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森や海が書く本とは?(SFプロトタイピング)

 東京大学大学院情報学環で開催された、「新しい本」寄付講座SFプロトタイピングワークショップに参加してきました。テーマは、「2050年の新しい本を検討する」です。私たちのグループは、「人以外に向けての本」をキーワードにして各メンバーが執筆した記事をまとめて雑誌を制作しました。
 私は「森や海が書く本とは? – 彼らの”本”は音を通して読まれる –」という題で、森や海の生物に関する架空の発見を記事にしました。以下が本文になりますので、ぜひご覧ください(内容はフィクションです)。


 古代人が剥いだ木の皮に文字を書き始めてから現代に至るまで、本が「情報を書き読むもの」であることに変わりはない。しかし歴史を顧みるとその形態は多岐に渡り、人々は紙に限らず木や布や粘土板、(今世紀では)スマートフォンやタブレットまでも本として扱ってきた。

 近年、生態学、特に音響生態学の調査から、人々だけでなく自然も”本を書き読んでいた”ことが分かってきた。私たち人間が気づかないうちに、自然も情報を記録し伝達していたのだ。本記事では、森と海で発見された”本”をそれぞれ紹介していきたい。両者に共通するのは、情報が自然物の配置として書かれ音を通して読まれていることだった。

01 【森】 葉の配置で書き、風で読む

 S県のとある森林では、常緑樹の葉が風に揺られて擦れ合う音(いわゆる葉擦れ)が、周囲の木々や動物に対してある種の情報を伝達しているとされている。一説では、木は土壌の栄養状態に応じてどの葉を落とすかを決めており、残った葉が風に揺られた際に生じる音の大きさや高さ、音色を周囲の木々や動物が聞き取って、森林全体で土壌の状態に関する情報を共有しているそうだ。

 この森林では独特の自然条件により、一日の中で風が吹いていない時間帯は数時間しかなく、風速や風向は年中通してほぼ一定である。そのため、葉の配置を操作すれば意図した葉擦れを起こしやすいことから、木々にこのような”本”を書く文化が生まれたと考えられる。

02 【海】 石の配置で書き、波で読む

 F県のとある海岸では、鳥の群れが波打ち際で石を拾ったり落としたりするという不思議な現象が観測されている。この海岸は小石で覆われており、波が打ち寄せては引くたびに小石のころころ転がる音が鳴る。一説では、鳥はその日餌が取れた場所に小石を運ぶことで、その場所での餌の取れやすさを小石の数によって記録しているそうだ。別の日に同じ海岸で餌を探す際に、小石の転がる音が大きい場所を狙って探すようにしていると考えられる。日頃から鳴き声を使った音のコミュニケーションに長けている、鳥ならではの文化といえる。


 森や海の生物も、彼らの環世界の中で、彼らなりの方法で”本”に情報を書き読んでいたようだ。その本を人間も読めるようになれば、環世界をまたがるコミュニケーションの実現に一歩近づくはずだ。

Words: Ekito
Photography: Canva AI

 議論や執筆を通して、人間とは異なる生物の環世界を想像するきっかけを得られました。今回執筆したアイデア以外にも、「靴が地面を読むとしたら?」「空気が砂漠の模様を読むとしたら?」のように無生物を対象にしたアイデアも生まれ、非常に広がりのあるテーマでした。
 "彼ら"のコミュニケーションの媒介となるのは何なのか。人間のコミュニケーションには基本的に言語が必要ですが、"彼ら"の間にあるのは言語以外の何かかもしれません。その何かを人間が理解するには言語化が必要かもしれませんが、言語化せずにそのまま感覚的に理解できるようになる未来もあるかもしれません。人間同士でも、言語以外の何かを通じてコミュニケーションすることがあるように。

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