へんちくりんな嘘

むかしむかしあるところに小さな女の子がおりました。
その女の子は周りにへんちくりんな嘘を言うのを楽しみとしておりました。
例えばこんな風
「青いガラスは水をたっぷり含んでいるわ。
喉が渇いたならば青いガラスをたんとお食べになればよろしくてよ。」
これには周りの大人は大困り。
それもそうです。
青いガラスはガラスであって水なんてこれっぽっちも含んでいないのですけれど、自分とこの子どもはそれを信じて青いガラスを次々割って食べようとしてしまうのですから。

ある日女の子が言いました。
「雨が降るのはカラスがかぁーと泣くもんだから空がカラスは喉が渇いて泣いていると思ってしまうのよ。
だからカラスの口を紐で結ってしまえばかぁーとは泣けないから雨は降らないわ。」
ここ最近雨ばかり。
それに加えてカラスのやつはそこたら中からやってきて今では町の人より多いほど。
畑の作物はぐちゃぐちゃのぼったぼた。
地面もぐちゃぐちゃ、外に荷物を置いたらばあっという間にぐっちょり濡れて使い物にはなりゃしません。
洗濯もお掃除も何度やっても同じこと。
ひとたび外に出たならば泥にまみれてぐっちゃぐちゃ。
カラスはかぁーかぁーずっと鳴き畑の作物パクパクと、美味しそうに啄んで、挙句家に入ってきては床を歩くわ台所を歩くわでそこたら中泥だらけ。

とんと困った大人たち娘の話を信じ込む。
そこいらのカラスを捕まえては口を紐で結って塞いでしまい、ついにカラスはみーんな残らず口を結われてしまいました。

これにはカラスも大困り。
なんと言っても話ができません。
隣のカラスに話そうにも口が開けられないのでかぁーともぴぃーとも鳴けません。
隣のカラスも同じこと。
口結われては話すこともできやしないと苛立ちつのらせバタバタと羽を振るのでした。
それに困ったのはさらにその隣のカラス、苛立ち募って振るった羽が口に頭に体にとバサバサバサリと当たるのです。
やめておくれよカラスさん羽が当たって痛くて敵わん。
そう言いたくても口は結われて開けれません。
怒ったカラスは頭を振る振る。
それに困った隣のカラス
振るった頭がドスドスドスンと当たるのです。
けれどもやはりこのカラス口が結われて開けれません。
いやはや困ったカラス達、満足に話すことも叶わない、さらに困った事柄はお腹がすいても食べれません。
口が結われて開けれませんからね。
カラスが大人しく木に止まっているだけになったのは言うまでもありません。
お腹がすいて動く気力もわかないのです。

静かな晴れた日に久しぶりの晴れ間だと喜び勇んで女の子は町の通りを歩いていました。
けれどもなんだか落ち着きません。
じっと誰かが見ています。
それも1人や2人どころではなくたぁくさんの見ている気配。
女の子はブルっと身体を震わせました。
おっかなびっくり見てみるとカラスの軍勢が口を結われて怒ってこちらをジィっと見ています。
「あれまぁなんとも哀れなカラス達。けれどもなぜ口を結われているのかしら?おかしなこともあったものね。」
そう言って1人クスクスと笑うのでした。
そこに通り掛かった一人の男
大柄で腕っ節の立ちそうな大男が女の子に言いました。
「ありゃこりゃお嬢さん、先日はいいアドバイスをありがとう。カラスの口を結った途端この晴れ空。なんともいい日になったもんだね。」
これには女の子はびっくり仰天。
「カラスの口を結ったなんて!それも1羽も残さずに!これではカラスは何も食べれず死んでしまうわ!そんなこと誰がおっしゃったの?」
大男は言いました。
「誰も彼もぜぇんぶ君が言ったんだろう。雨が降るのはカラスがかぁーと泣くからで空はあらま可愛やとカラスに雨を降らせるもんでカラスの口を結わえてしまえば雨降らず。ぜぇんぶお嬢さんが言ったんだろう。」
そう言われて女の子なんだか言った気がするけどもカラスがみぃんな怒って見ているので今にも襲ってくるんじゃないかと怖くなって言いました。
「私はそんな可哀想なこと言わないわ!」
それはそれは青ざめた顔でそう言うと
「じゃあカラスに聞いてみよう。」
大男は1羽のカラスの口を解いてやりました。
途端にカラスは羽を震わせ頭を震わせさぁもう怒ったいっぺんに言ってやると息継ぎもせず言いました。
「おいこらそこの幼子よ!よくもトンチンカンなことを言ってくれたな!おかげでわしらは腹はペコペコ喉はカラカラ、木から飛ぶ気力もない!それに何度もお互いに頭がぶつかり羽もぶつかりボロボロだ!もういっぺんでもそんなことを言ってみろ次はうんと大勢連れてきてお前の家をめちゃくちゃにしてお前の髪の毛もめちゃくちゃにしてやるぞ!」
カラスは大きく口を開けてそう言いました。
女の子の顔はみるみる青ざめてまるで青いガラスのようでした。
「ごめんなさい、カラスさん。私まさかこんなことになるとは思わなかったの!あぁどうか許してちょうだい!」
けれどもカラスはカンカンです。
身体を震わせ今にも飛びかかりそう。
「あぁもうどうしたらいいのかしら。そこの男の人助けてちょうだい!」
そう言って女の子が大男の方を向くと、なんと大男はいつの間にやら大きなカラスになっていました。
大きなカラスはこう言います。
「あんな嘘を吹いたらば自分でどうにかしなけりゃね。ごめんなさい。といい周り、嘘であったと伝えなさい。そうすりゃカラスの結わえた口も解かれぜぇんぶ話せるさ。話せるカラスが増えたらば嘘であったと証人に。その都度謝りゃぜぇんぶまんるく治まるさ。」
そう言うと大きなカラスは大きな翼を広げて飛び立って行きました。

