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呪われたプロレス一家の物語 『アイアンクロー』

4月5日(金)公開 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

■あらすじ

 フォン・エリック家には、両親と四人の兄弟がいる。父のフリッツ・フォン・エリックは、必殺技のアイアンクローで一世を風靡したプロレスラー。選手としての一線からは退いたが、今もプロレス団体WCCWのプロモーターとしてプロレス界に睨みをきかせている。

 そんな父に育てられた息子たちも、次々プロレスラーになった。早世した長男に代わって一家の長兄になったのが、次男のケビンだ。三男のデヴィッドもプロレスラー。四男のケリーは円盤投げ選手として五輪代表候補に選ばれている。五男のマイクもレスラーとしての道を選ぶ。

 1980年、ソ連のアフガン侵攻に抗議して西側諸国がモスクワ五輪をボイコット。五輪出場候補だったケリーも家に戻り、本格的にプロレスに参加するようになる。困難なときにこそ、家族の絆が大切だ。そして家族を結びつけているのは、父親直伝のプロレスだった。

 だがこのプロレス一家に、次々と不幸が襲いかかってくる。

■感想・レビュー

 アメリカは伝統的に核家族の国だ。両親に育てられた子供たちは、大人になれば全員が家を出て独立し、それぞれに新しい家族を形成する。こうした伝統の国では、成人した子供が親と同居し続けたいなどと言えば、かなりの変わり者だと思われるに違いない。

 この映画の主人公ケビンは、自分の家族が大好きだ。それは別に構わないのだが、彼の夢は家族がずっと一緒に暮らすこと。成人しても親と暮らし、結婚しても親と暮らす。大きな家で両親と兄弟の家族たちが、いつまでも一緒に暮らすことが理想なのだ。これはアメリカ人の中では、かなり風変わりな家族観かもしれない。

 だがそんなケビンが夢見て理想化していた大家族は、彼の目の前であれよあれよと言う間に崩壊してしまう。そこで少しずつ明らかになってくるのが、父フリッツによる家族のコントロールだ。

 父は息子たちを言葉巧みに誘導し、プロレスの道に進ませる。彼は父親であると同時にプロレス団体のプロモーター。息子たちがプロレスラーになった瞬間、父にとって息子たちは、金を稼いでくれる大切な商品になるのだ。

 実際のフォン・エリック家がどうだっのかは知らないが、映画は兄弟たちに対する父の精神的な支配と経済的な搾取が、巡り巡って兄弟の死を招いたと解釈しているようだ。この構図を強調するため、映画にはフォン・エリック家にいたはずの六男クリスが登場しない。クリスがプロレスの世界に入ったのは、父フリッツがプロレスの世界から身を引いた後だ。クリスを登場させると、父を軸とした息子たちとの確執の物語が成立しなくなってしまう。

 「大家族」を夢見ていたケビンは映画の最後に父親から離れ、自分自身と家族のために新しい人生を生きようと決意する。こうして映画は、親から独立する子供という、アメリカの伝統的な家族を描くものになった。

 実在するフォン・エリック家はまだプロレスの世界にいるが、それは映画とはまた別の話だ。

(原題:The Iron Claw)

TOHOシネマズ日比谷(スクリーン8)にて 
配給:キノフィルムズ 
2023年|2時間12分|アメリカ|カラー 
公式HP:https://ironclaw.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt21064584/

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