服部 弘一郎

映画批評家。1966年東京生まれ。著書に「銀幕の中のキリスト教」(キリスト新聞社)。編…

服部 弘一郎

映画批評家。1966年東京生まれ。著書に「銀幕の中のキリスト教」(キリスト新聞社)。編著に「シネマの宗教美学」(フィルムアート社)がある。 http://eigakawaraban.wordpress.com

最近の記事

尼崎を舞台にしたローカル色豊かなコメディ 『あまろっく』

■あらすじ  近松優子は兵庫県尼崎出身。小さな鉄工所を経営する楽天家でぐうたらな父に反発し、一流大学卒業後は独立してバリバリ働いてきた。だが彼女は突然のリストラで、会社をくびになってしまう。  尼崎の実家に戻ってダラダラとニートのような生活を続ける優子に、父は「お父ちゃんは、再婚することになりました」と告げる。「勝手にしたらええがな。私には関係ない!」と応じる優子。だが父が再婚相手として家に連れて来たのは、まだ二十歳だという若い美女・早希だった。  家族3人の、ギクシャ

    • LUMIX GF7を買いました

      今年2月にOM SYSTEMの旧OM-1を購入したばかりなのに、4月になってマイクロフォーサーズのカメラをもう1台購入しました。 以前から持っていたOM-D E-M10 Mark IIIとOM-1はOLYMPUSブランドですが、今回はPanasonicのLUMIX GF7です。これでマイクロフォーサーズ3台体制になりました。日常的な撮影のために持ち歩けるカメラは1台かせいぜい2台でしょから、3台は持ちすぎかもしれません。 とはいえ、自分の中では今回のカメラ購入について合理

      • 呪われたプロレス一家の物語 『アイアンクロー』

        ■あらすじ  フォン・エリック家には、両親と四人の兄弟がいる。父のフリッツ・フォン・エリックは、必殺技のアイアンクローで一世を風靡したプロレスラー。選手としての一線からは退いたが、今もプロレス団体WCCWのプロモーターとしてプロレス界に睨みをきかせている。  そんな父に育てられた息子たちも、次々プロレスラーになった。早世した長男に代わって一家の長兄になったのが、次男のケビンだ。三男のデヴィッドもプロレスラー。四男のケリーは円盤投げ選手として五輪代表候補に選ばれている。五男

        • 壮大なSF叙事詩のクライマックス 『デューン 砂の惑星 PART2』

          ■あらすじ  恒星間宇宙飛行に不可欠なスパイス、メランジ。その唯一の採掘地である惑星アラキスに、新たな採掘管理者として赴任したレト・アトレイデス公爵は、長年対立しているハルコンネン男爵の軍団によって殺害された。  アトレイデス家の一族郎党もすべて皆殺しとなったが、公爵の息子ポールと、その母で公爵の愛妾レディ・ジェシカは間一髪で危機を逃れる。二人は砂漠に逃れ、原住民フレメンに保護された。  フレメンの部族長スティルガーは、ポールが神話に登場する救世主ではないかと考える。ポ

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          ピクサーの大人向けアニメーション映画 『ソウルフル・ワールド(吹替版)』

          ■あらすじ  公立中学で音楽講師をしているジョー・ガードナーは、校長から不本意な通知を受け取って苦り切った笑顔を浮かべる。それは音楽教師としての正式採用通知だった。  仕事として安定した身分と収入が得られるのは、悪くないと言えば悪くない話だろう。だがジョーには、自分は音楽講師ではなく、ジャズ・ピアニストなのだという強い思いがあった。  そんな彼に、今はプロのミュージシャンをしているかつての教え子から電話がかかってくる。有名ジャズ歌手ドロシア・ウィリアムズのライブで、ピア

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          ドイツのラッパー、カター(Xatar)の伝記映画 『RHEINGOLD ラインゴールド』

          ■あらすじ  2010年のシリア。人里離れた砂漠の刑務所に、3人の外国人が収監される。リーダー格のジワ・ハジャビはクルド人。彼は同じクルド人を名乗る役人から、厳しい取り調べを受けることになる。 「奪った金塊はどこに隠した?」 「知らねえな。俺が持ってる金はこの金歯だけだぜ」  役人はジワの金歯を無理矢理引き抜くと、彼を劣悪な環境の監房に戻す。いったいなぜ、彼はこの監獄に入ることになったのか? 思い起こしてみると、ジワの最初の記憶は刑務所の中でのものだった……。  ジワ

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          毎度おなじみの荒唐無稽なアクションに満足 『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』

          ■あらすじ  北海道函館を拠点とする斧江財閥に、怪盗キッドからの予告状が届く。狙うのは箱館戦争で旧幕軍を指揮した新選組の副長、土方歳三にまつわる2本の脇差しだ。キッドがらみの事件となれば、現場に呼ばれるのは名探偵の毛利小五郎。  たまたま函館で行われる剣道大会のため同地を訪れていたコナンと服部平次も周囲を警戒し、予告状の秘密を見破った平次がキッドの侵入を見破った。キッドは脇差し1本だけを奪って逃走。だが同じ頃、港に近い倉庫街では、胸を十字に斬られて斧江財閥の顧問弁護士が殺

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          古典的オカルト・ホラーの前日譚 『オーメン:ザ・ファースト』

          ■あらすじ  左翼運動が盛り上がっていた1971年のローマ。カトリック系孤児院に、アメリカの修道院から研修生のマーガレットがやって来る。彼女はこの孤児院で働きながら、運営母体である女子修道院で終生誓願を立てることになっているのだ。期待に胸を膨らませるマーガレットは、年長のカルリータという少女と出会う。  自分自身も孤児として育ったマーガレットは、精神的に不安定な部分があるカルリータに自分自身を重ね合わせる。カルリータと同じように、自分も悪夢に悩まされているのだ。言葉も通じ

