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番地のラビリンス「英語のそこのところ」第133回


【前書き】

 今回、投稿するエッセイは7年前の2017年4月27日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
 欧米と日本では住所の表記が反対になっていることは有名ですね。東京都新宿区四谷なら、Yotsuya, Shinjuku ward, Tokyoって、欧米では表記します。でも、それ以上に違っていることがありまして。今回はそんなことについてのお噺です。(著者)

拙著「英語の国の兵衛門」のkindle版を出版しました。

 2008年に株式会社メディア・ポートより上梓され、その後同社の解散により入手不可能になり、みなさんにはご迷惑をおかけしておりましたが(一時は、古本が2万3万ぐらいで取引されていたようで。いやはや、私には一銭も入りませんが_| ̄|○)、kindle という形で復活させることが出来ました。
これを機にぜひお手に取ってみてください。

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映画や小説の台詞を英語にして英語力を鍛える「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル16」発売中!

 English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト(全10巻)で、英文法を網羅しましたので、「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル7」以降では、様々なコンテンツの名言、名台詞を英語するより実践的なトレーニングをやっています。
 この「ドリル16」ではレイ・ブラッドベリの「華氏451度」 を題材に英文を作っていきます。

古典ものは切り詰めて、十五分のラジオ番組に当てはめる、それをさらにカットして、二分もあれば目が通せる分量に縮め、最後はぎりぎりに短縮して、十行か十二行の辞書用梗概となる。
おれたちの人生は、今や大きなサーカス、軽業の演技場だよ。
わかりません。僕たちが幸福でいられるために必要なものは、一つとして欠けていません。それでいて、ちっとも幸福になれずにいます。
それには何かが欠けているに違いありません。。
考えてみますに、僕たちの手からなくなったものと言えば、この十年か十二年の間、僕たちの手で焼き続けてきた書物だけです(華氏451度)。

英語でどう言うのでしょうか? 
このテキストを使えば、きっちり身に付きます。お試しください。

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大好評! Kindle で一日500ページビュー 「English Sentence Maker」シリーズ

 English Sentence Maker は、あなたの感情や意見、思っていることを伝えるためにはどの時制や助動詞、文法事項を選ぶべきかがわかる実践英語・英会話力養成テキストです。

 著者の主宰する英会話スクール「英語・直観力」の企業向けテキストから、契約企業様向けの問題文などを差し替え、一般向けに手直ししました。

 7年間で100名以上のビジネスピープルを単独での海外出張や海外赴任ができるスキルを持った国際ビジネスピープルにした実績があります。

 ぜひ、この実績あるテキストを完全マスターしていただき、世界を相手にビックディールを成し遂げ、人生を愉しんでください。このテキストはその扉を開くカギになります。

 実践英語・英会話力養成テキストEnglish Sentence Maker は、3つの特色を持っています。

 ひとつ目は、能動的な学習だということ。
 English Sentence Maker は書き込み式のテキストです。各Lesson ごとの解説を読み、そのあとに掲載されている日本文をご自身のノートもしくはkindle のノートブックなどに英語にして書き入れてください。その際に、知らない単語は調べたりせずに、日本語のまま英語の文の位置においてください。そうすることで、知っている単語、知らない単語を区別し、身に着けるべき単語を浮かび上がらせることが出来ます。

 ふたつ目は、どの文法事項を使うかの判断基準を身に着けられるということ。
 小・中・高校と長い間英語を学ぶために、多くに人々は英語の現在形、過去形などの文法事項を知っています。しかし、残念ながら、その文法事項をどういう場合に使えばよいかという判断基準を身に着けていません。

 たとえば、ここ何ヶ月かフットボールに夢中になっているということを伝えたい場合に使うべき時制は、現在形でしょうか? それとも現在進行形でしょうか? 迷われると思います。
 この知ってはいるけれども使い方に迷ってしまう文法事項を使う判断基準を各Lesson ごとの解説でくわしく説明しています。それを理解することで、英語を使う際に十全にあなたの感情や意見、思っていることを伝えることが出来るようになります。

 みっつ目は、英語を英語で考えることが出来るようになるということ。
 English Sentence Maker は日本語を英語にしていくことで、英語を習得していくテキストです。しかも、どういうときに、どういうことを言いたいときに、どの文法事項を使えばよいかという判断基準が出来ていくために、日本語の文字面を英語に移していくのではなく、日本語を読んでその内容をイメージして、そのイメージを英語にするというスキルを身に着けることが出来ます。頭の中のイメージから英語を作ることが出来るということは、そこに日本語は介在しません。つまり、英語を英語で考えることが出来るようになるのです。

具体的には、

私は彼が来るだろうことを知っていた。

という日本語を英語にする際には、日本語の文字面を英語に移していくと、

I knew that he will come.

