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村上春樹風雨宿り

予感はしていたが、やっぱりそうか。

僕は諦めたようにバッと傘を開き、豪雨の中を歩き始めた。雨は点から線に変わり、みるみるうちにその表情を変えていく。

怒っているかのように強く地面を叩きつけるように降り続ける雨。ただ仮にも雨だ、怒っていると言うよりは泣いていると表現した方が正しいのかも知れない。

その時の僕がそんな事を考える余裕があったかどうかは想像にお任せするとして、とにかく雨は強く降り頻る。点から線へ、やがて視界を遮るほど強く降り続けた。

そんな雨とも滝ともわからないような天候の中僕は、急いでオフィスへ向かった。

オフィスまでは、渋谷109の横をドン・キホーテ側に向かわなければならないのだが、

雨のように規則性を持って流れる人の波がやがて川のようになり、僕はラフティングでもしている様な気分になった。

ラフティング自体を悪く言うつもりはない。ただ、ビジネスタイムに突如訪れたラフティングタイムについていけるほど僕の思考が回転していなかった事も事実だ。

事実と矛盾は常に背中合わせ。天気もしかり、雨と晴れは背中合わせ。僕は、「オフィスに向かいつつも最善の選択は雨宿りをすること」と言う矛盾を選ぶことにした。

僕の心は妙に晴れていた。こんなに雨が降り頻っていると言うのに。


雨宿り

さあ、僕は矛盾したラフティングボートに乗り込み、オールを漕ぐ。

僕の中ではすでに、どうオフィスに帰るかという事ではなく、この矛盾をどう楽しむかという事に論点はすり替わっていた。

ただ論点がすり替わったからと言って、問題が無くなるわけではない。

論点と問題は相互関係にあると言った方が正しいかも知れない。問題があるから論点が見えて、論点があるところに解決したい問題というものがあるのだろう。

まあいい、その話は今度するとしよう。

とにかくだ、僕の中での問題は雨宿りをするにあたって緊急性を重視するか、それともせっかくの雨宿りを楽しむか

と言う2つの選択肢から最善の選択をする事だった。

でもそう言っておきながら、実は雨宿りをすると決めた時から答えは決まっていた。

─ 僕は宇田川カフェに向かった。暖色系の照明が見たくなったのだ。

正しくは、暖色系の照明がぼんやり照らす店内から、降り頻るこの雨を見れば、この雨も許せるかも知れないと言う淡いロマンチシズムを抱いてしまったのだ。

雨か滝かわからない中、宇田川カフェに向かう。道はわかっている、何回も行ったカフェだ。通ったと言うほどでもないが、まあとにかく何回か行ったカフェなのだ。

いつもと違う事と言えば僕がラフティングをしている事くらいか、別に変な話ではない。渋谷には変な人はたくさんいる。

そして宇田川カフェに着いた。


雨宿り2

華奢な鉄格子にうすいアンティーク調のガラスを張った、カフェによく見かけるドアをガラッと開け、僕は店内に入った。

僕のように雨宿り目的で来店した客が多くて対応に追われていたのか、それともたまたま入り口のそばにいたのかは定かではないが、僕が店内に入ると同時に店員さんが駆け寄ってきた。

僕は聞かれてもいないのに、

「ええ、雨宿りで。」と残し、誘導された1番奥の席に腰掛けた。

これを完璧なシチュエーションと呼ぶのだろうか。さっきまであれだけ煩わしかった雨はBGMに変わり、程よく暖かい店内に暖色系の照明がぼんやり灯る。

僕はなんだか特別な気分になってしまい、いつもは頼みもしないローズヒップティーなどと言う、なんとも卑猥なドリンクを頼んでしまった。

ローズヒップティーを少し口に含み、ノートを出したくせに全く開かずに、僕はスマートフォンを手に取った。


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