過去のツケが残すもの。

この頃、昔のことを思い出しては、後悔している私がいる。今更どうすることも出来ないと、心では、わかっていても、それだからこそ虚しさは、私の胸を押しつぶそうとする。

昔、電器店で勤めていた頃、若いアルバイトがいて、彼はパソコン売場の担当をしていた。彼のパソコンの知識はすぐれたもので、いつもパソコンの接客は彼に任せていたほどだった。でも、いつもといっていいほど彼は、何らかのクレームを作ってしまい、私の頭を悩ませたのだった。(彼はいつも自分の主張を押し付けようとするのだった)

あの時も、お客様は彼の接客態度について激しく怒っておられて、それなのに彼は頭を下げるどころか、自分は決して間違っていないと逆にお客様に怒鳴るように言うのだった。

それまで何度もそんなことが続いていてそのときばかりは私は我慢できず、そのクレームを何とか処理すると彼を面談室に呼んで、大声で彼を叱ったのだった。

「どうしていつもいつも、そんな態度を取るんだ!何度言ったらお前はわかるんだ!」

そんなことを一方的に彼に憎しみさえ込めて私は言った。それまで何度も同じことを言い続けて裏切られた想いが私をそうさせていたのだった。彼はただ、何も言わず、私のことをじっと見ていた。あの目つきは、今も私は忘れられない。

そのときのクレームは、お客さんが何度も値引きを要求したといういきさつだった。彼としては、もうすでに十分すぎるほど安くしておりこれ以上の値引きは意味がなく、それを断り続けた結果、お客さんが怒鳴り始めたということだった。

私の間違いは、どうせ彼はまた横柄な態度でクレームにしてしまったんだろうという安易な考えが頭にあったことだった。彼にその理由を言わせることなく、私はいきなり、あのお客さんと同じように、激しく怒鳴っただけだったのだ。

それは彼の接客態度が決して悪かったわけではなく、どちらかといえば、そのお客さんのわがままによるものが大きかった。それを後になって知った私は、今更彼に謝るような勇気も広い心もなかった。もちろん、お客様を怒らせた事実はどうあがいても店の責任。しかし、その理由はまず先に、彼の口から私は聞くべきだった。

結局、彼とは、それきり溝は埋まることなく、彼の接客態度がよくなるわけでもなく、そんな彼に私はただ、無視するような態度でいただけだった。

しばらくして、彼はバイトを辞めていった。半分は、私が原因だったかもしれない。でも、アルバイトではなく新しい就職先を彼が見つけたということを誰からとなく聞いて、私は少しほっとしたのだった。

辞めるときでさえ、私はほとんど口をきかなかった。そのときの私は、”もう会うこともないだろうから”という思いが心にあったからだった。今から考えると、そんな自分が恐ろしい。

人を許せない気持ちは、どうしてこんなに醜い心を、いつまでも引きずってしまうのだろう。どうあがいてもこの心を、コントロールできなくなる。そのツケが、今こうして、私の気持ちを苦しめてる。それはそれで仕方のないことだというのに。

あれ以来、彼とは一度も会っていない。あのときの溝を広げたまま、こうしてそれぞれに生きている。もう、修復することは出来ない。ただ、いつか忘れるだけだ。

今の私ならわかる。”もう、会うこともないだろうから”だからこそ、最後にちゃんと素直な言葉を、彼にかけるべきだったのだと。そのツケが、ずっとその後の人生に、後悔として残らないように。そして何より、彼のために、私自身のために。

それにしても、なぜ、こんな些細なことで思い悩んでしまうんだろう。この頃、やたらと過去の出来事が私の心をどうしようもなくさせる。

もう、二度とそこには戻れないというのに
もう、二度と戻せないというのに。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一