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光属性でいたいから、今日も私は白を着る。

善い人でいたいけれど、自信はない。 





大学でゼミに入ったばかりの春のこと。

ゼミの初回授業では、当然のように自己紹介をした。
名前、出身地、研究したいテーマと話して、そこからプラスα。
何か好きなもの言わなきゃ、って思った私は「白が好き」って言った。

白と黒の2択があれば、大抵の場合は白を好む。
白い服はいっぱい持っているけれど、黒い服の持ち合わせはとても少ない。
服以外だっていろいろと白や明るい色でコーディネートする傾向はあるし、スマホのディスプレイすらダークモードは使わずいつもライトモード。

何はともあれ、全体的に白が好き。
白でなくとも、ざっくり言って明度の高い色の方が好き。

極めて謎のこだわりなんだけど、「白が好き」は私らしいエピソードとして自己紹介で話すにはかなり優秀だった。
「しろがすき」の5文字だけで言えて簡潔だし、詳しい話は必要ならばツッコミ待ちをしてそこから話せばいい。


そうして無事に自己紹介を終えた後のこと。
周囲が話している中、先生が近づいてきた。
そして「白が好きなのは、正義と悪の正義みたいなイメージですか?」と、皆に聞こえるようにでもなく、こっそり訊かれた。

私は咄嗟に「そういうわけじゃないですよ」って答えたけれど、たぶん半分図星だった。
「白の方が正義っぽいから好き」なんて、我ながらあまりにくだらなくて、とても頷けなかったけれど。



どうして私が白を好むようになったのかは覚えていないし、その理由も正直なところはわからない。
ただ、「できる限り優しく善い人でいたい」という気持ちが今あるのは事実だし、そう思うようになったのと白が好きになった時期があまり遠くないような気もしている。

ひょっとしたら、私は白を身に纏うことで、悪ではない正義の中にいるつもりになりたいのかもしれない。
そんなの何の意味もないのに。

白と黒。
悪を黒と呼んだり、「潔白」という言葉があったりもする。
でもそれは善悪という概念があって、それを言葉で表現するときに白や黒という色を使っているだけ。
その文脈と関係ないところで白や黒があったとして、別に善悪を映すものではない。
それぐらいわかっている。

だけど、無意味さを分かった上でもなお、黒いものに身を包むのはやっぱりちょっとだけ抵抗があるし、白の方が安心する。
少なくとも、何も意識しなければ私は勝手に白い方を手に取る。


白い服を着るなんてことをしないと善の中にいられない私。

それくらい、自分の「正義」に自信がないんだきっと。

それどころか、人間みんなの理性を信じてないんだと思う。


どんな人でも、それこそどんなに善い人であっても、環境や感情を掛け違えてしまえば簡単に悪の存在になってしまうと考えている。
「善さ」を失わないままでも。

自分だって同じ。
だけど善い人でいたいと願っている。


善悪は揺れるものだし、見た目では分かり切れない。
だけど、白とか黒とかは一目瞭然。
自分の善を固定したり示したりはできないけれど、紛れもない白に身を包むことだけなら簡単にできる。

鏡に映った自分が白くあるよう。
半分くらいはそんな魂胆で白い服を着ている、のかなあ。

可笑しいな。


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