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短編小説『上に伸びるか、横に並ぶか』

 ファーストキスはゴムの味がした。

 これは僕がダッチワイフにキスをしたわけではなく、生身の人間とキスしたときの感想だ。大学2年生のときだった。若者のたくましい想像力はどこまでいっても想像の範囲を出ない。当たり前だ。でも、たまたま相手がそうだっただけのかもしれない。

 社会人3年目、2人目の恋人とキスをしたとき、僕は動物園を思った。幼いころ、一度だけ家族と行った隣県の大きな動物園。

 テレビや写真ではなく、生で見る動物を僕はすごく楽しみにしていた。でも、動物園は臭くて、動物は汚くて、躍動感がなく、早く帰りたくなった。

 それにキリンも、ゾウも、サイも、大きすぎた。大きすぎて怖かった。パンダは目の周りの黒い毛の中に眼があった。

 それから僕は映像と写真だけで満足した。

 なぜ気づかなかったんだろう。動物園に行ったとき、あれだけ失望したのに、人間も同じだとなぜ気づかなかったんだろう。

 ゴムだったよ。

 キスが甘いわけないし、女性にも鼻毛が生えているし、背中にもうっすら毛が生えている。顔にも産毛が生えている。うんこは臭い。

 僕は動物より人間を上にして、人間の中で男より女を上にしている。

 もともとは上に並んでいるのではなくて、横に並んでいる。みんな一列に並んでいる。人間だけを並べると、上に伸びるんだ。

 でも大丈夫。キスをすれば思い出せるから。


おわり


※投げ銭制です。おまけは天王寺動物園で見た人間。

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