見出し画像

伝説になったロック歌手のコンパクトな伝記 『フレディ・マーキュリー The Show Must Go On』

2月16日(金)公開 新宿ピカデリーほか全国順次公開

■あらすじ

 イギリスのロックバンド「クイーン」のフロントマンとして1970年代から活躍し、1991年にAIDSを発症して亡くなったフレディ・マーキュリーについてのドキュメンタリー映画。

 1946年にイギリス保護国だったザンジバル島(現在はタンザニア領)で、パルーシー(インド人ゾロアスター教徒)の両親から生まれたファルーク・バルサラは、幼い頃に周囲から「フレディ」の愛称で呼ばれるようになり、以後は自らその名を好んで使うようになった。

 彼はクイーンに参加して以降、バルサラの名も捨ててフレディ・マーキュリーと名乗るようになる。マーキュリーはローマ神話の神メルクリウスの英語読みであり、ギリシャ神話の神ヘルメスのこと。それは彼自身が自分のルーツと離れ、別の人格を演じることを意味していた。

 クイーンは1970年代の多彩なトレンドを取り入れながら、フレディの圧倒的な歌唱力と表現力で世界的な人気バンドになっていく。

■感想・レビュー

 2023年に製作された、上映時間49分のドキュメンタリー映画。おそらくテレビ向けのプログラムとして企画製作されたものだと思うが、フレディ・マーキュリーの生涯を縦軸に、さまざまなインタビューや当時の素材を織り交ぜて、ロックバンド、クイーンの足跡をたどる構成になっている。

 クイーンとフレディ・マーキュリーについては、フレディの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)がかなり突っ込んだところまで描いていたので、それに比べるとこの映画で描かれている内容はやや表層的にも思える。しかしそれは、この映画がフレディ・マーキュリーが作り上げようとした「パプリック・イメージ」に忠実であろうとした結果かもしれない。

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』ではフレディが家族から離れ、晩年に再び家族と和解する様子が描かれている。ファルーク・バルサラはフレディ・マーキュリーになって、最後にまたファルーク・バルサラに戻っていくのだ。劇中ではフレディがクイーンを離れてソロ活動を始め、そこに行き詰まって再びクイーンに戻る姿も描かれる。こうしたエピソードが描こうとしているのは、「放蕩息子の帰還」という、古典的で手堅い物語のパターンをなぞることだった。

 しかし本作『フレディ・マーキュリー The Show Must Go On』は、同じ路線に向かうことを拒絶する。ファルーク・バルサラはフレディ・マーキュリーという自ら生み出した新しいキャラクターを演じてステージで脚光を浴び、ステージに君臨して聴衆を魅了し、最後の最後までフレディ・マーキュリーを演じきるのだ。フレディはバルサラに戻らない。

 この映画はフレディと周囲の人間関係や私生活にあまり触れず、彼の死を描くにあたって、申し訳程度に彼の性指向や性生活を紹介するにとどめている。それはフレディ自身の見せたかった彼の姿ではないという、作り手の判断があるからかもしれない。

(原題:Freddie)

ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター1)にて 
配給:NEGA 配給協力・宣伝協力:アップリンク 
2023年|49分|イギリス|カラー 
公式HP:https://freddie2023.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt24977506/

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?