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男性優越主義とフェミニズムの皮肉なパロディ 『バービー』

8月11日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 さまざまなバービーたちが幸せに暮らすバービーワールド。そこではバービーたちがさまざまな職業に就き、ボーイフレンドのケンたちも交えながら、夢のように暮らしていた。

 だがある日、ひとりのバービーの身に異変が起きる。憂鬱になったり、涙もろくなったり、あろうことか足のかかとがぴったり地面に着いてしまったりするのだ。これは一大事!

 物知りの変わり者バービーから「リアルワールドにいる持ちの主の女の子が抱える問題を解決すべし」との指南を受けたバービーは、ケンと一緒に野を越え山を越え海を越えて、はるばるリアルワールドにやってくる。はたして彼女は、自分の持ち主を見つけられるのか?

 一方バービーと別行動を取るケンは、リアルワールドが家父長制的な男社会であることに衝撃を受ける。「これぞ僕が求めていたものだ!」。一足先にバービーワールドに戻ったケンは、バービー中心だったワールドで男社会の魅力を宣伝するのだった。

■感想・レビュー

 世界一有名な子供向け玩具のひとつ「バービー人形」をモチーフにした、ファンタジックでシュールなコメディ映画。監督・脚本は『レディ・バード』(2017)や『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)のグレタ・ガーウィグだが、そもそもなぜこんな映画が成立し得てしまうのかが、この映画にとってもっとも不思議なことだと思う。

 声高にフェミニズムを叫ぶ映画というわけではない。むしろこれは、フェミニズムやその主張を茶化した映画なのかもしれない。それはフェミニズムを冷やかしているわけではないし、反発しているわけでもない。フェミニズムやその主張がすっかり社会に定着し、多くの人がそれを知っていることを前提にした上で、それをイジってみせるのだ。

 そのためこの映画の中では、フェミニストがこれまでもたびたび取り上げてきた社会事象を取り上げても、それを深掘りすることがない。それは登場した時点で「皆さんご存知のアレでございますよ」という形で消費されてしまう。そのためこの映画をフェミニズムやそれに類する社会批判の視点で見るなら、物事の上っ面を撫でただけの浅い映画に思えるのではないだろうか。

 しかしそれだからこそ、この映画には強い憤りが込められていると思う。フェミニズムの主張は社会の中に広く知られているし、表向きはそれに強く反発する人もいないように見える。だがそれでも、フェミニズムの主張が社会の中で実現することはない。社会は柔らかな物腰とは裏腹に、頑なに家父長制的な男社会を守り続けている。

 その象徴が、劇中に登場するマテル社の重役たちだろう。女の子向けの玩具を作っているのに、経営陣や社の要職を占めているのは見事に男ばかり。

 しかし僕も含めて多くの日本人は、このマテル社のありさまを笑えないだろう。ここに登場する男たちの姿は、日本の政治家や企業経営者たちの姿と瓜二つ、まったく変わらないからだ。

(原題:Barbie)

TOHOシネマズ日比谷(別館シアター12)にて 
配給:ワーナー・ブラザース映画 
2013年|1時間54分|アメリカ|カラー 
公式HP: https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt1517268/

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