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小さな青春と別れ道。

むかーし、むかーしのこと。そうだなぁ。確かあれは中学生の頃、近所に(あぁ、名前が思い出せない)A君っていう仲良しの友達がいて、僕らはいつも学校から一緒に帰っていた。その帰り道、二つに分かれた道で立ち止まって、ココでお別れっていうときに、二人はこんなことを言い合った。

まず、私が「さ」と言う。
そして次にA君が「ら」と言う。
そして最後に二人で「ば」と大きな声で明るく言う。

続けると「さ・ら・ば」

どちらが決めたと言うわけじゃないのだけど、僕らはいつも別れる時に、いつしか必ずそう言っていた。なぜ「さらば」なのか、今、考えてみてもよくわからない。でも「さよなら」じゃちょっと悲しい。でも「バイバイ」じゃ、ちょっと軽くてありきたり。

あの頃のなーんにも考えていない僕たちにとっては「さらば」はちょっと呪文みたいで、かっこよくて一番イケてる言葉だったのだ。

それから私は、部活で忙しくなってしまって、A君とは一緒に帰れなくなってしまった。それとともに、あまり二人で遊ぶことも、話すこともしなくなっていた。

そして、高校生になる少し前だったか、偶然、A君と帰り道に出会った。友達のはずなのに、いつしか知らないうちに、とても他人行儀になっていて、お互いになぜか気まずいんだけど、でも、”友達なんだよな”と言い聞かせるような想いがあって、随分と複雑な心境だった。

いや、たぶん二人とも、あのとき、悲しい想いだったんだと思う。僕達はこれからお互いに、別々の高校へ行く。歩きながら、たぶん友達でいられるのは、これが最後なんだろうな、と思った。

私は右に、A君は左に、最後のあの分かれ道。”じゃ”と言ってA君は、左に歩き始めた。私も”じゃ”と言って、右にゆっくり歩き始める。

「さ」とちょっと言ってみた。

すると壁の向こうから「ら」という言葉が返ってきた。

「ば!」
「ば!」

気付けば二人とも、あの頃に一瞬戻っていた。

あの時、最後に二人で言えて、よかったなぁと今でも思う。意味のないふざけた行為ではあるけれど、それが逆にとても大切なものだったりする。

あの頃も、春近いこの季節。時折、イタズラのように、私に思い出させてくれる。あれが私にとっての、ひとつの小さな”青春”だった。でも、それはきっと「さよなら」でもなく「バイバイ」でもなく、こんな小さな想い出として、今も私の近くにいる。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一