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悪女考察②伊東潤『天下を買った女』

世の人々は悪女が好きなのか、北条政子や日野富子の情報はネットを漁ると結構出てくる。しかし私は日野富子に関する本をちゃんと読んでいなので、Amazonで彼女に関連する小説を探ってみた。永井路子『銀の館』はたぶん間違いないだっろうけど、たまには違う作者の本も読んでみたいので今回は外した。司馬遼太郎『妖怪』は”あやかし”や”妖術”について書かれているみたいで、瀬戸内寂聴『幻花』は色恋沙汰が強調されているようなので敬遠した。実際紹介文だけ読むと妖術系と色恋系は多かった。

私は経済人としての富子を知りたかったので、伊東潤の『天下を買った女』を読んでみた。この作家は知らなかったが、室町時代などの歴史小説を多く書かれているようだ。実際に読んでみて面白かったけれど、登場人物の相関図を頭の中で整理する作業が結構手間取った。読み慣れていないこともあり、この時代の背景はわかりにくい。大河ドラマでも三田佳子さんが富子を演じた『花の乱』は、『清盛』が記録を更新するまで最低視聴率を誇っていたらしい。大河ドラマもやたら戦国と幕末ばかり取り上げるので、その時代のことは何となくわかるけど、平安、鎌倉、室町に関してはよくわからない…という日本国民は多いことと思う。

応仁の乱は八代将軍・足利義政の後継者争いのイメージが強いが、それ以前から有力武家の家督争いがあちこちで起こり、将軍の後継者争いに便乗して自分の宿敵を倒そうとするなど、なんともわかりにくい。なので他の内乱のように〇〇氏は東軍、〇〇氏は西軍、という風にきっちり分かれてなく、同じ氏族の中で東軍と西軍がいるような複雑な構図になっている。しかし、ここでは戦の絶えない複雑な時代背景があるとだけ認識していただいて、富子に焦点を当てよう。

富子の実家、日野家は武家ではなく公家なのだそうだ。代々娘を足利将軍家へ嫁がせている家系で、富子も小さいころからいずれ将軍の御台所になるのだと教育されてきた。だが彼女の秀でていいる所は、単に周りの期待に応えるだけでなく、自ら意欲的に自分の役割に臨んでいく。日本人は推薦されるのが好きだ。自分からやりたいと手を揚げるのははしたなく、周りから持ち上げられたという状況を作りたがる面倒くさい民族だ。でも持ち上げられた人はそれなりの仕事しかしないように思う。時代の流れを変えるのは自ら動く人達だけだ。

将軍の権力を示すために財力が必要だと考えた彼女は普通の女ではない。いわゆるイベントのようなことをやって金銭を集めるだけでなく、「預け銭」、「合銭」という今で言うなら国債や投資信託のようなことを既にやっていた。勿論ブレーンもいたと思う。その一人として本書に挙げられているのが伊勢新九郎という利発な少年、後の北条早雲だ。ここに書かれていることがどこまで史実と一致しているかはわかなたいが、本書を読むかぎり新九郎少年は魅力的で、北条早雲についても知りたくなった。

戦が続くと武将達の財政は厳しくなり家臣に与える褒美も事欠く。富子は敵、味方関係なく武将たちに金銭を貸し付け、返せない場合は担保として馬や武器を取り上げる。馬は転売するが武器は公衆の面前で焼き尽くす何とも大胆なパフォーマンスではないか!

富子が悪女と言われ嫌われるている要因は戦に便乗して金を集め私腹を肥やしと言われる。私服も肥やしていたかもしれないが、それは武力の乏しい将軍家に別の力を保たせることでもあり、幕府にとって、少なくとも足利家にとってはいい奥さんだったと私は思う。



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