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映画プロデューサーの叶井俊太郎氏が逝去。伝説となった「第1回東京国際叶井俊太郎映画祭」で『ムカデ人間2』カラー版が世界初上映。「第2回をやってもいいかもしれないですね」と彼は笑顔で語った

タイトル写真:映画宣伝の先輩にあたる江戸木純と叶井俊太郎(2023年12月17日撮影)
取材・文:後藤健児

 数々のキワモノ映画を日本に放ってきた、映画プロデューサーの叶井俊太郎氏が2月16日に56歳で亡くなったことがわかった。2022年6月にステージ3の膵臓がんで余命半年であると告げられてから1年半以上、生き続けた。昨年12月16日、17日には東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で「第1回東京国際叶井俊太郎映画祭」が開催された。これまで叶井氏が手掛けてきた作品の中から選りすぐられた4作品を上映。『日本以外全部沈没』、『キラーカブトガニ』、『屋敷女 ノーカット完全版』、そして世界初上映となる『ムカデ人間2』カラー版だ。
 叶井氏のご冥福をお祈りすると共に、12月17日の『ムカデ人間2』カラー版上映後に行われたトークショーの模様を記させていただく(以降、本文敬称略)。

「第1回東京国際叶井俊太郎映画祭」

『ムカデ人間』は狂った博士が3人の人間を外科手術にて口と肛門をつなげ、”ムカデ人間”を創造しようとする狂気の映画だ。2010年、叶井が当時、所属していた配給会社トランスフォーマーにより日本公開され、まさかのヒットを飛ばす。そして、続く二作目となる『ムカデ人間2』が同じく叶井の手によって、2012年に日本公開。今度は10人超えの結合に挑戦しようする、前作以上にアンモラルな出来となった。カラー版はモノクロ版では見えづらかった残虐な部分がより鮮明になり、さらに凶悪な内容となっている。このカラー版はブルーレイBOXに収録されているものの、スクリーンでの上映は今回が世界初とのこと。上映後には、叶井と、彼の盟友である映画評論家・江戸木純が登壇し、裏話を大いに語り合った。
 叶井は「すごいですね、カラー版。いま僕も観たんですけど。カラー版をスクリーンで観たことはなかったんですが……これはひどいね!」と開口一番、叶井節を炸裂させ、観客を笑わせる。「血の量とか後半のウンコのシーンとか、オリジナルのモノクロ版だとわからないじゃないですか。カメラに向かってウンコが飛び散るシーンとか変態的だね」と自身が買い付けた映画を呆れながらも称賛。
 前作に続いて、続編もまた日本で異例のヒット。叶井は「興行成績がすごかったんですよ。当時、新宿武蔵野館の1館だけで1000万円を超えたから。皆、好きですね、こういうの(笑)」と苦笑しながら振り返る。
 江戸木が「いろんな映画祭がありますけど、この映画を上映したことで、叶井俊太郎映画祭は歴史に残る」と言い、叶井も「伝説ですね、この一回きりのカラー版上映」と二人して、いかに今回のカラー版上映が偉業であるかを話した。それから、劇中のある問題シーンに話題がおよぶ。叶井が口を開く。「ラストで妊婦の人が助かるじゃないですか。あそこで車の中で赤ちゃんを産んで、アクセルを踏むでしょ。公開当時、映倫の審査のときに、赤ちゃんが死んでたら、カットするか、ボカせと言われたんですよ。映倫まで行って、(該当シーンを)一時停止して”死んでません!”と言って。映倫の人たちは”叶井さん、絶対死んでます”と。ところが、今回カラー版を観たら、完全に頭を踏んで死んでるね(笑)」と明かし、これにも場内は沸いた。
 今日のこの日に至るのは、一作目を買い付けたことから始まった。叶井は「一番最初はゆうばりファンタで上映され、そのときはまだ配給が決まってなくて。『ムカデ人間』っていうから怪物ものだと思ったんだよね。なら、おれがやるしかないなと。映画の中身も知らずに買い付けようとしたら、人間を3人つなげる話だった」と驚いたそう。
 江戸木も数多の狂った映画を宣伝してきたが、それでも『ムカデ人間』シリーズの病的さにはまいったようで、「『ムカデ人間』あたりになるとちょっと勘弁してほしいと思った。仕事としてやるのもなかなか……」とコメント。一方、叶井のほうはやる気に満ちており、「パート1は当時、仲良くしてたTOHOシネマズでやろうと思ったんです。監督のトム・シックスがTOHOの皆さんに試写をして観せたんですよ。全員ドン引き(笑)。”これをうちでやろうと本当に思ってる?”と言うから、”思ってるよ!”と。結果、ダメでした」と天下のTOHOシネマズのスクリーンに人間結合映画をかけようと企んでいたことを明かした。結局、東京では渋谷のシネクイントで上映されたが、叶井が「レイトショーで1000万円くらい当たった」と話すとおり、観客はこういうものが観たかったことが証明されたのだ。
 叶井は『ムカデ人間』シリーズ以前、90年代の配給会社アルバトロス・フィルム時代にも問題作を手掛けている。例えば、ネクロフィリア(死体愛好)の人間を描いたユルグ・ブットゲライト監督のドイツ映画『ネクロマンティック』だ。江戸木は「『ネクロマンティック』の1と2、『死の王』と『シュラム 死の快楽』はアルバトロス時代に全部やりましたよね。あれも他のまともな会社だったら絶対にやらない。ある意味、『ムカデ人間』よりもひどいですね」と顔をひきつらせながら話す。また、同じくドイツのクリストフ・シュリンゲンズィーフ監督の一連の作品(『ドイツチェーンソー 大量虐殺』、『テロ2000年 集中治療室』、『ユナイテッド・トラッシュ』)も叶井が手掛けたことを解説。そして、「この人がいなかったら、日本でリリースされなかった作品は案外あるんです」と叶井が果たした業績を伝えた。
 トークショーの最後、叶井は「貴重な機会ですよ。末期がんでステージ4でね、余命宣告を受けてる人は、こういうことをやらないと思うんです」と自身の名を冠した映画祭を振り返って感慨深げ。それから「第2回をやってもいいかもしれないですね」と希望を口にし、トークショーは幕を閉じた。
 逝去するまで叶井が籍を置いていた、映画配給レーベル・エクストリームで彼は宣伝プロデューサーを務めていた。叶井がかつて発掘していたようなキワモノなテイストを持つ映画たちは、いま現在もエクストリームから世に放たれている。今年も1月26日から、光武蔵人監督『唐獅子仮面/LION-GIRL』が公開中だ。さらに、2月23日からは宇賀那健一監督『悪魔がはらわたでいけにえで私』の公開が控えている。叶井俊太郎の意思は残された者たちへ受け継がれていくだろう。あらためて、ご冥福をお祈りする。


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