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ドイツのラッパー、カター(Xatar)の伝記映画 『RHEINGOLD ラインゴールド』

3月29日(金)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか、全国順次ロードショー

■あらすじ

 2010年のシリア。人里離れた砂漠の刑務所に、3人の外国人が収監される。リーダー格のジワ・ハジャビはクルド人。彼は同じクルド人を名乗る役人から、厳しい取り調べを受けることになる。

「奪った金塊はどこに隠した?」
「知らねえな。俺が持ってる金はこの金歯だけだぜ」

 役人はジワの金歯を無理矢理引き抜くと、彼を劣悪な環境の監房に戻す。いったいなぜ、彼はこの監獄に入ることになったのか? 思い起こしてみると、ジワの最初の記憶は刑務所の中でのものだった……。

 ジワの父はクルド人の高名な作曲家としてイランで活動していたが、イスラム革命に巻き込まれて難民となり、最初はパリに逃れ、次いで仕事を求めてドイツに渡った。

 ジワは幼い頃から父に音楽の教育を受けていたが、父が母と離婚して家を出てからは音楽を離れ、地域の難民コミュニティの中で若いギャング、カターとして頭角を現していく。カターはクルド語で、ヤバい奴の意味だ。

■感想・レビュー

 ドイツのラップミュージシャン、カター(Xatar)の伝記映画。タイトルの『ラインゴールド』は、ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」の序夜にあたる「ラインの黄金」のこと。この曲は映画の中でも主人公一家がドイツに渡った場面で印象的に引用され、映画の最後にも再び登場して物語を締めくくる。

 映画の構成としては、最初に主人公がシリアの刑務所に収監される2010年からスタートし、主人公の誕生以前に時間を戻して、主人公の生い立ちから逮捕収監に至るまでを、回想形式で少しずつ紹介している。その後は映画冒頭のエピソードを追い抜いて、主人公がミュージシャンや音楽プロデューサーとして成功するまでを描いている。伝記映画によくあるマズルカ形式だ。

 Wikipediaにあるカターの項目などと見比べる限り、映画の内容は必ずしも事実そのままというわけではないようだ。カターは強盗事件を起こして刑務所に入る前に、インディーズレーベルから1枚のアルバムを出している。刑務所の中で父親に面会し、突然音楽に舞い戻ったわけではないのだが、こうした映画的な脚色はおそらく物語の随所にあるのだろう。そもそもマフィアがらみのエピソードなど、現実そのままに映画にすることは難しいと思う。

 もっともこれは伝記映画の常套手段でもあるので、この映画もそうした過去の伝記映画と同じパターンをなぞっているわけだ。これは一人の難民少年が街の不良になって行く社会派映画であり、不良少年が大物密売人になっていくギャング映画であり、主人公と幼なじみの初恋を描く青春恋愛映画であり、実在の事件をモデルにした犯罪映画であり、そしてもちろん音楽映画でもある。

 1本の映画にさまざまな映画ジャンルが寄せ集められている様子は、豪華な幕の内弁当。しかも味付けは濃いめで、スパイスもばっちり効いている。好き嫌いはあるかもしれないが、間違いなくお腹はいっぱいになると思う。

(原題:Rheingold)

ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)にて 
配給:ビターズ・エンド 
2022年|2時間20分|ドイツ・オランダ・モロッコ・メキシコ合作|カラー 
公式HP:https://www.bitters.co.jp/rheingold/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt15536668/

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