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③新感覚ストア・クリエイタートークセッション「ぶっこめ!!ネクストカルチャー」レポート part.3

3月13日〜21日の8日間にわたって開催された、アトリエe.f.t.の手掛ける体験型アートイベント「新感覚ストア2021」。その中で、「アトリエe.f.t.」代表であり、教育者、デザイナー、ミュージシャンなど、様々な顔を持つ、吉田田タカシ(ヨシダダ)と、奈良県東吉野村にあるコワーキング施設「オフィスキャンプ」の代表を務めるデザイナーの坂本大祐氏とのクリエイタートークセッション「ぶっこめ!!ネクストカルチャー」が行われました。「これからのカルチャー」について語っていただき、大いに盛り上がったイベントの様子を、全3回に渡りレポートとしてお送りしております。最終回の今回は、「これからのカルチャー」においての大切な考え方などについて語り合っていただいてます。

第2回の記事はこちらから


坂本:斎藤幸平さんが何を書いてるかというと、資本主義の上に「コモン」、「コモンズ」を取り戻す必要があるんじゃないかって書かれてるんです。この「コモン」、「コモンズ」って何かと言うと、「共通、共同」とか「共有財」って言われるものなんですけど、皆がそれぞれに必要だと思う人たちが管理している財産だと思ってください。例えば、「5つの家族がお米を育てる田んぼをそれぞれの家族で管理しましょう」って話です。これが共有財なんですよ。つまり5家族のエリアがあって、5家族それぞれが収穫したものを均等に分けあって食べている、こういう状態なんです。これがどんどん増えていくと、もっと大きなコモンズになっていくんですね。ここでは労働の対価は必要な「モノ」なんです。お金がなくても、結果的にお米を食べれるわけですから、労働が必要な「モノ」にスッと変換される感じです。これがわかりやすくコモンズです。

さっきの物々交換じゃないですけど、労働と必要なモノを直接交換できるものを想像してもらったらわかりやすい。そういうものを今の資本主義社会の中に、もう少しだけでも取り戻そうって話ですね。なので資本主義を共産主義に変えようって話ではないんです。でもこれって一回全部解体しないとほぼ無理で、意外と資本主義って便利なものなんですよね。ある程度は公平な社会は作れたわけですから。これが資本主義の良さなんですけど、他方では分断化が進んだっていう課題があって、その中で必要なのは共通した財産を管理していくということなんです。管理することが一つのコミュニティを生んでたんですね。共に生きる、共に働くということが直結しているから。そういうものを都市であれ山間地域であれ、これから先の経済活動としてもう一度取り戻さないといけない。必要なものをお金を介してだけじゃなくて、労働が直接必要になる活動をみんなでやるってことですね。

吉田田:そういうのを僕も思って、いろんな人と話したらみんな「ほんまそうやねん」って最初は言うんです。でも1ヶ月、半年とその人と関わっていくと、ほんまのほんまはみんな金やと思ってるんです(笑)。

坂本:(笑)。でも間違ってはないです、それでもいいんですよ。お金も大事なんで。お金がなくなる社会を目指してるわけじゃないんです。価値をカウントする時にはお金ってめちゃくちゃ便利で、創造したツールの中では非常に優秀なんですが、それだけではしんどい社会を生んでしまった上で答えが出ているということなんです。それは両方並行して走っていくものだと思ってて、どちらかが正しいという話じゃない。新たな概念としてそれも取り込んで欲しいって話なんですよ。週末みんなで農業するでもいいじゃないですか。ダダさんももらったジビエを解体したりしてるじゃないですか。解体する事によって直接肉を手に入れてるわけですけど、本来だったら鹿肉ってグラム600円とか1000円で買ってるわけですよ。でもこれって実は価値としては目減ってるんですよね。直接必要なものが手に入るだけ合理的だとも言えるんです。

吉田田:本当そうですよね。僕、薪ストーブが家にあって、薪割りが好きでずっとやってるんですけど、薪が薪棚に溜まってくんですね。貯金がたまるより嬉しいですもん。あれ100%絶対僕のものやし、突然税金で持ってかれたりしないからね(笑)。

ダダ

坂本:例えば5家族くらい集まって、薪を一か所に貯めていくとするじゃないですか。これがほぼコモンズです。

吉田田:僕がやりたかったのはコモンズです!

