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自然観察指導員講習会を受けて

6月1日と2日にかけて北海道小樽で開催された日本自然保護協会(NACS-J)主催の自然観察指導員講習会に参加してきました。

自然観察指導員講習会とは
「自然観察から始まる自然保護」を合言葉に、1978年に日本自然保護協会が始めた自然観察指導員を養成する講習会のこと。約40年間開催し続け、養成した自然観察指導員は3万人近くにものぼる。この研修を終えた自然観察指導員達はそれぞれのフィールドで自然観察会を開催したり自然の調査を行ったりしている。
日本自然保護協会(NACS-J)HP

カタクリの会と自然観察会

両親が自然観察指導員講習会を私が生まれる前から受けており、NACS-Jから送られてくる会報も知っていたため、講習会の存在はかなり前から知っていました。そもそも両親自体が約30年前にカタクリの会を発足し、毎月1回西和賀をフィールドに奥羽自然観察会を開催していましたので、自然観察とは私にとってとても身近なものでした。歩けない頃は母に背負われて連れられ、歩けるようになってからは中学になるまで毎月強制参加の日々でした。

自然観察会というのは、日本自然保護協会曰く、動植物の名前を覚えるのが目的ではなく、自然の微妙な違いや、自然に対する観察眼を養うというのが本来の目的ですので、10m歩いては止まって自然の神秘を眺め、また10m歩いては別な自然を観るというのは、子供だった私にはとても退屈で、自然観察会が正直あまり好きではありませんでした。楽しみといえば、普段食べられないカップラーメンがお昼に食べられるということくらいだったのが思い出されます。

両親からカタクリの会を発足した理由を聞いたのは、ずいぶん最近のことです。30年前、まだ西和賀を始めとする東北は開発の時代で、奥羽山脈を横断する道路の開発計画があったり、ブナの天然林がどんどん伐採されていた時代でした。

ブナの森が分断され、多くの動植物がロードキルや絶滅に瀕している現状を打破するべく、父が中心となり「グリーンベルト構想」というのを提唱します。

グリーンベルト構想とは
希少な野生生物の生育・生息地等を保護・管理する保護林を中心にネットワークを形成する「緑の回廊」を設定し、野生生物の移動経路を確保することで、より広範かつ効果的な森林生態系の保全を図ること         
林野庁 緑の回廊 

今でこそ受け入れられ国の政策にもなっている構想ですが、この構想をある会議で父が提案した際、見識のある先輩学者たちから「そんなこと1人でできるわけがない」という批判の声が相次いだといいます。

このまま西和賀に戻って錦秋湖に沈もうかと思うくらい父はがっくりしたようでそのまま家路に着きます。

家路に着くと、ちょうどその時岩手で行われていた自然観察指導員講習会を終えて意気揚々としている母がいたそうです。

それまで自然に全く興味のなかった母が、父に勧められ、自然観察指導員講習会に出てきて、自然観察の魅力に取り憑かれたようだった。

その晩、父から話を聞いた母が、2人で思いついたのは、できることから始めようということでした。1人の力では変えられないが、自然の大切さが分かる人が増えれば、世の中は変わる。そう信じてカタクリの会を発足し、翌年から奥羽自然観察会と題して、西和賀の自然の大切さを1人でも多くの人に伝え、今日まで30年来、地道に活動をしてきました。

日本自然保護協会 会報 活躍する自然観察指導員 「カタクリの会 代表:瀬川強さん」

なぜ自然観察指導員講習会を受けようとしたのか

奥羽自然観察会に強制参加だった中学までの12年間を終えた私は、それ以降ほとんど自然観察会に参加しなくなります。学校のクラブ活動が忙しくなったのも理由の1つですが、やはり自然観察というのが自分の興味から外れて行きました。ポツポツは参加していたものの、自然観察に興味が出たのはここ最近の話です。友人に西和賀の文化や歴史を話す際、その大元になるのは、西和賀の豪雪だったり、春の爆発力だったり、夏のブナ林の涼しさだったり、秋の紅葉1枚1枚の美しさだと気が付きました。しかし、自分がその自然をどれだけ知っているかと聞かれればほとんど何も知らないのが現実でした。オオジシギが毎年来鳥してくれる理由だったり、ミチノクエンゴサクとカタクリの群落が見られる喜びだったり、それらがすべて合わさってここの地域性を形作り、自分がそのことを全然語れないことにとてももどかしさを感じてました。

もっと、西和賀の言葉にできない自然の価値を学ばなくてはいけない。またそれをきちんと言葉にして伝えていかなければならない。そういう思いで、母が自然観察指導員講習会を受けて29年目にようやく受けることを決意したわけです。

昨年、結婚したのも大きな理由の1つです。西和賀の自然の大切さを発信しながら、自分たちもここで生きていかなければならない。自分が会社員を辞め、妻も一緒に足並みを揃えるべく、一歩一歩西和賀の自然を学びながら一緒に歩いていけるというのは喜びであり、向いている方向が同じというのはとても力強い。

満を持して自然観察指導員講習会へ参加という流れになりました。

第552回自然観察指導員講習会 in おたる自然の村おこばち山荘

毎月全国各地で開催されている自然観察指導員講習会ですが、なかなか地元での開催の頻度は少ない。今回我々の一番の近場で東京か北海道だったため、迷わず北海道を選びました。