と、しがちです。「知っていた」なのでknew、「来るだろう」なのでwill comeというわけです。
 しかし、よく考えてください。「彼が来るだろう」というのは、「私が知っていた」過去の時点のことです。であれば、「彼が来るだろう」と書いてあっても、過去から見た未来のwould を使って、would come としなければなりません。日本語をその字面のまま英語にしてはいけないのです。しかし、日本語を読んでその内容をイメージして、そのイメージを、判断基準をもって英語にすることが出来れば、問題はなくなります。頭の中に時の流れのイメージがあるために、

I knew that he would come.

という英文が難なく作れるようになります。 英文作成力や速読力を付けたいと思っておられる方ぜひ、手に取ってみてください。必ず、英語・英会話が出来るようになります。

☆「English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト」および「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル」で使っている英文はすべて、Native English Speakerと協同で製作したものです。安心して、Native English Speakerの自然な英語を知り、習得してください。

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【本文】

 年末あたりからこのエッセイでも触れているのでご存知の方もおられると思いますが、実は今年の初め1月から月に一回Native English speaker を講師にして英会話のセッションを行っています。いままで英文法をお伝えして、受験英語やTOEICの指導をさせていただき、また、英会話のカウンセラーや講師をさせてもらいと、私の経歴としては見事に基本から応用へと順を追っているんですが、最後の最後のNative English speaker との実戦は、私がカラコン入れて金髪のズラをかぶってお伝えしても、実感していただけませんし、実は角が立つんです(そんな巫山戯た格好をしているからというわけではなく)。だって、Native English speaker 独特の会話のやり取りって、Native Japanese speakerにとっては「責められている」気がするものなんですから。

 たとえば、
「おれ、バルセロナのサッカーが好きなんだ」
 と居酒屋なんかで初対面の人に自己紹介がてら言ったとする。
 相手がNative Japanese speakerなら、ここで言ってくるのは、たぶん、
「へぇ、そう。バルサのサッカーが好きなんだ。そういえば、この前テレビでやってたよ。メッシってすごい選手なんだね」
「そうそう。メッシすごいでしょ。この前ドリヴルで3人を躱してゴールしたんだ! ぞくぞくしたよ」
 なんて会話がなされる。

 でも、これがEnglish Pub で相手がNative English speaker だと、「バルセロナのサッカーが好き」というと、
「なんで?」
 って訊かれてしまう、しかもちょっと食い気味に(笑)
 で、訊かれた方は「うっ」と詰まって、
「えっとぉ~、そうだなぁ」
 と考え始める。
『あれ? おれなんでバルサ好きなんだろう。おかしいな。
 好きなはずなのに、理由がはっきりしないぞ。う~ん、どうしてなんだ?
 理由をはっきり言えないなんて、もしかして、おれはバルサのサッカーが好きじゃないんじゃないのか?
 本当に好きなのか?
 ああ、なんていい加減なおれ。
 好きなものすらわからないなんて』
 という、メビウスの輪にはいって自己嫌悪に陥ったりして、ゲシュタルト崩壊しちゃう。
 まぁ、それは冗談としても、われわれNative Japanese speakerにとっての「なんで?」というのはけっこう攻撃的な言葉で、相手に緊張を強いたり、酷いときには怒らせたりする角が立つ言葉なんです。

 そういうわけで、どこをどう見ても疑いようのないNative Japanese speakerの私が”Why?” を連発するのは、あまり効果的でない。というかギスギスしてちゃうので「Native English speaker 独特の会話のやり取り」を習得してもらうセッションは綿密な打ち合わせをしたうえで、友人のRichにやってもらってます。
 昨年10月のプレセッションから数えるともう5回ほど開催しておりまして、参加したみなさん、難しい難しいといいながらも満足していただけているようでほっとしております。

 でも、実は初回の時はドキドキしましてね。内容には自負があるし、Richにやってもらっているので心配はしていなかったんですが、問題はほかのところにありまして。当日のセッション開始2時間前にRichから電話がかかってきたときは、ひやひやしました。

「ハーイ、徳さん」
「おー、Rich、どうした?」
「あのさ、今日は時間通りに新宿を出られると思うんだけど、住所もう一回教えてもらえる?」
「いいよ~ん」
 徳田はセッション会場の大森のオフィスの住所をRichに伝えた。
「ファンタスティック! これで大丈夫だよ。時間前にはつけると思う」
「なるほど」
 なるほどといいつつも、徳田の脳裏に不安がよぎった。徳田の大森のオフィスは駅から10分ほど離れていて、ややわかりにくいところにある。道に迷うんじゃないか? という不安だ。
「あ~、良ければ、迎えに行こうか? ちょっとわかりにくいところだし」
 徳田がやんわりとRichのプライドを傷つけないように提案した。Richも東京は長い。子ども扱いされるのは好まないのだ。
「大丈夫。昔のDiceと一緒にするなよ」
「懐かしい。よく憶えてんな」
「日本の住所が、UKと違ってるのはもうよく知ってるよ」
「なら、大丈夫か」
「じゃ、あとで」
「ああ」
 徳田はスマートフォンを切った。