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          原爆の父はなぜ公職から追放されたのか? 『オッペンハイマー』

          ■あらすじ  1920年代。ハーバード大学を優秀な成績で卒業したロバート・オッペンハイマーは、留学先のケンブリッジ大学で物理学と科学を学ぶが、実験が苦手なこともあって理論物理学の世界に進む。  大学で物理学の教鞭を執るようになった彼は、やがて教授に昇進。第二次大戦が始まりドイツによる核爆弾開発の可能性が懸念されるようになると、それに対抗してアメリカによる国家プロジェクトとしての核開発がスタートする。国の内外から集められた科学者たちのリーダーに選ばれたのが、オッペンハイマー

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          これは『リトル・マーメイド』の男の子バージョンだ 『あの夏のルカ(吹替版)』

          ■あらすじ  北イタリアの小さな港町ポルトロッソ。恐れ知らずの島の漁師たちが唯一恐れているのは、海の魔物シー・モンスターだ。  だがそのシー・モンスターたちは、人間を恐れていた。彼らは決められた縄張りの中だけで暮らし、海の上には決して出ない。人間の船が通れば、海の底深くまで身を隠す。  そうやって長い間、両者は異なる世界に暮らしてきたのだ。  シー・モンスターの少年ルカは、時々海の底に落ちている人間の道具に興味津々。そんな彼の前に現れたのは、同じシー・モンスターの少年

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          日本語タイトルほど甘くない驚愕の実話 『パリ・ブレスト 〜夢をかなえたスイーツ〜』

          ■あらすじ  児童養護施設で暮らしているヤジッドは、施設の中でも札付きだった。既に十代後半の彼はあと数年で施設から出て行かなければならないのに、素行が悪くていつも問題ばかり起こしている。  だがヤジッドには、ひとつの夢があった。それはパティシエ(菓子職人)になって、世界選手権で優勝すること。施設には黙ってパリの有名レストランでの職を手に入れたヤジッドだが、運悪く警察の一斉検挙に引っかかった彼を、施設はパリから遠く離れた別の施設に移そうとする。  ヤジッドは施設から脱走し

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          嵐の前の、静かすぎる静けさ 『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』

          ■あらすじ  某年8月31日。東京湾沖に突然現れた巨大な円盤形宇宙船は、米軍のA爆弾による攻撃であっけなく機能停止した。攻撃の巻き添えで東京では多数の死者と行方不明者が出たが、宇宙船はその後も墜落することなく、人間が歩く程度の速度で東京上空をさまよっていた。  それから3年後。巨大な宇宙船が頭上を飛行しているにもかかわらず、東京は普通の生活を取り戻していた。宇宙船からは時々小型・中型の飛行物体が射出されるが、それはたいてい自衛隊によって迎撃され、逃げ出した「侵略者」も自衛

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          真相はただ一人の胸の内に…… 『落下の解剖学』

          ■あらすじ  フランス山岳部の山荘で、一人の男が死んだ。男の名はサミュエル。山荘の外に倒れて動かなくなっている彼を、犬の散歩から帰ってきた11歳の息子が発見したのだ。家にいたのは、妻サンドラだけだった。  当初は転落事故だと思われていたが、警察の検視によって、事件の疑いが濃厚になってくる。  サミュエルの致命傷は頭部の深い傷。倒れていた場所の近くにはこれは物置小屋があり、その壁には被害者の血が付いている。だが物置の屋根には被害者がぶつかった痕跡がく、地面に落ちた後から壁

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          導入部は面白そうなのにすぐ腰砕け 『変な家』

          ■あらすじ  動画クリエイターの「雨男」こと雨宮トオルは、マネージャーの柳岡から一軒の中古住宅の図面を見せられる。購入を検討しているが、その是非を知り合いの建築家に相談してほしいというのだ。  雨宮は図面を建築家の栗原に見せるが、彼は「買わない方がいい。自分なら買わない」と即答する。いったいなぜ? それは図面に不審な所があったからだ。1階キッチンのすぐ脇にある奇妙なデッドスペース。2階の子供部屋にと独立したトイレと二重扉があり、まるで中に誰かを閉じ込めるような作りになって

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          少年と少女の忘れがたい一夏の体験 『ゴールド・ボーイ』

          ■あらすじ  数多くの企業経営で沖縄経済を支える東一族の当主と夫人が、崖から転落死した。現場にいた娘婿・東昇の証言に不自然なところもなく、警察はこの件を事故として処理。だがこれは東昇による、計画的な殺人だった。  近くの中学に通う中学生・安室朝陽は、幼なじみの上間浩とその妹の夏月と一緒に近くの海辺で写真を撮っていたとき、この現場をたまたま動画撮影してしまう。ニュースを見た3人は、犯人が東昇であることを悟る。 「この動画はお金になるかもしれない」  3人はそれぞれの家庭

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          荒唐無稽でアクロパティックなスパイ活劇 『ARGYLLE / アーガイル』

          ■あらすじ  エリー・ウンウェイは売れっ子の小説家。人気のスパイ小説シリーズ「アーガイル」は第4巻が発売され、5冊目の脱稿も間近だ。しかしいち早く原稿を読んだ母は、そのエンディングの凡庸さを指摘。エリーはより良い原稿を仕上げるため、列車で母のもとに向かう。  その列車内で不躾に話しかけてきたのが、小説の愛読者で自らもスパイだと名乗るエイダン・ワイルドという無精髭の中年男。とんだ与太話だと相手にする気もないエリーだったが、そこに次々殺し屋が襲いかかってきて話は急展開。エリー

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