坂本:でしょ?(笑)この労働の充実感ってめちゃくちゃあるんですよ。それは地方の人口1700人の村で暮らしてて初めてわかったことの一つでもあるんですけど、今でも村で行事みたいなものがあって、おじいちゃん、おばあちゃんの仲間に入れてもらって、その行事でみんなで何か一つのことをやることで自分たちに必要なモノが手に入るわけですよ。みんなで暮らしてるな、充実してるなってそこで初めて思うんですね。

吉田田:僕も生駒に引っ越して7年くらい経つんですけど、おじいさんの友達いっぱいできましたね。大阪に住んでた時は一人もいなかった。他人のおじいさんと関わることなんてなかったから。生駒に引っ越して、畑やってるおじいさん、山で整備やってるおじいさん、いろんなおじいさんと仲良くなって。ある日見たら玄関に竹の子が置いてあったりとか、畑やってるおじいさんがうちの薪ストーブの灰をちょうだいって言ってくるのであげたりするんですよ。それでお返しにその灰を使った土壌でできた野菜をもらったりとかして、いいサイクルやなって思いますね。

坂本:まさにそういうことなんですよね。生駒は人口十何万人と、東吉野よりたくさん人がいる町ですけど、そんな暮らしがそういう場所でもできるわけなんです。つまりコモンズは割と人口の多い町でも作れるんですよ。概念とか自分たちの思想を変えるだけで生み出せる可能性が全然あって、そういうことって結構豊かなんじゃないかなって。

吉田田:例えば極端な話、金のない社会に憧れているわけではないし、アトリエe.f.t.を運営しているので、利益を上げなかったらスタッフはみんな食っていけないわけですよ。全員が食べれるようにしたいけど、すぐに利益と直結しない事をやりたいんですよね。メンバー(生徒)の悩みとかもじっくり聞いてあげたいし、その人が本当の意味で成長していくのをサポートしようと思ったら、ビジネスではできないんですね。でもそっちにシフトしていきたいってなった時にビジネスやめますとは言えない。月謝いりませんとは言えない。でも本当のところはこういうことがしたい。「新感覚ストア」って毎年毎年やってるけど、1回も黒字になったことないんですよ(笑)。入場料を取ってるわけじゃないし。毎年それはそれは物凄い労働力ですよ。でも、これがメンバーの成長に繋がることを知ってるから、苦労して毎年やってるんです。とはいえ、トップが儲からないところに突き進んでる会社って大変じゃないですか。

坂本:トータルすると儲かるどころかマイナスですもんね(笑)。

吉田田:どうしようかと思った時に、金儲けをしたらいけないわけじゃなくて、しっかりお金儲けできる体制を作っておかないといけない。だけど、選択肢としてほんまにちょっと細い枝でもいいから、もう一個自分たちが違う価値観を求める、これからの時代を作るような価値観を求める一本の枝を持っておいた方が、もっと豊かなチームになるのかなと思ってます。

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坂本:そうですね、つまりそれらが同居した社会って、まだ人類が辿りついたことないんですよね。資本主義と、ある種の共産主義的な思想が同居した社会ってまだ確立できてない。

吉田田:そうです。そのハイブリッドな社会を今からぼくらが実践していかないと。

坂本:そうですね。そのグラデーションが例えば資本主義9、コモンズ1でもいいわけですよ。
逆にコモンズが9になって資本主義が1になる人もいるかもわからないけど、それを許容できる社会を我々は築くべきなんじゃないかなと思ってて。例えば、山間エリアではコモンズの要素が強いコミュニティを作ってるし、都市に近いところでは資本主義がウエイトを占める社会を作っていながら、少しコモンズの思想が入ってるという。それぞれにエッセンスとして、入ってる社会がいいんじゃないかなと思います。