『あんときはやられたよなぁ』
 とスマートフォンを切った徳田はまえ勤めていた英会話スクールでの出来事を思い出す。
 10年ほど前のことだ。当時、英会話スクールで法人営業をしていた徳田は、アメリカ人講師のDiceとの待ち合わせを営業先の会社が入っているビルのロビーですることにした。いつもなら、最寄りの駅で落ち合って、訪問先にいくのだが、今回は訪問先がDiceの自宅の近くなので、そこで待ち合わせということになった。
「遅いな」
 待ち合わせの時間を5分ほど過ぎている。訪問先を訪ねる時間前だが、不安は募る。仕方なく徳田はケータイをとりだすとDiceに電話した。
「Dice、遅刻だよ。今どこにいるの?」
「ああ、失礼。充分間に合うように家を出たんだよ。でも、ちょっと迷ってしまって」
 徳田の顔に汗が噴き出す。つーと胸から腹に汗が落ちるのを感じた。
「Dice、今、どこにいるかわかる?」
「えっと、千代田区六番町7って書いてある電信柱があるから、この通りの向かいが訪問先のある六番町8か六番町6のはずでしょ? でも、いきなり六番町3になるんだよ! おかしいよ! 番地の振り方が間違ってる!」
「番地の振り方……」
 そう呟きながら、徳田はDiceのミスを理解していた。Diceはアメリカでの番地の振り方を日本でもしていると思っているのだ。
「ああ、判った。判ったからそこを動くなよ。今迎えに行くから」
「いや、大丈夫だよ。なんとか自分で」
 徳田は最後まで言わせない。もう、訪問先との時間の5分前だ。
「Diceの知ってる番地の振り方とは違うんだよ。このままじゃ絶対遅刻するから、とにかくそこにいてくれ」
「……、う、うん」
 比較的素直で話を聞いてくれるDiceだったので事なきを得ましたが(もちろん、迎えに走った私は冷汗にプラス走った汗で、汗だくだくです(笑))、これが子ども扱いするな! なんて言う強情なNative English speaker だったら最悪だった。遅刻したことは確実でしょうから。
 これ、どういうことかお解りになるでしょうか?

 欧米と日本の住所表記が、小さい場所から大きい場所に表記する(Great Russell St, London みたいに)のと、大きい場所から小さい場所に表記する(東京都新宿区みたいに)のとに異なっていることは有名な話ですが、実は番地の振り方にも大きな違いがあるんです。
 欧米では、番地を法則だててつける傾向があるんですね。
 一般に基点からの進行方向に対して、左に奇数、右に偶数の番地をつけます。なので、通りの向こうとこっちなら、必ず前後の数がある「はず」というのがNative English speaker の常識です。Diceはその常識が日本にも通用すると思って、訪問先の会社を探してたんで、見つからない。だって、日本の住所表記は通りのこっちと向こうで連番ではないですからね。それで、大混乱をきたしちゃった。見事にやられたわけです。

 でも、どうして私がそういうことをすぐに理解できたかというと、自慢じゃないですが、私も同じ目にあったことがあるからでして。
 へぇ、ロンドンでですか? といわれそうですが、違います。この東京、それも今は私にとってのふるさとみたいになっている我が愛しき『神保町』で。
 あの町、欧米式に靖国通りを挟んで、番地が交互に振ってあるんです。しかも、ご丁寧なことに、1丁目の端の白山通りの交差点まで行くと両側のひとつ奥の通りに番号を振りながら、戻っていく。なんで、神保町1丁目1のうらが、神保町1丁目19になっていて、もしお目当てのSF専門の古本屋が神保町1丁目20だったりすると大参事。神保町1丁目19の周辺を探しても探しても、神保町1丁目20には行き着かない。神保町ラビリンスに入り込むことになる。だって、神保町1丁目20は靖国通りの向こう、しかもさらに一本向こうの奥の通りになるんですから。もうラビリンスから出るには、カフェ『伯剌西爾』にでも入って珈琲とティラミスでも食べるしかありません(笑)
 学生時代、ちょっとこういう苦労をして、それが欧米式だって知っていたんで、Diceが迷ってたわけが咄嗟に判った。まぁ、苦労はするものだなと思います。

 え? それで、Richは無事に会場に来られたのかって? 
 ええ、もちろん、10分前には到着してくれました。
「アメージンググ―グル!」
 っていいながら来ました。便利な時代ですね。スマートフォンがあれば、ナビもしてくれるんですから。でも、ラビリンスに入り込む楽しみが減った気もしますが。

 ところで、前から不思議なんですが、欧米の住所ってどうして「△△番地○○通り」という風に通りが中心になってるんでしょうね? 日本で言う「街」の感覚が希薄なんでしょうか? Native English speaker の友人に訊いたことがあるんですが、どうもしっくりくる説明をしてもらえたことがない。何かご存知の方がおられたらご一報ください。

(初出 水戸みかど商会ファクシミリ配信誌 2017年4月27日)

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