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永井豪ワールド完全実写化! 光武蔵人監督『唐獅子仮面/LION-GIRL』が公開。永井豪が書き下ろしたオリジナル・キャラクターを演じるトリ・グリフィスと光武監督がやんちゃな血まみれジャンル映画に全力でぶつかった!

取材・文:後藤健児

 光武蔵人監督の最新作『唐獅子仮面/LION-GIRL』がエクストリーム配給により、1月26日から全国で公開中だ。1月27日、東京・シネマート新宿での上映後、主演のトリ・グリフィスと光武監督が登壇し、やんちゃな映画が出来上がるまでの秘話をたっぷり語った。

『唐獅子仮面/LION-GIRL』ポスタービジュアル

『デビルマン』『バイオレンスジャック』『マジンガーZ』『キューティハニー』『けっこう仮面』など伝説の漫画を発表し続けてきた天才・永井豪が本作のために原案とオリジナル・キャラクター”唐獅子仮面”を書き下ろした。彼女が冒険する舞台は突如、巨大隕石群が飛来し、地表の99.9%が壊滅した未来の地球。奇跡的に小規模の被害で済み、唯一人間が生存できる関東平野(まるで、『日本以外全部沈没』の『バイオレンスジャック』版だ)に集まった生き残りたちが血で血を洗う抗争を繰り広げる。オープニングで語られる、現在にいたるまでの物語は「永井豪とダイナミックプロ」によるコミックページ調のイラストにナレーションが被さる構成で、かつて発売された「まんがビデオ」を想起させる。実権を握った独裁的な将軍が支配するディストピア社会で、さらに人々を恐怖に陥れるのが、隕石の光を浴びた人間が怪物化した”アノロック”。超人的な能力を持った怪物に対し人間は無力だったが、獅子の仮面を着けた謎のヒーローが人々のために立ち上がった。そう、彼女こそ弱きを助け、強きをくじく、正義のやくざ者・緋色牡丹だったのだ。

主人公の唐獅子仮面こと緋色牡丹(演:トリ・グリフィス)

 監督を務めたのは光武蔵人。ロサンゼルスを拠点に活動する光武は『女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN』や『KARATE KILL/カラテ・キル』などのアメリカンスタイルと日本流、それぞれのジャンル映画のよさをミックスした娯楽映画で世界を熱狂させてきた。多感な青春時代に漫画『デビルマン』に衝撃を受けた光武が最新作で作り出したのは、暴力の嵐が吹き荒れる戦国時代のような関東平野に、侍の出で立ちをした大男や任侠道を重んじるやくざ一家、お尋ね者のアンドロイドなどクセモノぞろいが跋扈する世界。そこに、超人的な力を持つ怪物化した人間と、怪物の体と力を持ちながら人間の心を忘れない半獣半人までも加わる。まさに永井豪ワールドだ。永井作品の持ち味であるバイオレンスとエロスのエッセンスを臆することなく取り入れた本作は、これまでに実写化された永井豪作品の中で最も忠実な映像化と言っていいだろう。永井作品の名シーンや名ゼリフを単なるお遊びではなく、きちんと物語のテーマに絡めて引用した場面もファンにはたまらない。

スラムキングを思わせる超大型暴力侍も登場

 主人公の緋色牡丹役は『ボルケーノ2023』や『デイ・アフター・トゥモロー2023』のトリ・グリフィス。巨大な獅子の仮面を被っての激しいアクションやヌードにも果敢に挑戦し、時に茶目っ気を見せる愛嬌も振りまく。永井豪テイストが詰まった正義の使者を演じきった。牡丹の師匠・宍倉剣役に『コモドVS.キングコブラ』や『デクスター 警察官は殺人鬼』のダミアン・T・レイベン。眼帯と着流し姿でカタナと拳銃を持ち、任侠道を貫く漢気あふれるナイスガイを好演。ハリー・キャラハンの名ゼリフ「泣けるぜ」に向こうを張ったかのボヤきぶりも楽しい。悪魔特捜隊よろしく人間だろうと見境なく殺しまわる怪物狩り部隊のボスを演じるのは、リメイク版『13日の金曜日』のジェイソン・ボーヒーズや『プレデターズ』のクラシック・プレデターでスクリーンを犠牲者の血で染め上げてきたデレク・ミアーズ。本作では凄味を利かせた素顔で、甲冑に身を包み、斬馬刀のような大太刀を振るい、唐獅子仮面を追い詰める。そして、『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』、『ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー』の岩永丞威が本作でも劇画チックなハードボイルドさで画面を彩る。

