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成人式には行かなかった。

あの頃、私は成人式には行かなかった。

もう、随分と昔の話ではあるけれど、その理由を、あまり多くを語る必要はないのだろう。当時私は、たぶん、ずっと死んでいたのだから。

あの頃、人間関係とかすべてから逃げたくなった私は、大学を中途で辞めてしまい、実家に戻って何もせずに、ただ、じっと家の中にいた。今で言えば、”ひきこもり”とでも言うのだろうか?誰にも会いたくなかったし、地元で友達にも会いたくなかった。外に出て「お前、今何してるんだ?」って誰かに聞かれるのが、一番恐かった。

親から「とりあえず、車の免許はいるだろう」ということで嫌々ながらも教習所へ通った。何日か過ぎた頃、偶然にも、教習所でKと出会ってしまった。Kとは高校の頃の友人で、約1年半ぶりの出会いだった。

遠く県外の大学に行ってるはずの私が、夏休みでもないのに、地元の自動車教習所に通っている。当然、Kは不思議に思っただろうが、なぜか私が恐れてた言葉はひとことも言わなかった。私の沈んだ表情から、なんとなくわかってくれていたのかもしれない。

まるでケンカした後みたいな気まずい雰囲気のまま、僕たちは軽い挨拶を交わすだけで、それ以上何も話さなかった。Kの何か言いたげな思いを、背中で感じるたびに私は消えてしまいたい衝動にかられた。私の存在が、ただ、Kを苦しめているように思えてならなかった。

やがて教習所での最後の日に、Kは私にはじめてこう聞いてきた。「お前さ、今度、成人式があるだろ?もちろんお前も行くよな?な、絶対に行くよな?オレ、待ってるからな。その時に必ずまた会おうな!」

Kはたぶん、こんな私のことを励ましたかったのだと思う。みんなと出会っても、きっと大丈夫さ。お前はひとりじゃないんだと、私に間接的に言いたかったんだと思う。今のお前に一番大切なのはたぶん、そういうことなんだと。

でも・・・私にそんな勇気はなかった。現実はいつもドラマのようにはしてくれない。結局、私はただ、暗い部屋の中、死んでるように生きるしかなかったのだ。


あの頃、私は成人式には行かなかった。

もう、ずいぶんと昔の話ではあるけれど、その理由を、あまり多くを語る必要はないだろう。当時私は、たぶん、ずっと死んでいたのだから。

ただ、その日が来る度に思う。

今でもKは、こんな私を
ずっと待ってくれているのだろうかと。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一