短編小説『もし将来に不安を覚えたら』

 中学生の男子が2人、下校している。

「リアル(※あだ名です)さ、将来のこと考えたりする?」

「考えるよ」

「不安にならない?」

「まぁなるよ」

「俺だけじゃなくてよかったわ。
 昨日寝る前に将来のこと考えてたらすげぇ不安になっちゃってさ。

 勉強して、進学して、会社入って、結婚して――ってエスカレーターがあるみたいな感じで言われてるけど、そうならない可能性がざらにあるだろ? 会社に入れないし結婚できないしみたいなさ。

 そういうことできるかなって思ってたらちょっと寝にくかった。寝たけどね」

「なんか大人だな」

「そんなことねぇし! リアルはどんなこと考えて不安になったん?」

「うーん、お前とは種類ちがうかもな。

 一説によると生物の根源って、生物って呼ぶのもおこがましいくらいの微生物が長い年月をかけて進化したって言われてるんだけど――」

「あ、ごめん。過去って呼ぶのもおこがましいくらい巻き戻ってるけど将来につながる?」

「その話してんじゃん」

「……続けて」

「で、微生物に進化して、魚に進化して、陸に上がって進化してみたいなことがあってその先に人類がいて、人間の歴史が始まるんだよ。教科書に載ってるアウストラロピテクスとか石器とか。

 そういう果てしないと思われるほどの積み重ねで俺という個体が意志を持って生存していて、俺は果てしないほど昔のことを考えている。そんなこと考えてるとめまいするっていうか、足の力が抜けるんだよな」

「…………」

「それでまた続いていくんだよこっから先もずっと、ずっと。そこに俺はいないけどさ、その流れの中に俺はいたんだよな。

 この途方もない感じが不安だわ」

「俺とお前の不安を映画でたとえると、俺の兄ちゃんが部活で撮った低予算の映画。もう映画っていうか動画だよ。

 お前のは、ハリウッドの技術を駆使してつくった5部作の大巨編。リメイクもされるでしょう」

「いや、種類がちがうだけで不安の大きさは変わらないよ」

「心のスケールはやめて」


おわり

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