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荒唐無稽でアクロパティックなスパイ活劇 『ARGYLLE / アーガイル』

ARGYLLE / アーガイル
3月1日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 エリー・ウンウェイは売れっ子の小説家。人気のスパイ小説シリーズ「アーガイル」は第4巻が発売され、5冊目の脱稿も間近だ。しかしいち早く原稿を読んだ母は、そのエンディングの凡庸さを指摘。エリーはより良い原稿を仕上げるため、列車で母のもとに向かう。

 その列車内で不躾に話しかけてきたのが、小説の愛読者で自らもスパイだと名乗るエイダン・ワイルドという無精髭の中年男。とんだ与太話だと相手にする気もないエリーだったが、そこに次々殺し屋が襲いかかってきて話は急展開。エリーとエイダンは間一髪で列車を脱出し、事件の手掛かりを求めてロンドンへ向かう。

 エイダンによると、エリーの小説は現実のスパイの世界で起きている陰謀や暗闘をそのままなぞっているらしい。そのため単行本4巻で行方不明になった秘密ファイルを追って、悪の組織がエリーを狙っているという。

 半信半疑のままで、エリーは国際的なスパイ戦争に巻き込まれて行く。

■感想・レビュー

 『キングスマン』シリーズ(2015〜)のマシュー・ヴォーン監督が手がける、新しいスパイ・アクション映画。どうやら『キングスマン』シリーズにつながる関連作品らしいが、どんな仕組みや構想になっているのかはまだわからない。

 映画に登場する個々のアイデアは、これまでにも他の映画などで使われてきたものだと思う。例えば、平凡で冴えない風采の人物がじつは凄腕のエージェントだったという話は、掃いて捨てるほどある。小説の内容が小説家の意図と無関係に現実世界を反映し、現実世界に影響を与えるというアイデアも、どこかで見たことがあると思う。

 本作はそうした「どこかで見たアイデア」をあれこれ拝借しながら、大きく継ぎ合わせて別の物語を作っていく。できあがった物語には正直かなり無理や無茶があると思うのだが、断片的なパーツの面白さと巧みな語り口で、映画を観ている間はとりあえず気にせず過ごせるはずだ。

 しかしこの映画にとって最も荒唐無稽で無茶なアイデアは、ストーリーとは別の場所にある。それはブライス・ダラス・ハワードに、華麗でスタイリッシュなアクションを演じてもらうことだ。これはちょっと無理があった。走っても、飛び上がっても、ダンスをしても、彼女の身体がいかにも愚鈍で重たそうなのだ。サム・ロックウェルが彼女を抱き上げるシーンなどは、彼が圧し潰されたり腰や背中を痛めないかと少し心配になるほどだった。

 そんなわけでアクションに難があるとは言え、ハワードはなかなかのコメディエンヌで、見ているとつい彼女を応援したくなってしまう。こういうのは脚本や演出の段取りもあるが、まず俳優本人の個性によるものだ。同じ事をしていても、応援しがいがある人と、応援する気が削がれる人が世の中にはいる。ハワードは確実に応援しがいのある側で、それがアクションの重さを補って余りある。何でもできる完璧な俳優はいない。この役は彼女で正解なのだ。

(原題:Argylle)

TOHOシネマズ日比谷(スクリーン8)にて 
配給:東宝東和 
2024年|2時間19分|イギリス、アメリカ|カラー 
公式HP:https://argylle-movie.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt15009428/

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