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きれいな接客とかわいい彼女。

レジに新しいバイトの女の子がやって来た。まだ、女子大生だそうだ。「おねがいしまーす!」と明るい笑顔がとても印象的な女の子だ。

一日様子を見ていたら、その彼女の態度に、私はとても感心をしてしまった。別にそんなふうに教育した覚えもないというのに、レジに来るお客さんひとりひとりに、明るく声をかけていた。

「いらっしゃいませ!いつもありがとうございます」
「いらっしゃいませ!こんにちは!」
「いらっしゃいませ!お荷物は重くないですかぁ?」

いらっしゃいませ、のあとに、必ず一声かけている。しかも、お客さんの顔を見て、その声のかけ方も工夫をしている。ご年配の方にはゆっくりと。主婦の方にはテキパキと。小さな子供には「バイバイ!」と明るく手まで振っている。

驚いた。ただ、ただ驚いてしまった。彼女は本当にこの仕事を、心から楽しんでいるように見えた。お客さんもいつのまにか、楽しそうにレジに並んで待っていた。きっといつもなら、何も言わないであろうお客さんまでもが、彼女の明るさに負けてしまったのか、思わず「ありがとう」とぎこちなく声をかけているのが見えた。

きれいな瞳を持った、可愛らしい彼女だ。

髪の色は流行りなのか、ほんの少しブラウンで、でも、それがとても自然で強調もせず、彼女の明るさをフォローしてる装飾品のひとつに見えた。

でも、彼女の可愛らしさだけが、喜ばれる理由でもないだろう。まるで教会に描かれた絵画のような清らかな心が、そのまま表面に浮き出たかのようなそんな彼女なのだから。

レジでちょっとしたトラブルがあった。どうやら彼女がお釣りを間違えてしまったようだ。そのときばかりは、彼女はとても丁重にお詫びをしていた。不思議なことにお客さんは、簡単に彼女を許してくれていた。まるで、マジックでも見ているかのようだった。

それからも、彼女は明るくレジをしていたから私は気にもとめていなかったのだけど、あとで彼女は申し訳なさそうに、私にこう言ってきた。

「先ほどはすみませんでした。もう少しでお客さんを怒らせてしまうところでした」

その言葉に、私は新鮮な驚きを感じた。

私は今まで何度となく、レジの人から「お客さんが、あんなにせかすから」とか、「お客さんが、レジの途中で話し掛けるから」とか、自分の間違いのほとんどが、お客のせいになっていたけれど、でも、彼女は違っていた。

彼女の言葉は、いつも”お客さん”が中心になっている。自分のことなど忘れたかのように。

”お客さんを怒らせるところでした”

何でもないようでいて、こんなにも深い言葉があるなんて。「ううん、あのお客さんはきっと、君の対応に、とても喜んでいたと思うよ」

私がそんなふうに言うと、その意味がわからなかったのか、とても不思議そうな顔をしていた。それでも元気そうに「はい」と答える彼女に、私は大切な何かを教えられていた。

私は、接客というものは、どこか心を偽った”義務”のように感じていた。でも、やはりそれは間違っていた。彼女の笑顔は言葉なく、私にこう教えてくれる。

”接客”(仕事)と言うものは本来、互いに喜び合うための、価値ある人の心なのだと。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一