女の子はそれを見送ると急いで町を一軒一軒回り始めました。
それはもう風のように早くです。
「ごめんくださいまし!ごめんなさいまし!先日のカラスのお話全部嘘でしてよ!どうか哀れなカラスの口を解いてやってくださいな!」
それを聞いた町の人達は言いました。
「なんだって!じゃあ青ガラスが水になるのもカラスが雨を降らせるのも全部が全部嘘なのかい!?にわかに信じ難いね、そんなこと!」
町の人は誰一人として信じてくれません。
困った女の子は一生懸命大きな声で謝りました。
「ごめんなさい!ごめんなさい!もうこんな嘘はつかないわ!へんちくりんなことも言わないわ!だからどうか哀れなカラスを助けてやって!」
その時1羽のカラスが来て女の子の肩に止まって、言いました。
「ほんとだ!ほんと!わしらは雨を降らせやしない!そもそも喉は渇いていない!このお嬢さんの言うことは青いガラスもカラスの話も全部へんちくりんな嘘なのさ!」
聞いた町の人達は驚いた顔をしたかと思うと慌てて家を飛び出しました。
それはそれはとんでもない勢いで飛び出たので石につまづいてくるんと一回転して転ぶほどです。
そしてカラスの口を結った紐を解いてやりました。
解かれたカラスは一斉に大きく口を開けて合唱しはじめました。

わしらの喉は乾いておらぬ
かぁーと鳴くのは大あくび

へんちくりんな嘘吹いて
回られ口を塞がれた

わしらはバサバサ ドスドス打ち回り
既に疲れて飛べもしない

仕返し 仕返し めちゃくちゃに
だけどもごめんと謝り回る

これには感心 感心だ
そうなりゃ許そう幼子を

町の人にも願わくば
幼子許してやってくれ

カラスが何度も何度も歌います。
それを聞いた町の人、カラスが許せと言うならと女の子を許してやることにしました。
「あぁよかった!もうへんちくりんな嘘を言わないわ!今まで本当にごめんなさい!」
女の子がそう言うとどこからかひゅーっと大きなカラスが飛んできました。
「許してもらえて良かったね。おやおやそろそろ起きる時間だ。ちゃんとちゃぁんと約束を守っておいでお嬢さん。」
カラスがそう言ったかと思うと周りのカラスが一斉に女の子目掛けて飛んできました。

女の子はビックリして目をぎゅっと瞑ると次に見えたのは自分の布団の上でした。
「まぁ!とんだ夢を見たわ!けれども約束は守らなくてはね!みんなに謝りに回るわ!」
そう言うと女の子は走って部屋を飛び出して町の人に謝って回りました。
そしてこのへんちくりんな嘘は終わりましたとさ。

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