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マッチングアプリで爆速恋愛した話⑥変化、あるいは蛙化。

【前回までのあらすじ】
孤独に耐えかねてマッチングアプリに登録した私。初めてマッチングした、年下の純也さんと一月も経たないうちに交際することに。

***

純也さんとのお付き合いが始まって、私は最初に念を押した。それは、「ゆっくり進んでいきたい」ということだった。今までの経験から、急に距離を詰められると幻滅してしまうことに気付いたからだ。それがなくとも、恋人ができるのは久しぶりだったのでゆっくりと関係を深めていきたかった。

マッチングアプリで出会い、たった2回のデートで交際に至った我々は、恋人という肩書を手に入れてもなお他人に近い。未だお互いを知るフェーズなのだ。

「純也さんは、彼女にされたら嫌なことはある?」
そう聞いたのは、好きなタイプを聞くよりもNG項目を聞く方がよっぽど関係がうまくいくと考えているからだった。
加点を取るより減点を減らす方がハードルは低い。

純也さんは少し考えてから答えてくれた。
「強いて言うなら、俺に対して何か嫌なことがあったら伝えてほしい。ずっと溜め込んで、ある日急に別れを告げられたりする方が嫌だ。改善のチャンスが欲しいかな。」

彼らしい答えだなと思った。

「でも、そういうのって言われて傷つかない?」

「うーん、俺は大丈夫。だから気にせず言ってほしい。」

あぁ、謙虚なのか自信の表れなのか分からないが、そう言えることはすごい。私にはできないことだ。
もし今後、純也さんに思ったことがあれば臆せず伝えよう。そう決意した。

こうして、お互いに思いやりながら交際がスタートしたが、やはり恋人同士になって変わったこともあった。

まず、純也さんは全然落ち着いてなどいなかった。
交際する前はたしかに、表情があまり変わらず大人びた印象だったのだが、それがガラリと変わった。
私への好意を表情や仕草にふんだんに滲ませ、甘えたような声を出し、手を繋いだり腕を絡めたりしてきた。

一方の私も、純也さんに抱く感情や、それに付随して彼に見せる態度が変わっていった。
出会った頃の舞い上がった気持ちが一気に落ち着き、文字通り地に足がついた心持ちになったのだ。純也さんとは反対に表情は一定で、無愛想で、自分から手を繋いだりもしなかった。

むしろ、彼に甘えられると心がもやもやした。
隣を歩く彼が指や腕を絡めてくる度に「あぁ、またか…」と密かに嫌悪した。
この現象には覚えがある。蛙化現象だ。

簡潔に言うと、「両思いになった途端、相手が気持ち悪くなる」現象で、その原因は自己評価の低さとも言われている。

純也さんに感じる、ほのかな嫌悪感。それがこの現象によるものならば、時間が解決してくれると私は思った。
そうではなかったとしても、きっと久しぶりの交際に心が追いついていないだけだと、そう言い聞かせた。


もちろん、嬉しい出来事もあった。

純也さんとの交際がスタートした頃には既にクリスマスが控えていて、二人で話し合った結果、純也さんの家に泊まることになった。
ゆっくり進みたいと言いながら早々に外泊の予定を立てるのは気後れしたが、純也さんが無理に手を出してくるとも考えられなかった。
それに、私は人混みが苦手だったので人が溢れるクリスマスの街には必然的に出かけることはできなかった。

その際、純也さんは「必要なものを買い揃えておく、当日大荷物にならないように着替えなども事前に預かる」と申し出てくれた。
必要なものとは、化粧品や歯ブラシのことだろう。わざわざ用意してくれるのはとても嬉しかったし、自宅に置いておくということは他の女の影もないのだろうと風変わりな安心までした。

クリスマスケーキも彼の近所のお店で予約していてくれたし、夕食は一緒にステーキを食べようと言い、わざわざ鉄製のフライパンを購入してくれた。

私はすっかりその日が楽しみになり、純也さんへ渡すプレゼントに頭を悩ませながら日々を過ごした。
きっと、クリスマスを機に二人の愛情も深まる。
そう思った。


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