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組織・人事コンサルティングの難しさ ー『THE TEAM 5つの法則』を読んで

NewsPicks Booksの書籍を読むのは『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』以来2冊目。二冊とも割と似たような内容の印象を持った。『モチベーション革命』は個人の能力開発、本書は組織の能力開発というテーマの違いはあれど、大学生や新入社員あたりの若者に向けて「会社と個人の関係を変えていく必要がある」と訴える意図は同じように思える。全体的に自己啓発的である。
さらに言えば、やたらと文字が大きく読み進めやすい点や、近年の出版にもかかわらずAmazonでの評価者数が妙に多いのも似通っている。

さて所感だが、『モチベーション革命』同様に良くも悪くも”軽い”本である。簡素な内容ゆえに手軽に簡潔に読める。”チーム”の法則を5つの観点から捉える試みだが、その整理自体はわかりやすく、個々のフレームワークも理解しやすい。この分野を初めて読む人にとっては、理解のとっかかり程度にはなるかもしれない。

一方で、”チームを科学する”というキャッチコピーの割には、挙げられるフレームワーク自体の科学的根拠に説得力を感じない。巻末に産業心理学等の学術理論の簡潔な紹介がついており、本書の理論はそれらをベースにしたということらしいが、それらの理論からフレームワークが生まれる過程や関係性に関する記述は乏しい。このあたり、”科学”を自称するには、説明が不足している。

とはいえ、著者は組織人事コンサルタントである。アカデミズムを突き詰めるのは学者の仕事であり、ある程度主観と経験に基づいた理論になることはやむを得ないともいえる。むしろ、理論の客観性はどうあれ、泥臭く地道な現場対応の中で得られるであろう実践の水平展開にこそ、コンサルタントが本を出す価値はある。なぜなら数か月単位の短期間で実際の企業に対しトライ&エラーを様々な業界で行っている強みがあるからだ。

ところがである、この本には著者が普段現場で行っているはずのコンサルティングの実例がほぼ載っていない。逆に根拠事例として載っているのはサッカー日本代表やバレーボール代表、AKB、何より最も紙面を割く事例は自社(リンクアンドモチベーション社)である。さすがにあまりにも特殊すぎる。これでは結局読者における取り組みの参考にはならない。

自社の事例についても、コンサルファームというのは”成長”と”付加価値提供”の価値基準が構成員に徹底的に浸透している稀有な組織なわけで、ハナからモチベーションが高く、組織開発の容易さは事業会社のそれとは比べ物にならない。

上記を補うためにアカデミズムに寄せようとした結果が、恐らく”チームを科学する”というキャッチコピーであったり、オマケ程度でついている巻末のサマリーなのだろう。だが、学術を持ち出すに割には自論との関係性は明確になっておらず、学術を利用した権威付けに留まっていると言わざるを得ない。

そもそもなぜコンサルにもかかわらず現場事例が一つも出てこないのか。

完全な推測だが、本当の意味で組織変革(いわゆるチェンジマネジメント)の成果を出すまで支援できたことがないのではないかと思う。
これはリンクアンドモチベーション社に限らず、世の組織・人事コンサルティングサービスを提供する会社全体に共通する話だが、中小・零細企業ならまだしも、大企業において真に組織風土・カルチャーを変えるまでコンサルティングを続けられるケースは少ない。組織変革とは常に事業そして経営のMVV・戦略・計画・オペレーションと密接に結びつくものであり、人事部門だけでなく各事業部門と密接に連携が不可欠だからだ。
こういった組織変革については、結果としてのKPI・KGIも非常に置きにくく、定性的な成果(の可能性)を抽象的に置くことで終わるケースも多い。驚くことに成果の振り返りをしない、あるいはさせてもらいないことすら普通にある。よって、組織開発の領域において成果の確認やその因果関係を明確にできていないことは正直なところ非常に多いと思う(無論、だから成果を明確にする必要はない、ということではない)。

コンサルタントの単純な力不足の可能性ももちろんある。要は問題の構造を整理しきれていない、具体策を明示しきれないといったケースだ。
大抵、こういった組織の問題点は様々な領域にまたがる問題が縦横に絡み合っている。ゆえに起きている現象の網羅的な抽出はできても、そこから真因を特定するに至らないことが多い。
典型的な失敗例としては、とにかく網羅的に課題を挙げて何となく課題を分析した気になるも、はっきりとした言語化まではできておらず、経営から現場まで共通認識が持てていないような状態。そういったケースでは、課題が不明瞭なために施策のピントがずれ、具体的な施策の検討に入るほど検討が散らかり尻すぼみになっていってしまう。また、やるべきことよりできることをやってお茶を濁してしまったりしていることも多い。

色々書いてきたが、つまるところ意地悪な言い方をすれば、組織開発において本に書けるほどのオリジナルな施策とその成果を出せていないのではないか、とついつい邪推してしまう。

いずれにしても特に組織開発領域は、人事制度のようなハード部分でないソフト領域であり、抽象度が高く、その成果が見えにくい。ゆえに有象無象のコンサルタントが提唱する都合のよいフレームワークを安易に参照することには注意が必要と感じた次第。

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