吉田田:僕は訓練できる場が必要かなんじゃないかなと思ってますね。たまたま山間部が今訓練できる場になっていってて。例えばコロナを経てみんな都市の怖さや脆さを痛感して、地方に今バーって出て行ってるじゃないですか。出て行った先で体験してわかることがいっぱいあって、坂本さんみたいに仕方なく出て行った人もいれば、出て行きたくて出て行ってる人もいると思うんですね。そういう人たちが、田舎のおじいちゃんから畑のやり方とか教えてもらったりすると、買う一辺倒だったものが、「あ、野菜って作れるんや」とか、「エネルギーって薪で作れるんや」と気付くんですね。一方で僕、車は持ってるからガソリンは買ってるんですよね。でも、ほんまに一部やけどエネルギーって自分の手で作れることがわかって、それが訓練になったんだと思うんですよね。僕らはたまたま訓練ができたけど、ちゃんと体系付けてその訓練ができる場ができればいいなと思ってます。

坂本:今、西暦2021年ですけど、人類の原型ができたのが250万年前って言われてるんです。つまり250万年分の2021って物凄い小さいでしょ?そうやって思うと、貨幣を介さずに生きてた時代の方が圧倒的に長いわけです。ついこの間のことなんですよ。つまり我々は狩猟採集であれ農業であれ、自分たちの必要なものを自分たちの手で生み出す能力っていうのは本来備わってるわけですよね。それを少し取り戻すだけの話じゃないかなと思ってて、それは少なくともより自然に近い方が発揮しやすいというだけで、都市でも「アーバンパーマカルチャー」って言って、都市の中からいわゆる自分たちに必要な野菜であれお米であれを生み出すようなことを実践してる人たちがいるんですよ。これから先そういう都市になっていくのなら、もしかしたら自分も住みやすい都市になるかもなって思います。

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吉田田:この会場をお借りしてる古着屋JAMの社長の福嶋さんがね、「お米作りに興味あんねん」って話をされてたので、僕の実家がお米屋なので、知り合いの米作りをしてるところを紹介したんです。そこから一ヶ月に一回くらい米づくり体験みたいなことをやるようになったんですね。コロナの時期なんで、社員みんなで一斉に行ったりはできないけど、「コロナが明けたら月一回でいいから、みんなで米を自分たちで作る体験会をやりたいな」って言ってます。僕はそういうことがめちゃめちゃ大事と思ってて、うちの親からしたら「そんな月1回で米作りのことわからんで」って言うんですけど、いやいやそういうことじゃないと。本当の農家、百姓にならなくても、いわばレッスンなので、エネルギーとか食べるものをお金を介さずに作ることをちょっと経験すると、買う一辺倒だけじゃないということがわかって、自分で生み出すという考え方が身についていくのかなって思うんです。

坂本:まさにe.f.t.が「つくるを通していきるを学ぶ」というスローガン掲げて活動してますけど、買うっていう暮らしの中に少しずつでもいいので、つくるということを取り戻して行く作業ですよね。新たに生み出すというよりは、まさに取り戻していく作業だと思うんです。その道標として、「アート」みたいなものが、あるんじゃないかなと思います。

吉田田:アートって理屈じゃない部分があるでしょ?感覚直球みたいな。絵なんて説明のつかないものがいっぱいあるし、説明つく方がダサいとされてたりするじゃないですか、アートの世界って。そんなちゃんと説明つくなら描かなくてもいいやんみたいな。何なのか説明はつかないけども感覚としてある、それごと言葉に変換せず手渡すみたいな。感覚のやりとりみたいなものをもう少しできるようになれたらいいなと思ってるんです。だけど「こんなことやりたい」と思った時に、会社みたいに全部理詰で考て、「それってどんな得があるんですか?」というふうにやっていくと、結局やらんでいいんじゃないかというところにたどり着いちゃうんですよね(笑)。それ言い出したら、薪を切るのにチェーンソー使うんですけど、まずチェーンソー買って、チェーンソーってガソリンがないと動かないからガソリンも買ってるんですよ。そこまでして切って薪運んで、汗だくになって割って、薪棚に積んで一年経ったらやっと使えるんですよね。それってたぶんビジネスとして考えた時に、「床暖房にしたほうがいいんちゃいます?」ってなりますよね(笑)。「そんな苦労して薪ストーブする必要ある?」って。でも木を切る時間とか、薪を割ったことで僕が得たレッスンって言語化できないけど、たぶんこれから必要なこと。そういう感覚のやりとりみたいなことをアートはずっとやってるんです。このことをもうちょっとみんなの中に浸透していけばいいなと思うけど浸透しにくい。