師匠の宍倉剣(演:ダミアン・T・レイベン)と緋色牡丹が織り成す師弟コンビの絆が熱い

 上映後の舞台挨拶に立った光武とトリ・グリフィスは、集まった観客に対して感謝の言葉を述べ、映画の製作にまつわる面白話を展開していった。

フォトセッションにて。(左から)光武蔵人監督、トリ・グリフィス

 トリ・グリフィスは「このクレイジーな映画を楽しんでいただけましたでしょうか」とニッコリ。光武は「やんちゃなジャンル映画というのがなかなか作れない時代になってしまっていて。こういう映画の最後かもしれない(笑)」と苦笑いしながらも満足げな表情を見せた。本作が誕生した経緯について、永井豪とのコラボレーションは偶然がもたらしたものだった。光武が語る。「東映ビデオさんから声をかけていただきました。自分のオリジナル企画を提案したんですが、なかなか通らず。メジャー映画会社さんとやらせていただく上では、やはり永井豪先生のような有名漫画家さんの原作がないとできないんでしょうかと話をして。そうしたら、東映さんが永井さんと縁が深かった」とたまたま名前を出した”永井豪”だったが、そこから話が進んだ。「本当は『デビルマン』が一番好きで、あれの実写化ができたら次の日には死んでもいいと思ってるんですけど(笑)、いきなり『デビルマン』は無理だと思ったので、『キューティーハニー』の実写版をオールアメリカンロケで作る企画を提案しました」と明かす。永井はその提案を気に入ったそうだが、ちょうど舞台版の『キューティーハニー』の企画が進んでいたこともあり、そのタイミングでは血みどろ満載の『キューティーハニー』を実現するのは難しくなってしまった。そこで、なんと永井はオリジナルでキャラクターを書き下ろしてきた。それが唐獅子仮面だ。

令和の時代でも遜色ないカッコよさの唐獅子仮面

 実写化にあたって、永井からの注文はあったのかと司会から問われた光武は、永井の大らかさに助けられたと話す。「自由度が高くて、緋色牡丹と宍倉剣という二人のキャラクターが昔気質のやくざで、牡丹は体を熱せられると唐獅子仮面に変身する。そのくらいの設定をいただきました。あとはそこから自由に膨らませました。永井先生から出た注文はとにかく緋色牡丹役はとてもかわいい子にしてくれと。”永井豪ヒロイン”として成立するキャスティングをと言われました。トリがそれを体現してくれて、初号試写のときも永井先生から”ヒロインがかわいかった”とお墨付きをいただきました」と合格点だったことを報告。
 トリ・グリフィスは「いまでも永井先生に認めていただけたのが信じられない」とコメント。本作のオーディションに参加するまで、永井豪のことは知らなかったというが、この作品を通して大ファンになったそう。元々は、牡丹と行動を共にする悲運なヒロイン・マユミ役でのオーディションを受けていたが、第二審査では光武から主役へのオファーを提示されたという。光武は「光るものを持っていたので、主人公をやってもらえないかとカウンターオファーを出しました。ヌードや格闘もある大変や役なので、彼女のマネージメントサイド経由で話をして。彼女から大丈夫と言ってもらえました」と役柄に対して真剣に臨もうとする彼女の熱意を讃えた。その役作りについて、トリ・グリフィスが口を開く。「コロナのパンデミックで一年近く俳優業ができずにいました。ナーバスになっていたときに脚本を読み込んでいくと、ヒーローになることへのプレッシャーを感じる緋色牡丹と、主演女優にならないといけない自分とが自然に融合して、この役を演じることができました」と主人公と自身を重ねていたことを明かした。続けて、「正しいことに向かって進んでいく主人公と、俳優のキャリアとして正しい選択をしようと思う自分の置かれた立場が同調していた」と俳優として本作が重要な一本だったことを伝えた。
 コロナ禍における撮影は世界中のどの現場でも苦労を強いられたが、本作も例外ではなかった。光武は「映画監督として一番悔しいのは画に映らないところにたくさんお金がかかってしまうことなんです。アメリカのユニオンのルールに則ったコロナ対策で撮影をしたので。皆さんに観ていただけるところにお金を使いたかった」と胸のうちを語った。コロナへの思いはストーリーにも反映されており、特別感染症患者として指定された怪物”アノロック”をめぐる人間たちの醜さには、『デビルマン』を敬愛する光武なりの人間洞察が見て取れる。

