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トーハクとネズ Vol. 2

2023 も年末です。今年は勉強に追われて心に余裕がなかったなあ、と反省しながら暮を迎えます。季節はすっかり冬ですが、初夏の東京、大学の用事の合間に少しだけ博物館と美術館めぐりをしました。ちょっと楽しい履修科目、日本美術史入門、最終課題「展覧会レポート」のために今まで訪れたことのない東京国立博物館と根津美術館を訪れました。東京国立博物館体験、トーハク記事「トーハクとネズ Vol.1」はこちらから。

表参道の突き当り、ハイファッションロードのゴール

根津美術館は、実業家である初代根津嘉一郎が蒐集した日本、東洋の美術品コレクションを保存し、展示するために作られた美術館。表参道突き当り、ハイファッションロードのゴール地点のような場所にあります。どこが入り口なのか、ちょっと分かりづらい青竹と石畳のアプローチを過ぎると、駐車場脇にあるガラス張りのエントランスが見えます。

せっかくのなので学生証をだして、入場料を少しだけ割り引いてもらい、広い吹き抜けのセンターホールへ。ここもまたガラス張りのセンターホールの向こうには根津美術館の誇る日本庭園が6月の新緑をたたえ、一枚の絵を切り取ったような素晴らしい眺めです。ぼーっと見ていたい気持ちを抑えて、今回の目的である『救いのみほとけーお地蔵さまの美術ー』の展示へと進みます。

青竹、石畳、砂利、照明、庇、と全てが計算しつくされたようなアプローチ
初夏の緑も美しい

『救いのみほとけーお地蔵さまの美術―』

日本人なら誰もが親しみのあるお地蔵さま。道端で見かけたり、お寺で見かけたり、と私たちには身近なお地蔵さまですが、一体お地蔵さまってなに?と今まであまり考えたことがありませんでした。

お地蔵さまと聞いて、ぱっと頭に浮かぶのは『かさ地蔵』の昔ばなし。小学校の教科書にもあるくらいの有名なお話ですが、実は地方によって色々なバージョンがあるそうです。昭和生まれの私が思いつく『かさ地蔵』は、市原悦子さんと常田富士男さんのナレーションが懐かしい「まんが日本昔ばなし」のアニメーションバージョンです。

さて、根津美術館の『救いのみほとけーお地蔵さまの美術―』は、そんな知っているけどよく知らないお地蔵さまに関する美術品の数々を集めた珍しい企画展でした。「お地蔵さま」地蔵菩薩は、平安時代に入ってから本格的に信仰されるようになり、平安時代後期に衆生を救済するほとけとしての信仰が確立されるようになりました。以降、地域や時代を超えて崇められ、仏画や仏像が作られたそうです(根津美術館 企画展パンフレット 2023年)。

『救いのみほとけーお地蔵さまの美術ー』企画展パンフレット

鎌倉時代の地蔵来迎図

全30点の仏画や仏像作品の中で、印象に残った作品が2点ありました。ひとつめは、上記パンフレットにも登場する地蔵来迎図(出品目録では「地蔵菩薩像」絹本着色 日本・鎌倉時代 14世紀)です。左手に宝珠、右手に錫杖を執り、衆生を浄土へと導くために白雲に乗って外界へと向かっています。光背を背後に、その凛とした柔らかな表情は見つめるだけで、すっと爽やかな風にふかれたような気持ちになる地蔵来迎図は、企画展を担当された、学芸員本田さんによる興味深い解説で鑑賞できます。

なんとなく、バチカン美術館でみたラファエロの天使を思い起こさせる地蔵来迎図、地蔵と天使に共通点を感じたのは、私ひとりではなかったようです。『地蔵が見た夢』の写真家、野口さとこさんのサライ記事には、京都でみかけたエンジェルお地蔵さんのお話が掲載されています。

室町時代の矢田地蔵縁起絵巻

ふたつめの矢田地蔵縁起絵巻(紙本着色 日本・室町時代 16世紀)は絵巻物。大和郡市にある金剛山寺(通称、矢田寺)本堂に祀られる地蔵尊縁起は
掛幅装、巻子装の形で伝わり、根津美術館蔵本は別本で十二ヶ月に配した詞書があります。八月以前を欠失した残欠本ですが、鮮やかな色彩とそれぞれの月に配した詞書がみられます。こちらもYoutube、本田学芸員さんの楽しい解説(矢田寺のありがたいおすすめデートコース)が参考になります(根津美術館蔵品選 仏教美術編  2001年)。

矢田地蔵縁起絵巻 紙本着色 日本・室町時代 16世紀
(出典:『根津美術館所蔵選 仏教美術編』2001年)

絵巻物は、くるくると巻き物を開いていくと同時にお話も展開される、現在のアニメーション風な巻物です。絵自体はもちろん動きませんが、左側から展開されるお話を右側で巻いていくと、あたかも絵に動きがあるような感覚を味わえるはず(重要美術品では試されないけれど)。元祖アニメーションなのかもという日本美術史入門の講義を、矢田地蔵縁起絵巻を鑑賞して思い出しました。

奈良時代から江戸時代まで、時代によって、そして地方によって地蔵信仰は違っただろうけれど、様々なお地蔵さまを鑑賞して、田舎の道端のお地蔵さまや、お墓参りの際に見かけるお寺のお地蔵さまにも今一度注意をはらわなければと思いました。

2023年、私とは違った時期に根津美術館を訪れた息子たち。展示されていた双羊尊をみてひらめいた長男が作った銀の指環は、ネズから得たインスピレーションが活きています。

専攻はインダストリアル・デザインだけど、なぜか銀細工にハマってる長男作「双羊尊」リング

2024年は、もう少し書きものをする時間があれば良いなあ、と思いながらトロントの大晦日をむかえます。

Photograph on this article by Eiko Kawabe Brown & Taila J. Brown
バナー:根津美術館 施設案内
Youtube : Lovely Yuzu.Koyuki & 美術展ナビ


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