坂本:震災とかコロナのこともそうですけど、自然が牙を向く瞬間に初めて自分たちが見舞われて、震災直後にどんだけ大金持ってても水一杯も飲めなかった状況もあったわけですよね。本来そういう環境の中で我々は生きてるんですよ。そういう時に自分の力だけで暖を取れる方法として薪を作れる力があることが自分の力として身についていたことで、初めてその瞬間よかったって思うことがある。すべからくそういうものなんですよね。文化文明を一皮剥いたところにある、非常にまだまだ原始的な環境が、地球上にずっとあり続けてて、簡単にそれを覆すことなんかこれだけ文化文明が進んだ世界でもできないんですよ。それがコロナなんか如実に示してるなと感じます。原野に放り出された時に、少しでも文化的に暮らせる術を自分の手の内に持っておくということがどれだけ安心感につながるのかというのは、もう少し思い出してもいいんじゃないかなと思いますね。


〜最後に〜

吉田田:僕らは近代という100年間、大型船みたいなむちゃくちゃでかい船に乗っかって進んできたような感じがします。でもこのでっかい船が何に向かって進んでるか乗組員も乗客も操縦士もみんな知らない。これまで乗ってきたし、みんな乗ってるからこのデカイ船で行こうって乗り続けてる。原発問題やコロナを経験してみんなが俯瞰して見た時に、「ほんとにこの船乗ってていいのかな」「ここに居続けてても面白くないんじゃないかな」「大きいから安定してるようだけど、ボロボロで大丈夫?」とみんな思い始めたんです。そろそろ小型のボートに乗り換えて、仲間で集まってスイミーみたいに一緒に航海する時代なんじゃないかなと思ってます。

幸せな目的地を自分で決めて、自分のやり方で生きていく、僕はアートの軸でレッスンしていこうと思ってます。山間部に住むとか自然と関わっていくことから学ぶでもいいし。やり方はそれぞれですが、最初に言ってた「暮らす」ということを取り戻さないとダメな時代になってきてるんだなと思いました。

終わり。


【登壇者】

坂本大祐・・・クリエイティブディレクター

人口1700人の奈良県東吉野村に2006年に移住。2015年 国、県、村との合同事業、シェアとコワーキングの施設「オフィスキャンプ東吉野」を企画。その後、建築デザインを行い、運営も受託。開業後、同施設で出会った利用者仲間と山村のデザインファーム「合同会社オフィスキャンプ」を設立。奈良県はもとより、日本全国のデザインや企画をひき受けている。また2018年、同じようなローカルエリアのコワーキング運営者と共に「一般社団法人ローカルコワークアソシエーション」を設立。全国のローカルでコワーキング施設の開業をサポートしている。



吉田田タカシ・・・教育者、芸術家、デザイナー、ミュージシャン、猟師

・「つくるを通していきるを学ぶ」アートスクール 【アトリエe.f.t. 】主宰。(4歳から大人まで約200名の生徒にワークショップを中心とした創造的な学習環境を提供。)
・放課後等デイサービス【bamboo】を手掛ける、「株式会社たのしいにいのちがけ」代表取締役。(発達障害と呼ばれる、こども達の型破りな才能を見出し伸ばすスクール。)
・スカバンド【DOBERMAN】ボーカル担当。(国内外問わず、様々なライブツアーやフジロックなどのフェスに出演。2020年にリリースした、木梨憲武との共作「ホネまでヨロシク」にて作詞を担当。)
・デザイン(紙ものやWEBデザインから住宅、店舗などの空間デザインまで。)
・大学講師

趣味は登山、薪割り、保存食、発酵、ジビエなど。
座右の銘は、「たのしいにいのちがけ」。


テキスト:新 拓也(ピクセルグラム/ブランディングデザイナー)

撮影:岩本真由子(フォトグラファー)


100人100通りの人生に取説は無い! 自分だけの地図を描くチカラを身につける。 「つくるを通して生きるを学ぶ」アトリエe.f.t.です。 応援ありがとうございます!!