異形の者と人間のドラマは永井作品が描き続けてきたテーマでもある

 厳しい制約下の現場だったが、そこで働く人々はとても和やかなコミュニケーションが図れたという。「トリも岩永さんと非常にナチュラルにケミストリーをかもしてくれました。悪役を演じたデリクはハリウッドいちの人格者だと思うくらい、いい人。トリが被っていた唐獅子仮面のマスクが重いんですけど、カットがかかるとデリクがマスクを持ち上げてくれたりとか。宍倉役のダミアンも非常にすばらしい人間だったし、キャスト、クルーに恵まれました。一丸となってこの狂った世界を実現させてくれました」とこの場にいない面々に対しても感謝を捧げた。

永井豪ワールドの住人たちを体現した国際色豊かなキャスト

 トリ・グリフィスは「現場としての体験はすばらしかったのですが、唯一大変だったのが黄金の鎧。重くて固くて。あれを着けて空手の型とかをやらないといけなかった」と当時を思い返す。「その年のL.A.は異常な寒波で、(ある荒野のシーンが)すごい寒かった。(劇中で)自分の呼吸が荒くなっているのは寒かったからです(笑)」と笑いを交えて真相を明かした。

現場での奮闘の結果、鎧の重量感が画面に現れている

 海外での評判はどうだったのか。光武は「アメリカでは(昨年の)11月7日にリリースされました。『ニューヨーク・タイムズ』が選ぶ、今週末に観るべき映画5本のうちの一本に入れていただいたりとか、非常にお客さんからは高評価をいただきました。アメリカではいま、「スーパーヒーロー疲れ」が話題になっていて。その中でも『唐獅子仮面』のようなヒーローものはアメリカにもないので、非常にウケました。映画祭展開では、こういうやんちゃな映画は断られたりと残念な気持ちで自信をなくしていたんですけど、こうやってお客さんに観てもらえれば評価していただけると思っていました」と観客への信頼を言葉にした。

L.A.の現場で培った光武演出によるガンファイトも見ものだ

 完成作品に対する周囲の反応に関して。トリ・グリフィスは「両親に観せるのは心配していたんですが、非常に気に入ってくれました」と胸をなで下ろしたという。大胆なヌードシーンもあるため、光武は「お父さんには殴られんじゃないかなと(笑)。ご両親ともにプロデューサーの芸能一家でもあるので、映画のメッセージ性も汲んでくださって、喜んでいただいたので安心しました」と映画の内面まで深く理解してもらえたことを喜んだ。
 今後について、トリ・グリフィスは「皆に覚えていただける、そしてある種の社会性を持った映画に出演していきたいと思っています。この映画もパロディという形で社会性を持った映画です」とこれからの展望を語りつつ、作品の魅力をあらためてアピール。光武は「これが大ヒットしてくれて、『デビルマン』や『バイオレンスジャック』をやらせていただきたいなと思います。ヒーローものの第一話は説明過多になってしまうので、次はほぼ台詞がないような映画とかもやってみたい」と次なる野望を見据えるように語った。

 最後にそれぞれから観客へのメッセージが伝えられる。トリ・グリフィスは「皆さんに気に入っていただけているとうれしいです。これだけ永井先生の世界に忠実な実写化はなかったと思います」と自信をのぞかせる。光武は「意外とちゃんとしたメッセージがある映画だったんじゃないでしょうか(笑)。やんちゃなパッケージの中で、世知辛い世の中をどうやって生きるかみたいなメッセージ性もある映画だと自負しております。ジャンル映画が好きな方にも苦手な方にもたくさんの方に観ていただきたいです。今日は本当にありがとうございました!」と多くの観客が集った客席に向かって礼をした。
『唐獅子仮面/LION-GIRL』は、エクストリーム配給にて1月26日よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿他、全国公開中。

【本文敬称略】©2022 GO NAGAI/DYNAMIC PLANNING・TOEI VID

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