高倉健さんに似た人。

お客さんが「この商品は品切れなのですか?」と尋ねてきた。50代後半くらいの高倉健さんに似た方だった。つい、私はあせってしまった。

「え?す、すみません、よく聞こえなかったのですが・・・」

「この商品は、今、ないのですか?」

確かにその商品(ある健康食品)は、品切れで売場になかった。「申し訳ございませんが品切れです」と私は頭を下げた。すると、そのお客様は本当に残念そうに私にこう言った。

「そうなんですか・・・記念に買って帰ろうかと思ったのですが」

”記念に”という言葉に、私はとても不思議に感じた。観光地じゃあるまいし、そんな言い方は普通しないものだ。すると、高倉健さん(に似た人)も気がついたのか、その言葉のわけを話した。

「あぁ、実は、その商品のパッケージに写真が載ってるんですよ」
「そうですね、確か生産者の方の写真が掲載されてましたね」
と私は答えた。よく「私達が作りました!」って載ってるあれだ。

「私の家族の写真が載ってるんですよ」と健さん(に似た人)は、照れくさそうに私に言った。「えー」だった。「そ、そうなんですかぁーあなたが生産者の方で!」と思わず興奮してしまった。有名人に、いきなり道端で会ったような気分だ。

「買ってみたかったのだけど、残念だねぇ」と肩を落とす健さん(に似た人)。「本当にすみません」と私もがっくりと肩を落とした。わざわざ機会があって買いに来られたのに品切れなんて。本当はもっともっと、残念に思っていらしゃるんだろうなぁと思った。

「本当にないんですよね」とまた聞いてくる健さん。「えぇ、倉庫にはもう、残っていませんので・・」と少し苦しそうに話す私。「ま、いいんです。あればいいなと思っただけですから」とどこまでもやさしい健さん。(もう、似た人なんて書かない!このやさしさは健さんに匹敵する!)なんていいながらも、その姿はどこか寂しげだった。

「あぁ、本当に申し訳ございません、とても心苦しいです」なんて思わず私は言ってしまった。本当に心苦しかったから。「いえいえ、いいんですよ」と微笑みながら去ってゆく健さん。そのやさしさが、本当に辛い。

その数時間後の夜間に、大型トラックが倉庫に入ってきた。追加発注分の商品が入荷したのだ。私はいつものように、商品補充をバイトに指示しながらも作業を始めた。

その箱を開けると、例の商品が入荷していた。パッケージの真ん中に、あの健さんの笑顔があった。その両端には、奥さんと息子さんのよく似た笑顔もあった。

いつもはただ、あきらめてしまうくせに、品切れしていたその事実が、こんなにも悔しいなんて。それでも、あの人が幸せなことには間違いはないのだろう。

この笑顔を見るたびに、私はきっとこの日を思い出す。

簡単にあきらめちゃだめだ。こんな人たちのために、今度はちゃんとしなきゃと、いろんな意味で胸に刻みながら。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一