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おまけのココロ。

少し前に書いた日記より。

家電ショップから、食品スーパーに勤めるようになって、さすがに電話によるお客様からの問い合わせやなんちゃらが少なくはなったけど、それでも食品スーパーに問い合わせの電話は鳴る。

今日は特にすごかった。
いや、問い合わせの数じゃなく、その内容が。

よく飲料のペットボトルに、おまけが付いているのだけど、最近、そのおまけが、どんどんよくなってきつつあって、時々、どっちが商品なんだかおまけなんだかがわからなくなる時がある。

高価そうなペンダントだったり、携帯ストラップだったり、人気キャラクターの人形だったり。ぺたっとペットボトルにくっついているそれは、まぎれもなく、おまけなんだけど、それを目当てに買うお客様がいらっしゃる。もはやペットボトルのほうがおまけなのだ。

今日のお客様からの電話は、商品のことではなく、そのおまけのことだった。

「はい、お電話ありがとうございます。○○店です」「あのぅ、ちょっと探して欲しいものがあるんですけど・・・」「あ、はい。どのような商品でしょうか?」「えーとですね、商品じゃなくて・・・」とそれからの長い話は割愛。

つまりは、私はそのおまけを探すことになったのだった。そのおまけは、かわいいキャラクターの人形で、それが8種類ほどあって、そのうちのひとつは謎のキャラクターというよくわからないことになっているんだけど、そのお客様がおっしゃるには、あとひとつで、全部揃うのだと言う。でも、もうどの店を探しても、見つからないのだと言う。

ちょっと遠いけど、うちの店だったらあるんじゃないか?ということで電話をされたらしい。

「中身は見えないけど、手で探れば形はわかるから!」

と言われたのがお客様で、さすがに7種類集めただけのことはあるなぁと思わず感心してしまったが、今は感心している場合じゃなかった。お目当てのあと1種類を、どうしても探して欲しいと遠まわしに私に言ってる。あったら絶対に買いに行くから探してと。

すごい執念に圧倒されてしまった私は、気付けば「はい」と答えていた。「それはちょっと・・・」と断っても全然構わないのに、なんというか、この流されやすい性格は、もはやどうにもならない。いつも後悔してしまうけど、でも、まぁいいやと思う。

売場で一人、黙々と、ペットボトルのかわいいおまけを、手でごそごそと触っている姿は、さすがに異様に見えたのだろう。途中で小さな女の子が「おじちゃん、なにしてるん?」と聞かれたけど答えようがなかった。というか虚しかった。やっと”ニコ”っと私は笑ったのに、女の子はじっと私のことを見てる。しばらくして飽きたのか、やがて、どこかへ行ってしまった。

そんなこんなで、売場にあった30個のおまけ、全部調べてその一個をやっと見つけたのだった。お客様の言ってた特長とぴったり同じ。うん、間違いない。これがそうだ。

見つけたときは、思わず近くにいるお客さんに「これ、僕が見つけたんですよ!」と喜びを分かち合いたいほどうれしくなったけど、コツをつかめた頃だったので、「もう見つけてしまったか」と逆に残念に思うほどだった。

見つけたことを電話で知らせると、お客様はとても喜んでくださった。「こんなわがままに、付き合ってもらってすみません」ととても恐縮されていた。お客さんにしても、かなりの勇気を必要としたお願い事だったんだろう。無理だとあきらめていたんだろう。そう思うと、やはり、こんな無理なお願いに付き合ってよかったと心から思った。

明日、お客様は、そのおまけを買いに来る。
いや、おまけが付いたペットボトル飲料を
買いにいらっしゃるのだ。

どんな笑顔か、今から楽しみだ。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一