個人的に北海道はバイクで何度か旅をしており、久しぶりの北海道は空の広さと、エゾハルゼミの大合唱で迎え入れられました。

白樺やトドマツ、エゾマツの森が北海道に来たんだということを知らせ、苫小牧のウトナイ湖では西和賀では滅多に聴けないオオジシギの声を聞きました。

自然観察指導員講習会はおたる自然の村おこばち山荘という、ちょっと小高い山の上にあるキャンプ場兼研修場で開催されました。

定員は40名でしたが、今回の参加は35名程度といったところ。もちろん北海道の方が多く、どの方も自然を愛している方たちばかりでした。バックカントリーのガイドをしている方、環境アセスメントを生業にしている鳥に詳しい方、動物のロードキルについて研究している大学生や、なかにはギンリョウソウというマニアックな植物の研究をされている方もいて、話しているだけでいろいろ勉強になる方ばかりでした。

普段の自分のフィールドとは違う話が聞けるというのは、この講習会の魅力であり、名刺交換をたくさんしましたが、ネットワークを築けるというのがこの講習会の醍醐味なんだと思います。

「自然の魅力を伝えられる人間になりたい」

「環境教育に興味がある」

「自然を観る視点を養いたい」

等々参加者の理由は様々です。

自然観察指導員講習会は、まず、森のスケッチを描くことから始まります。

遠くから森を眺めて、みたままに絵を描いていきます。

絵を書き終わった後、講師の方から今度は描いた森に近づいて見てみるように言われます。白樺とトドマツかエゾマツの森で、奥は薄暗いなぁなんて思って観察していましたが、近づいて見ると、森の奥は思ったより暗くなく、木の下の方にはササしかないと思ってたら、スミレやフキといったたくさんの植物があることに気付かされました。

その後、今度は実際に森に入ってみます。森に入ると観察していたより林の中は明るく、倒木もありました。一つに木に山ぶどうやツルアジサイ、ツタウルシといった多くのつる植物が絡みついていることもわかりました。
また、森のなかに入ると風が吹いて涼しかったり、枝を踏みしめるポキポキした音も感じられました。他の方もいろいろ感じられていたようで、次々と感想が出てきます。

「一つの森を遠くから眺めたり、近くで観察したり、実際に森に入って、その森がどういう森かをいろんな角度から見ることが大切なんです」

ここで得られた気づきは、観察者と一緒に感じる大切さです。1人だけだと得られる感想には限界がありますが、この人数が増えると、それだけ感じ方も増えるので、一つの森が奥行きのある立体感を醸し出してきます。得られた大切な気づきです。

トドマツとエゾマツの違いを教えてもらった。トドマツの木肌はツルっとししているのでトドが海から上がるとツルっとししていると覚えるといいよと教えてもらった。

かつて、自然観察指導員講習会は2泊3日で行われていたそうですが、近年は1泊2日に短縮され、フィールドワーク、座学、ミニ自然観察会の3本柱で行われます。

テキストのコラムにグリーンベルト構想のことが書かれてたあった。妻とこのコラムを読むのはとても感慨深い。

特にも最終日に行われるミニ自然観察会は1人5分の持ち時間で模擬自然観察会を行うというものです。

もちろんそれまで、様々な角度から、自然観察のアプローチを学ぶ時間があります。基本的には、“違いを見つけること”、“特徴をみつけること”、“感じ方について”、このあたりが自然観察の本質だと思いました。

特徴のある植物に名前をつけたり、落ちている葉っぱと同じ色のものを見つけたりといったネイチャーゲームをしながら、アプローチの仕方を学んでいきます。

ちなみに、私はホウノキに名前を付けるという自然観察会を行った。大きな扇を連想した方が王様の寝室という秀逸な名前をつけてくれた。

最後のミニ自然観察会は他の方のを見るのがとても勉強になりました。

視点、視座、感性、他の方のセンス・オブ・ワンダーに触れるのは面白く、また聞きたくなりました。

改めて自然観察指導員講習会に参加して思ったのは、植物の名前や種類を覚えるのはそれほど大切なことではなく、「どうしてこうなっているんだろう?」という当たり前でだけど不思議なことに疑問を持つということなんだと思いました。

そのことがやがて、多くのことに興味を持つことに繋がり、なんでここにはこの植物がないんだろうとか、なんでここではこの鳥が鳴かないんだろうかとか、どうしてあそこに人工物が立っているんだろうかとか、自然観察をすることで、いろんなことに興味関心が出てきます。

まさにこのことが、「自然観察から始まる自然保護」だということを身を持って体感しました。

そしてこれから

無事に夫婦で自然観察指導員の資格をとったわけですが、これから具体的にどう動いていくのかは見えていないことばかりです。しかし、やるべき方向としては、両親が30年来地道に活動してきたカタクリの会をまたこれから繋いでいくというのはミッションの一つになりそうです。

講習会の最後で、レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」の言葉が引用されていたのが印象的でした。

子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。残念なことに、わたしたちの多くは大人になる前に澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。
 もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない<センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目をみはる感性>を授けてほしいとたのむでしょう。
 この感性は、やがて大人になるとやってくる怠慢と幻滅、わたしたちが自然という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。
レイチェル・カーソン 『センス・オブ・ワンダー』

生命の星、地球の神秘と、足元(西和賀)にある輝きの尊さを近くにいる人と見つけ共感しあい、多くの人に伝えて行きたいと帰路の車の中で妻と話したのでした。

zen

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