素敵な笑顔の連鎖

不思議なくらいに、とても充実した一日。食品スーパーは切りがないくらい忙しい。いつもは仕事に追いかけられてるって感じなのに、なぜだか今日は、仕事が後からついてくるって感じ。

まるで散歩を嫌がる犬みたいに、私が仕事を引っ張ってる感じだ。なんだかとても可笑しい。それだけのことで、こんなにも気分がいいなんて。まるで野球選手がスランプから、いきなりホームランを打ったときのように、この手ごたえを絶対に、忘れないようにと心から思う。

新しいアルバイトが二人も入って、とても気持ちが楽になった。二人とも二十歳ととても若くて、まじめでよくやってくれてるのだけど、随分と大人しい。おいおい、生きてるの?って感じで心配になる。

まるで私が二十歳の時とおんなじだ。あの頃、私もまるで生きていなかったからなぁ。まぁ、難しい年頃には違いない。それとなく受け止めてやらねば。

仕事の前に二人に教えたことは、べつに難しいことじゃなくて、とてもシンプルなものだ。それはとにかく”元気を出そう”というそのこと。まるで小学校のホームルームで教えるようなことだ。本人たちにしても「二十歳の俺たちに何言ってんだ?このおっさん」くらいに思ったかもしれない。まぁ、そうは言っても二人とも、黙って仕事をしてるもんだから、なんとかならないかなぁと思ってた。

私は彼らにこう言った。

「同じ仕事をするならさ、明るく声を出して行こうよ。黙ってする仕事より、明るい声のある仕事のほうが、絶対に楽しいからね。仕事は本来、義務でもなくて、強制でもなくて、ただ、自分が楽しむべきものなんだ。楽しむ仕事は笑顔が生まれる。笑顔が生まれたら余裕が出来る。その余裕と笑顔でお客さんが喜んでくれる。だから自分も喜ぶし楽しめる。それがまた笑顔を生んで、また、お客さんの笑顔につながって、そしてまた自分につながってくる。わかるだろ?なんという素敵な笑顔の連鎖なのか!」

そんなふうに熱く語っていたら、二人ともくすくす笑っていた。まぁ、いいか。確かに今の世の中、熱く語るのはカッコ悪いことかもしれないけれど、実は後で、カッコいいと気づくものなんだ。君たちもいつか、分かると思うけど。とりあえず、まぁ、いいか。その笑顔が私の目的だったんだから。

それから彼らはいつもより多く、お客さんに挨拶をしてくれていた。いつもよりたくさんの笑顔をお客さんに、不器用にも見せていた。売場のほうも気持ちいいくらいにうまく作ってくれていた。

「だいぶ上手になったなぁ」と、肩をたたきながら私が誉めると、にたぁって子供のままの笑顔。まだ、あどけないんだなぁ。もっと誉めてあげなきゃと思った。まぁ、それで調子に乗られても困るけれども、困るくらいがちょうどいいのだと思う。

だって私の心がこんなにも、うれしがっている。
それはなんて素敵なことだろう。

笑顔っていいよなぁ。単純だけど難しい。だけどその力はまるで魔法のように果てしない。若い二人は明日また、どんな魔法の笑顔でみんなを、喜ばせてくれるんだろう。

それが楽しみで仕方ない。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一