあります。
英国人の方が人道的であるとか優しいというよりも、むしろ貧困率、離婚率の高さから子供が暴力の標的になりやすい環境があるため、それを「社会全体が許さない」という風潮があるからだと思います。
英国で育児をしていると周りの目が暖かく見守られていると感じられる反面、周りの目が光っているとも感じます。
前述の母親はおそらく日本人の友人が多く、そのサークルの中で子育てしていたので日本式の「躾」という概念が残っていたのかもしません。
英国ではどんなやんちゃな子でも言って聞かせるか、暴れたら抱いて抑えたりその場から外すのが普通です。親も人間なのでつい怒鳴ってしまったり、強く揺さぶったりしてしまう事はありますが、やってしまえば深く反省するし子に謝り「二度としない」意思を強く持つ。そうでないと児童相談所や警察に報告されてしまうからです。
それ故に、隠れて子に暴力を振るったり、周りから引き離そうとする邪悪な親もいます。それは英国でも日本でもどこの国にもある事だと思います。
私自身、完璧な親からは程遠いのですが、躾の名目で子に暴力を振るう事の重さが英国と日本では違うなと感じます。

子供は親の自己満足の道具ではない

加藤智大が親から振るわれていた暴力は記事を読むだけで凄まじく、これを躾と称して子供に行われていたと想像するだけで背筋が凍る思いでした。育児という閉じられた空間で暴力による脅しは子をコントロールする効果的な方法です。まだ小さく弱い相手を恐怖によって支配するのは難しい事ではないと思います。
可能であるが故に絶対にやってはいけない事で、子供の心を傷つけてしまえば取り返しのつかない事になります。
加藤の母親の行動からは、彼女が子を自分の達成感や満足のために傷つけ自己正当化するエゴが透けて見えます。子が「自分の満足のために存在するのではない」と自覚しなければ、不健康な歪んだ親子関係が出来上がってしまう恐れがあると思います。

デスパレートな人を増やさないために

加藤智大の犯した犯罪は絶対に許されるものではないし、擁護してはいけない行為でしょうけれど、もし彼を少しでも可哀想だと思うなら、行動そのものを擁護するのではなく、子を自分の自己実現の道具に決してしない事、自分自身の正しさを証明するのではなく子の幸せや心の安定を一番に見守り育む事だと思います。身体的な暴力や言葉の暴力、ハラスメントに対して今まで以上に慎重に考えなくてはならないと感じています。
また子がいるいないに関わらず、優秀でなければ、成功しなければ人として価値がないというメッセージを若い世代に対して発信しない事だと思います。苦難の時代を乗り越えるために大事なのは、理解され受け入れられていると感じる社会環境だと思います。
とりとめのない文章になってしまいましたが、秋葉原での事件を振り返るたび、二人の男児の親としては子が巣立った後でも難しい局面で力になれる、安心して戻ってこれる、受け入れられる環境をまず家庭から作っていかなくてはいけないな、と改めて考えさせられます。

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