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水仙は残った

アパートの隣は大家さん宅だった。
老大家さんはみまかり子供達はアパートも隣の家も売ったらしい。
この夏、隣家は取り壊されて空地になった。

アパートは所有者こそ変わったものの今のところは無事である。
取り壊しのための立ち退き勧告が、いつ出るか不安でならないが。

陽当りの良くなった空地には次々と草が生えた。
そして冒頭の写真……これは水仙?

待つこと数日、下の写真のような花が咲いた。

消しゴムマジックの結果
荒れ地に咲く花と化す

水仙だ!!
これは紛うことなき水仙の花!

ホームセンターで細長いプランターを購入。
土も10㎏袋を購入。
鉢底石はまだ使いかけが残っている。

晴れた午後。
水仙の盗掘にとりかかる。
驚いたことに球根は茎の直下ではなく、かなり曲がったところに埋まっていた。
光を求めて土の中を横に進んで地上に芽を出したらしい。

ずっしり大きな球根だった。
たとえて言えば、ぼたもちのような。
市販の水仙の球根は、せいぜい温泉饅頭のような大きさなのに。

考えてもみれば、大家さんの庭で水仙の花を見た記憶はない。
(別に覗き見したわけではない。フェンス越しの隣だから丸見えなのだ)

庭の植物にはまるで興味がなかったようで、ごくごくたまに思いついたように大雑把な掃除や枝払いをしていた程度である。

草間彌生の植物
松本市美術館の庭

それでもあの庭の泰山木《タイサンボク》は見事なものだった。
天高く育ちてっぺんに白い花を咲かせていた。
(葉はアパートの庭に落ちるから掃除が大変だったけど)

赤子の顔ぐらいある大きな花だった。
二階の家のベランダからよく見えたよ。
あの木も倒されてしまったのだなあ。
惜しい限りである。

いや、泰山木の話ではない。
水仙の話である。

泰山木を始めとした木々や下生えに覆われた荒れた庭だった。
水仙が芽を出す余地はなかったのだろう。
地中深く潜り養分を蓄え、地上に出る機会を虎視眈々と狙っていたに違いない。

水仙なのに虎?
いや、だからツッコミはいいって!

つまり、巨大な球根は根も太く立派だった。
掘り出してはみたものの、用意したプランターでは浅すぎる。
根が伸びる余裕がない。

奥の横長プランター
用意したのはこのタイプである

そこで思い出したのがアパート入り口に放置してある素焼きの(テラコッタ?)植木鉢。

数年前、アパート周囲の植栽の植え替えが成された。
その際にシャレた細長い植木鉢が置かれたのだ。

いずれ何らかの花でも植えるのかと思ったきり使われることもなく、ゴミや枯葉が降り敷くだけだった。

大家さん亡き今や住人は誰もその植木鉢の由来を知らないだろう。
知っているのは私ぐらいかも。

頼まれもしないのに、草むしりや掃除とアパート周囲を見て回っている古参の私だからね。
落語「お化け長屋」の登場人物、古狸の杢兵衛さんみたいなもんだよ。

……って、それはともかく。
大家さんの置き土産の植木鉢なら安いプランターより底が深い。
鉢底石、園芸用土を入れて掘って来た水仙の球根を植える。

こんな感じ

だが、この鉢でも長い根っこは伸びきれない。
すぐに底でとぐろを巻くようになるだろう。

これは、いかがなものだろう?

助けたつもりで狭い檻に閉じ込めただけではないか?

陽当たりの良い空き地で曲がったなりに、のびのびと育ててやった方がいいのでは?

だが、もし新築工事が始まればたちまち土地は掘り返されるのだ。
水仙だけ避けて工事をするはずもない。

これでいいのだ!!
生き延びさせてやったのだ。

と思いながらも、すっきりしない心持ちの私である。

主はなくとも花は咲く

水仙は根付けば毎年花を咲かせる。
あれでなかなか頑強な植物なのだ。
まあ、私が案ずるまでもない。

※写真は前にも上げた島根県の温泉津町で見かけた水仙の花




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