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原爆の父はなぜ公職から追放されたのか? 『オッペンハイマー』

3月29日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 1920年代。ハーバード大学を優秀な成績で卒業したロバート・オッペンハイマーは、留学先のケンブリッジ大学で物理学と科学を学ぶが、実験が苦手なこともあって理論物理学の世界に進む。

 大学で物理学の教鞭を執るようになった彼は、やがて教授に昇進。第二次大戦が始まりドイツによる核爆弾開発の可能性が懸念されるようになると、それに対抗してアメリカによる国家プロジェクトとしての核開発がスタートする。国の内外から集められた科学者たちのリーダーに選ばれたのが、オッペンハイマーだった。

 1945年7月に世界初の核実験「トリニティ」が行われ、8月には広島と長崎に玄白が投下されて第二次大戦は終結。原爆を開発した科学者たちは戦争を勝利に導いた英雄として持てはやされるが、オッペンハイマーはその後の水爆開発に慎重だった。

 1954年。プリンストン高等研究所の所長になっていたオッペンハイマーは、赤狩りの嵐に巻き込まれる。

■感想・レビュー

 ロスアラモス国立研究所の初代所長として、世界初の原爆開発を指揮したロバート・オッペンハイマーの伝記映画。映画は1954年にオッペンハイマーが呼び出された公聴会と、その5年後に行われたルイス・ストローズに対する議会公聴会の様子を起点に、オッペンハイマーの青年時代から晩年までを追っていく。

 日本では「原爆開発者の伝記映画」ということで当初公開すら危ぶまれていたが、アメリカでの評価の高さを受けて日本公開が決定した後に、今年のアカデミー賞で主要部門を独占。しかし映画の構成はかなり複雑に入り組んでいて、ドラマ作品としてなかなか全体像を理解しにくい部分もある。

 おそらくこの映画の一番のわかりにくさは、これが「原爆開発秘話」ではなく、戦後の「赤狩り」の物語であることだと思う。

 本作のちょうど50年前、1973年に作られたシドニー・ポラックのメロドラマ『追憶』にも描かれる通り、戦時中のアメリカは、ドイツと戦うソ連を支援していた。大戦の勝利は主義や立場を越えた協力関係の勝利であり、共産主義国も対ファシズム戦争における連合国。その時点で共産主義の脅威を考えている人はほとんどいなかった。

 しかし時代は変わる。1940年代の終わりにアメリカでは共産主義への脅威論が過熱化し、1950年代前半のアメリカはマッカーシズムと呼ばれる赤狩り旋風が吹き荒れる。

 『オッペンハイマー』で描かれるのは3つの時代だ。ひとつは対ファシズム戦争の中で、アメリカがソ連や共産主義者に対しても融和的だった時代。次が赤狩り時代の1950年代半ばに、オッペンハイマーの公聴会が開かれるくだり。最後はストローズの公聴会が開かれる1950年代の終わりだが、この頃にはアメリカの赤狩り熱も一段落しているのだ。

 そんな時代背景を頭に入れて映画を観ると、わかりにくい映画も多少は読み解きやすくなるかもしれない。機会があれば見直してみたい映画だ。

(原題:Oppenheimer)

ユナイテッド・シネマ豊洲(6スクリーン)にて
配給:ビターズ・エンド
2023年|3時間|アメリカ|カラー
公式HP:https://www.oppenheimermovie.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt15398776/

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