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最悪な人間関係と大きな誤算。

職場内の人間関係がギクシャクしていて
とても疲れてしまっている。

どうして人は、ああも簡単に、憎しみ合うことが出来るのだろうか?その人のそばにいると、とても疲れる。気づけば私もイライラしている。そしてそのイライラが、気づけば誰かを傷つけている。そんな繰り返しを続けるばかりだ。

そんな中、いろんな小さな出来事が重なって、もともと仲の悪かったKさんとYさんの口論が始まってしまった。みんなのイライラがピークに達していたのだろう。

情けないことに私はただ、オロオロするばかりで、どうしていいかもわからずに、事態を見守るしかなかった。

KさんもYさんもパートの30代の女性なのだけど、Kさんはどちらかというと、のんびりタイプでそれでいて言いたいことは言うほうで、一方、Yさんはその逆に、ちょっときつい性格で、気に入らなければ怒鳴ってでも正そうとする、自分の信念を曲げない人だ。(実を言うと、私はYさんが苦手だ。生き方は好きだけど。)

どちらの言い分も、もっともなことで、でもそれにはなんの解決にもなりそうもない虚しさがあった。それもそうだろう。問題の本質は、お互いの人間不信なのだから。

バックヤードの面談室は、とても静かな場所で、耳をすませば深い海の底にいるみたいに店内放送が聞こえてくる。

私も交え、KさんとYさんとで話し合った。この機会に、というワケではないけれど、お互いに言いたいことを言い合って、そこから解決してゆければ・・と私は願った。

いつまでも影で愚痴をこぼすよりもはるかにいいと思ったからだ。でも、結果的には失敗に終わった。最悪と言ってもいいほどに、それは私の大きな誤算だった。

人には、決して言ってはならないその人への言葉と言うものがある。KさんがYさんに対して、その言葉を使ってしまった。ほんの軽いはずみだったに違いない。でも、言った言葉に取り消しは出来ない。残るのはたぶん、後悔だけだ。

屈辱的な表現に近いその言葉に、私は何も言えなかった。何も出来なかった。何が正しいと言うわけでもなく、何が間違っていると言うわけでもなく、ただ、その言葉を前にして・・・。

私には、言葉を何かで浄化してゆくほどの力と能力を持ち合わせていない。ただ、ありきたりな言葉を使うしかなかった。何を言っても私の言葉は、ただの建て前にしか聞こえなかった。

そしてKさんが出て行った。「もう何も話すことはないから」と言って。でも、その声は震えていた。きっと、さっき言った言葉を、心底後悔しているのだろう。

それに気づかずか、言われたYさんは、Kさんへのひどい罵声と思いつく限りの悪口を、私に言い並べていた。何を言われても、私はただ、黙っているしかなかった。

気の強いYさんの声が、だんだん消え入りそうになる。時さえも、息をひそめたかのように、静寂が広がってゆく。

店内放送が、遠くかすかに聞こえてくる。

やがて、Yさんがうつむきながら
私にポツリとつぶやいた。

「泣いて・・・いいかなぁ」

私はただ、うなずくしかなかった。


最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一