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陽気な外国人と正しい間違い。

先日のこと、とても陽気な外国人のお客様がいらっしゃいました。その雰囲気から、恐らくどっかの英会話教室の教師の方じゃないかと思った。(背が高く、ピリッと決まったスーツ姿は、ちょっとキアヌ・リーブスに似てた。あくまでも、ちょっと、だけどね。)

で、その方が食品売場で、「ハ~イ」というような陽気な手振りで私に近づいてきてこう、尋ねた。

「すみまセーん、ハサミはどこデすか?」

文字通り、ひらがなとカタカナが混じったようなしゃべり方で、とても流暢とは言えなかったけど、でも、意味はちゃんとわかるものだった。

「はい、ハサミですね。あちらの文具コーナーに・・・」と私がご案内をしようとすると、キアヌ(勝手に仮名)はとても怪訝そうな顔をして「ノーノー、ハサミでース」と私に念を押して言ったのだった。

「えーとぉ、ですから文具コーナーはあちらですが・・・」とノートやら画用紙がある離れの売場を、私が手で指し示すと「ちがいまース。ハサミでース」とまた、彼は同じことを言っている。

困り果ててしまった私は、「ハサミですよね」とまた言いながら、つい身振りで、右手をちょきちょきとハサミのようにしてみたのだった。

すると彼は、何かの間違いに気付いたのか、「オウ!」と驚きの声を小さく漏らしそして、大きな右手を顔に当てながら、なぜか大笑いをし始めたのだった。

当然、何が起こったのか、私にはまったくわからない。ぽかんとその場に立ち尽くしていると、やがて彼は笑い声を必死に抑えながら、私にこう、説明したのだった。

「す、すみまセーん。わたシ、まちがえまシた。
ハサミじゃなくて、”ササミ”でース!」

そのあと、ふたりで静かに大きく笑いながら
私は精肉売場に、彼をご案内したのだった。

少し心が軽くなるような、そんな出来事だった。

こんな明るく笑えるような間違いも、学校のテストじゃペケになっても、それがあたたかな触れあいになるなら、別にいいんじゃないかと思う。

彼をご案内しながらも、私は心で思っていた。

日常のいろんな間違いも、きっと、どこかでこんなふうに
正しいものがあるのかもしれないと。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一