短編小説『足の指は短い』

 目覚めると、白いカーテンが朝日で透けていた。今日は休みだからもうひと眠りしようと思うが、隣の彼女はすーすー寝ていて、起こさないようにしてトイレに立つ。

 トイレから戻ると、彼女は寝返りをうって私の方を向いている。見慣れた顔だが、今でも彼女は美しいと思う。

 白い肌に、閉じた目の曲線がこめかみに伸びている。長いまつ毛の一本一本は繊細で、丁寧に描かれているようだ。

 サマーケットがはだけて太腿から爪先まで露わになっている。ほくろも傷もなく、脂肪が少なくて締まった脚だ。膝から下が長いことがコンプレックスだと、多くの女性を敵に回しそうなことを言っていた。

 そんなところより私の目がいくのは足の指だ。別に何もおかしくない普通の指だが、だからこそ目がいく。

 男女問わず、足の指は短い。長めの人もいるが、美しくない。小指が足の内側を向いているとか真っ直ぐとかそういうことではない。

 足の指は、見ようによってはカナブンの幼虫にも見える。小指の爪の小さな面積に色をつけたところで、幼虫の頭に色を加えたところで、意味がない。

 私は衝動的に彼女の足の小指に口づけをする。硬質な爪と、厚い肌の感触。何も芽生えない。

 私は自分の足の指を見下げる。彼女と比べると、爪の形が歪で硬そうだ。爪の後ろから申しわけなさそうにちょろちょろと毛も生えている。

 しかしそこまで差はない。私と彼女は同じ人間なのだ。男と女から生まれた同じ人間だ。私はベッドに横になって彼女と対面する。

 私はすぐに眠りについた。


おわり


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