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マッチングアプリで爆速恋愛した話⑤告白

【前回までのあらすじ】
孤独に耐えかねてマッチングアプリに登録した私。初めてマッチングした、年下の純也さんと紅葉狩りに来たはずが、長蛇の列に並んでいた。

***

その日は都内の小さめの公園へ出かける予定だった。小さいとは言え紅葉スポットとしてはそれなりに有名らしく、入園料がかかるタイプのところだ。コロナ禍ということもあり、予約制だったりするのではないかと思ったが、純也さん曰くそういったものは必要ないとのことだった。

が。

いざ当日、公園に着くと入園口の前に公園のまわりを半周するのではというほどまで列が伸びていた。
その横で、携帯の画面をスタッフに提示した人が続々と入園していく様子から、予約チケットもあったのだろうと察する。
ほんのり気まずい空気が流れるが、今となってはどうすることもできず、純也さんと共に列に並んだ。

列の進みは意外にも早く、体感15分ほどで公園に入ることができた。こじんまりとした公園ながら手入れの行き届いた木々が並んでいて、心癒される景色を堪能できた。
肝心の紅葉はまだ少し時季が早かったかなという印象。紅葉のタイミングを掴むのはやはり難しい。
それでも、自然のマイナスイオンに触れながら純也さんとゆったり歩く時間は楽しかった。

途中で純也さんが携帯で動画を撮り始めた。最初は景色を捉えていたそれがふいに私に向けられて、写り込まないように思わず避ける。
「写らなかった。」
純也さんがそう言って笑うので、意図的に私を写そうとしていたことを知った。あぁ、意図的に。私を記録に残そうとしてくれることが少し嬉しくて少し恥ずかしかった。

小一時間ほどで公園を回り終え、一駅先のカフェに入る。
大きな池に面した、テラス席の広い屋外カフェだ。
「風が吹くと少し寒いね。」
そう言い合いながら、コーヒーを啜る。さきほどの公園の景色のことや、列に並んでいた時にした話の続き、目の前の池の様子などを何の気無しに話す。しかし、なんだか急に純也さんがそわそわとし始めた。
そして数分経った頃、眉間に皺を寄せながらおずおずと口を開いた。
「ごめん。ちょっと寒くて、寒暖差アレルギーのじんましん出てきちゃって…。移動しない?」
「あぁ、そうなの!じゃあ移動しようか!」
私は慌ててコーヒーを飲み干し立ち上がった。純也さんは厚い上着の上から腕をさすっている。
こんなに早く出ることになるなら、別のお店にしたらよかったのにな、と少し思った。

早々にカフェを出たので行く宛てがなくなってしまった。どうしますか?と純也さんに尋ねても明確な返事は返って来ず、とりあえず周辺を散策することに。これがいわゆる「グダる」という状況なのだが、その時は純也さんへの不満よりもこの間をどうにか繋がなければ!という焦りを感じていた。

幸い、歩いているうちに大きな神社へ出た。有名だけれど訪れたことのない場所だ。想像以上の大きさに感動した。それに、イチョウ並木が綺麗に色づいていて、先程の公園よりよっぽど秋めいていた。

二人で大きな鳥居をくぐり、お参りする。
純也さんが参拝の手順を確認してきたので、二礼二拍手一礼だよと教えたりした。

そうこうしているうちに夜になり、そろそろ解散か、もしくは夕飯を一緒に食べてから解散かなと考えていると、純也さんから電車で二駅先へ移動しないかと提案された。
「水辺の公園とかに行きたくて、この辺ならありそうだから。」と言われたが、正直意味がわからなかった。ただ、行きたいのであれば行こうと思った。

結論、移動した先には水辺の公園などなかった。再び行く宛てを失い彷徨い歩く。一日歩き回った疲れも出てきて、さすがに「グダってるな」と感じて口数も減り始めていた。

「あ、ごめんね。」
狭い道で手がぶつかって、反射的にそう謝る。その数秒後に、彼が恐る恐ると言ったかんじでつぶやいた。
「というか、手、繋いでみる?」
「えっ…、」
はいともいいえとも言えず、ただ照れ笑いをする私の手を、男の人の手が包んだ。
そこから、空気が変わった。
正直、俺のことどう思ってる?なんて質問に、どう答えればいいのだろうか。彼が抱く私へのポジティブな想いを聞かされて、どうリアクションすればいいのだろうか。分からない。恥ずかしい。嬉しい。

しばらく歩いて、彼は焦れたように意味深なことをつぶやき始めた。
伝えたいことがある、言いたいことがある、でもここじゃ…そんな事を繰り返す。
正直に言おう。分かっていた。私は恋愛ドラマに出てくる鈍感系女子ではないので。彼が私のことを好きになったことも、その想いを伝えようとしていることも。しばらく待ってみたが、踏ん切りがつかない様子だったので、渋々私はこんな提案をした。

「きっと、話がしたいんだよね?でも、ここじゃできないんでしょ?あの…正直気持ちは伝わってるから、今日じゃなくてもいいよ。また時間と場所を改めて話する?私待ってるよ。」

困った様子の私に、純也さんは申し訳なさのにじむ顔を向けた。

「いや、今がいい!」

そして、諦めたように大きなため息を一つ吐き、言葉を続けた。

「……あの、こんなところで、段取りも場所も悪くて本当にごめん。まだ会って二回目だけど、えくぼさんといると楽しいし、幸せだし、いいなぁって思って。だから、これからもずっと一緒にいたいって、そう思うんだよね。だから…」

それは愛の告白だった。
しかし、好きですとも付き合ってくださいとも言わない、彼なりの言葉だった。だから、私も好きとかお願いしますとか答えることもできず、返答に困った。最終的には「え?どう答えたらいいの?」と聞いてしまった。

その後、別れを惜しむように少し話し込み、駅のホームで別れた。別れ際、さっきの告白の煮え切らないかんじに不安が込み上げてきて、「私って純也さんの彼女?」と聞いた。

「なんでもいいよ!彼女でも相方でもソウルメイトでも…」

そうじゃなくて、と思った。
最初の頃、純也さんは落ち着いてて大人っぽいなと感じていたが、この頃には徐々に年下っぽさを感じるようになってきていた。

こうして私はマッチングアプリで爆速で彼氏ができたのであった。

【完】









で、終わったらこんな連載なんてしてないのだ。


次回、本編突入。

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