彼女の笑顔とおすすめ品。

なんとなく気持ちがずっと晴れない。仕事での誰かのたった一言が、まだ、頭上を覆ってる。影になってしょうがないや。やだねぇ。帽子を脱ぐように、ぱっと明るくなれたらいいのに。

ある場所で会議のようなものがあった。内容は、とりたててどうってこともなく、ただ、そうなのかと思うだけのものだった。昼休憩になって、みんながまとまって近くのファミレスに向う。私は団体行動が嫌いなので、ひとりで違う店に向う。昼飯くらいひとりでのんびりと食事をしたいと思う。

夕方、その会議が終わって解散になった。でも、みんな、まだ、だらだらとして一向に帰ろうとしない。

私はなぜか、そういうのが嫌いだ。終わったらスパッと帰りたい。なんとなく時間がもったいなく思う。義理とか、そういう雰囲気とか、そういうものに流されるままに人に縛られたくはない。”だからお前は協調性がないんだ”と誰かが目で訴えてくるけど、そう言われればそれまでだし、イヤってほど自分ではわかってはいるけど、そうしたいんだからしょうがない。

そういえば、高校の最後の卒業式の日さえ私はそうだった。式が終わって、みんながまだ、名残惜しく、教室にうだうだしているときでさえ、私はひとり、さっさと帰っていた。(困ったヤツだ)自転車で帰りながら「私、ひとり、いなくなったことは、誰も気付きはしないんだろうな」と心のどこかで思いながら、ただペダルを漕いでいた。

なんなんだろう?こんな私は。この投げやりな性格ではダメとわかっていても、この社会じゃ生きにくいと、十分すぎるほど知り尽くしていても、なぜか一匹狼を演じている。本当は人一倍、寂しがる性格だというのに。

心閉ざしてるわけじゃないけど、いや、どこか閉ざしているのは認めるけれど、誰かといて、ただ、疲れてゆくときの、あの感じがとてもイヤだ。こんな私は単純に人間失格なんだろうなと思う。同情してもらいたいわけじゃなく、客観的に見てこの私は。

どうも心が落ちてゆく。心が私を否定して、そばにいたくないんだろう。仕方ないかなぁ。誰もかも離れてゆくのは。

そうだ、ひとつだけ、いいことがあったんだ。

昼飯に立ち寄った小さなレストランでカランカランと私がひとり、ドアをあけるとそこに店員は誰もいなかった。お腹も空いてて、なんとなく不機嫌だった私は「あのう」と少し語尾を強める。

すると、厨房の奥から忙しそうにしていた店員がひょこっと現れる。そして、私を見つけると”にこっ”と自然な笑顔になって私を迎えてくれた。その若い女性店員の笑顔がとても自然体でこんなひとりの私をそれでも、許してくれているみたいで、とてもうれしかった。思えばそれは、私の勝手な解釈でしかないけど、それでもそのときの私はその笑顔で、何かと一緒に救われたんだ。

「いらしゃいませ。メニューはお決まりですか?」飴玉のようにかわいい声。「何がおすすめなの?」と聞いて私は自分に驚く。いつもは適当に決めるくせに、なるべく最小限のセリフで私はオーダーするのに、たぶん生まれて初めて店員に、そんなふうに聞いたように思う。

すると、彼女はまた、あの笑顔で私に今日のおすすめを教えてくれる。ははーん、私はこの笑顔が欲しかったのか?と自分の魂胆にはっと気がつく。(やれやれ。)

「それじゃ、それにするよ」と私は答える。三度目の笑顔が私を迎えてくれる。彼女はきっと、気付いてないんだろうな。そのたったひとつの笑顔で、曇った私を照らしてくれたこと。

誰かの笑顔をこんなふうに、もっと私は信じられたらいいのに。もっと、誰かに心開けたらいいのに。わかってるけど私の心は、結構頑丈で重いんだ。ひとりじゃ無理。たぶん、誰かの力が要るんだろうなぁ・・・。

こんなふうに生きてきたから、いきなり変えるなんてできやしない。

ゆっくりと、ただ、ひたすらゆっくりと
今はただ、それなりに。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一