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読書 日本企業の勝算

30.40年前はJapan As no.1など、日本企業がもてはやされた時期があったが、昨今はGAFA、BATなど米中企業に押されている。これは、データテクノロジーに関連事業の遅れが影響している。この辺りの話は巷で話題になっている本、「シン・ニホン」で詳しく書かれているような内容ではあるが、その前に手に取ったのが本書である。

概要

日本はOECD諸国に比して企業の生産性が低いと言われている。何故か。

生産性は、本書では企業規模と正の相関があるようである。大企業の方が経営資源が豊富であり、分業化が進んでいるため、各自得意分野の仕事に注力できるため。つまり、国というマクロな視点で見た時には大企業の比率が生産性に影響を与える。そして、日本はこの中小企業比率が生産性の高いアメリカやドイツと比べて格段に高いのである。何故、中小企業が多いのか。

これは中小企業優遇の制度があるため、会社を大きくするインセンティブが働かないためである。

従って、中小企業を大企業化させることが制度上、併せて経営者のマインドセットも変えていくことが重要と述べている。

生産性について

生産性=付加価値総額 / 総人口
労働生産性= 付加価値総額 / 労働者の数
生産性=労働生産性×労働参加率
生産性は3つの要素で構成
人的資本の生産性 時間や人数
物的資本の生産性 資本を使う、器械を買う
全要素生産性   上記二つ以外、ビジネスモデルや教育、ブランドなど

結論からいうと、日本がアメリカやG7諸国より生産性低いのは全要素が弱いからである。
なぜ全要素生産性が日本は弱いのか。

それは、

日本の経営陣は勉強不足である。海外の経営者は、MBAなど学んで経営を行っているが、日本の大多数を占める中小企業経営者は、経営の勉強をきちんとせず行っていることに起因している。日本の経営者は、日本の市場の特殊性など外部要因のせいにすることがあるが、日本の経済は原則通りに動いているため単なる言い訳である。現状、日本で起きていることは経済学で説明つくとのことである。

中小企業優遇の政策が生産性に悪影響

中小企業支援は人口増加フェースでは生産量が増えるから問題ないのだが、そのフェーズではないと非効率な産業を生み労働生産性が犠牲になる。中小企業は雇用を創出するため、生産性が犠牲になっても経済自体が大きくなっていけば、生産性のマイナスを埋め合わせることができるため容認できるのである。(簡単に言うと、人口または経済拡大フェーズでは失業したとしても起業することで自分で自分を雇用することが可能なため)

上記のため、経済拡大フェーズでは中小企業を守ることが生産性を犠牲にしてもプラスであるため、中小企業への優遇措置を設定することで中小企業を増やす(共有を増やす)ことに国は力を入れる。また、この中小企業の優遇措置は分かりやすいように形式的にしている。(資本金や従業員数など)

中小企業の優遇措置
・法人税率の軽減
・欠損金の繰越控除
・欠損期の繰戻還付
・交際費課税の特例
・投資促進税制
・少額減価償却資産の特例
・固定資産税の特例
・研究開発費税制
・消費税の特例

中小企業の経営者としては、上記のような制度の利用のため形式的な要件を満たすインセンティブが、会社を大規模にするインセンティブより大きくなる。従って、会社規模を優遇措置が受けられるギリギリの規模まで大きくしそこで成長を止めている会社が多い。

海外も中小企業優遇する措置があるが、どのようにしているのか。例えば、ドイツは形式要件が500人以下と割と数字が大きめだが、一方で日本の基準は製造業300人以下、サービス50人以下のようにドイツよりも小さいためその利用のインセンティブよりその規模より大きくしないということである。
企業規模を大きくしないので専門化が進まず、生産性が悪くなる。

賃金と生産性の相関関係

生産性が低いのは低い賃金からも影響しているという。
PISA(学力テスト)の成績は日本は世界3位であるにも関わらず、平均賃金は安く上位10位ほどである。このことから言えるのは、優秀な人材が日本国内では安く使われているということである。そして、これの何が不幸かというと、賃金が安いということは中小企業でも優秀な人材を雇用することは可能である。これは中小企業にとってはいいのかもしれないが、雇用された側からすると決していいことではない。会社の規模が小さいと専門特化できないため、結果生産性がダウンするし、規模を一定以上に大きくする気がない経営者の下で優秀な人材を囲っておくのは日本全体で考えると相当な損失である。

また、中小企業側のマインドも悪循環になる。

賃金が安い
→優秀な人間のコスト安で雇用できる
→機械化インセンティブなくなる
→ビジネスモデルの変更を模索しない

この循環はマルクスの資本論から考えても、可変資本から不変資本への移行により超過利潤を大きくする(生産性のアップ)にも反している。

経営者の質と生産性

日本の中小企業経営者の質が良くないため、世界と比して全要素生産性が低いと冒頭で述べた。これは、日本は起業コストが安い(1円でも創業可能)ので零細企業が数多く生まれやすいという規制的な面もある。創業から何年以内にこのくらいの規模になるなどの制限もないため、零細企業の数が多い。そのため、中小企業の経営者であればだれでもなることができることにも起因している。
また、中小企業の経営者の質が悪いことは生産性の話にとどまらない。
前述の通り、優秀な人材を宝の持ち腐れにする可能性がある(小規模なので会社の付加価値小さいので教育ができない、新商品を発明しても営業マン不足(リソース不足)のため業績などを大きく伸ばせない、目先の利益に走るので最低賃金が安くて中小企業への優遇が手厚いため多少生産性が悪くても生きていける)。
こればかりではなく、新しいテクノロジーのキャッチアップも疎かになっている人が多いと思われる。これによって、新しいテクノロジーのことについては導入せず、従来のオペレーションで回そうとする。
実は、これはこの会社が生産性を低くするだけではなく、新しいテクノロジーを開発するベンチャー企業が育たないということにもつながる。なぜなら、日本の企業数の大半が中小企業であり流行りのSaaSモデルなどはまさに顧客数(N値)が重要なのでこの中小企業のマーケットがないとなるとかなり厳しい事態となる。

最後に

生産性問題については、企業規模や賃金などの話を出したが、やはり教育で何とかするしかないのである。(全要素生産性)

というのも、生産性が上がらない理由について述べられており、ポイントは以下の3つである。

・生産性の概念が不明
・生産性を測る方法が分からない
・生産性を測る時間がない

これらを現状の中小企業の経営者が身につけられれば、生産性から波及する問題が幾分か解決されるのではないだろうか。生産性の概念は付加価値生産性など、経営指標を少し覚えれば定義できるのではないだろうか。(曲がりなりにも経理や財務などもやってきたのであれば、すぐ身につけられるものであると思う)
また、生産性の測る方法や時間については、専門のコンサルタントを雇う、そのようなリソースがないなら、それこそ補助金や助成金を新設するなどやりようはあるのではないかと思う。

今後、弊社も後継者問題に喘いでいる企業の事業承継等も考えているため、この生産性や測る指標、また自分自身経営に関する必要最低限の知識の取得と活用をするために精進せねばならない。

最後まで目を通して頂きありがとうございました。いいなと思うかことがあれば「すき」を押していただけると大変励みになります。